33:デートする二人
普段は寄らない小さな可愛らしい喫茶店で、クラリッサは瞳を輝かせていた。
「アルバート様、見てくださいませ、このカロリーお化け!」
「おい、店内でそんなこと言うな!」
アルバートには怒鳴られたが、見れば見るほどカロリーお化けにしか見えなかった。
分厚いサイズのパンケーキがこれでもか! とばかりに乗って、さらにその上にこれでもか! とばかりに生クリームとフルーツが乗っている。
どこからどう見てもカロリーお化けだった。
ちなみに頼んだのはクラリッサではない。その証拠にこのパンケーキはアルバートの目の前に置かれている。
じいっ、と見つめるクラリッサに恥ずかしそうにしながら、アルバートは口を開いた。
「た、食べてみたかったんだからいいだろ……一人でこんなところ入れないし、何より高くて頼めなかったし……」
ちなみに今回ハンカチのお礼としてクラリッサのおごりである。
恥ずかしそうにしながらモソモソと食べ始め、次第に目を輝かせて味わい始めたアルバートに、クラリッサはひっきりなしに激しく脈打つ振動を抑えた。
「萌え殺される……かわいい……」
「モエコロ……? なに?」
「お気になさらずに、持病です」
「えっ、病気あるのか?」
「安心してください、幸せな持病ですわ」
「なんだそれ……」
持病と聞いて慌てたアルバートにクラリッサが静かに告げると、アルバートは首を傾げながらも再びモソモソパンケーキを口に運び始めた。
可愛い。可愛いしかない。
クラリッサは自分の婚約者の可愛さにひれ伏していた。
今なら神に感謝してもいいと思ったが、それは結婚式ですることだと思い直した。まだ早い。
「わたくし、将来、この瞬間を切り取れるものを開発しますわ」
「絵を描くってことか?」
「いえ、本当に今のこの瞬間のアルバート様を切り取るのです」
「まったくわからないし、恥ずかしいから切り取るな」
「こんなに可愛いのに」
「男に可愛い言うな」
「あら今時男だ女だ言うのは時代遅れでしてよ」
「揚げ足取りするなよ」
そう喋る間もアルバートはカロリーお化けを消費していく。口の端にクリームをつけているのも可愛い。
クラリッサは可愛いのでそれをあえて指摘せず、自身が頼んだチーズケーキとブラックコーヒーに手を伸ばした。
ブラックコーヒーを飲んでいるクラリッサをアルバートが信じられないものを見るような目で見てくる。
「どうしました?」
「いや……よく飲めるなと思って……」
クラリッサはアルバートのカロリーお化けと、自分が手にしているブラックコーヒーを見比べた。
「……もしかして、飲めません……?」
「……悪かったな、子供舌で……」
高く積み重なったパンケーキで顔を隠してしまったアルバートの様子はこちらから見えない。しかし、わずかに覗く耳が赤いのがよく見えた。
クラリッサは思わず落としそうになったコーヒーカップをぐっと握り直し、静かに置きなおした。
「アルバート様」
「なんだよ……」
「百点……!!」
婚約者のあまりの可愛さにクラリッサはしばらく悶え続けた。