32:待ち合わせをする二人
クラリッサは朝からソワソワしていた。
「クラリッサさん、どうかしました?」
同級生にそう訊ねられたので、クラリッサは正直に答えた。
「今日は婚約者と放課後デートをするのです」
ぽっ、と美少女が頬を染めるのを目にしたクラスメイト達は、クラリッサ以上に顔を赤くした。
「まあ、今庶民の方々の間で流行っているものですね?」
クラリッサの通うスクールは貴族が7割、クラリッサのようなお金持ちの庶民が3割の生徒で構成されている。
こういう学校だと、スクールカーストが厳しく思われがちだが、最近の貴族の勢力が衰えていることや、幼少期から通う人間が多数なため、その頃からの友達も多いこともあり、意外と過ごし心地は悪くない。
「ええ、一度してみたかったのですわ」
「羨ましいです。私もそういうものをしてみたいものです」
ちら、と話していた女生徒が一人の男子生徒に視線を送った。その生徒はビクリと肩を震わせ、そおっと教室から出て行った。女生徒は不満そうにその後姿を見送っている。
これは女生徒の片思いか、もしくは婚約者か恋人同士で、なかなか進展しない仲に歯がゆい思いをしているのか……。
クラリッサが女生徒と男子生徒の関係を推理しながら窓をじっと覗いていると、スクールの入り口に見知った影を見つけた。
「それでは失礼いたしますわね!」
クラリッサは慌ててカバンを担いで教室から飛び出した。
タタタタッ、と普段はそれこそ貴族のご令嬢のようにお淑やかなクラリッサが軽やかに走る姿に他の生徒が驚いているが、今のクラリッサの目には入らない。
クラリッサが見ているのはひとりだけだ。
「アルバート様!」
スクールの門の前でクラリッサを待っていたアルバートに抱き着いた。
「わっ、急に抱き着くな、クラリッサ!」
「急でなければいいんですの?」
「そういうことじゃない!」
アルバートも学校帰りで、制服を着ている。おしゃれなレースなどが付いているクラリッサの制服とは違い、シンプルで動きやすそうな制服だ。
「制服姿のアルバート様も素敵ですわ!」
「はいはい、ありがとうな」
普段のクラリッサの反応で、アルバートも多少慣れた様子でクラリッサをあしらった。
その様子に少し不満があるも、クラリッサは周りからの羨望の眼差しを感じながら、鼻を高くした。
――ふふふ、皆さんアルバート様の素敵な容姿に釘付けですわね!!
実際には美青年と美少女のセットに目を奪われる人間が多かったのだが、クラリッサが知る由もない。
「アルバート様、イケメンって罪ですわね」
「お前は今日も絶好調だな」
デート前から少し疲れた様子のアルバートが、あきれた声を出したが、クラリッサはそんなことは気にしない。
「いつだってわたくしは絶好調ですわよ!」
「少し抑えてくれ!」
少しは気にしてほしいアルバートだった。




