31:気遣う婚約者
アルバートはギクリと身体を震わせた。
「な、何言って……」
「この間のわたくしが話したことを気にしていらっしゃるのですか?」
うっ、とアルバートは呻いた。――半分正解だからだ。
「その、まったく気にしていないということは、ない、けど……」
子供の頃のクラリッサを、そして今のクラリッサを哀れに思ったのは事実だ。
自分の親は貧乏だが、愛情をくれた。
アルバートとクラリッサ、どちらの暮らしがいいかと言えば人によるだろうが、少なくともアルバートは親からの愛情をもらえるほうが幸せだと思った。
この同情が、上から目線であろうこともわかっている。アルバートは無意識に自分をクラリッサより恵まれていると思ってしまったのだ。
アルバートは矮小な自分が恥ずかしくなった。
「いや、なんか……そうだな、たぶん、気にしていたんだと思う」
正直に告げると、クラリッサはその長いまつ毛を大きく揺らしながら瞬きした。
「まあ、そうあっさり言われるのもなんだか拍子抜けですけれど」
クラリッサは自身で淹れたお茶を手に取った。テーブルはないので、小さなシートの上に置いているが、別に気にしない。ちなみにアルバートの分も置いてくれている。
「残念ですけれど、わたくし落ち込む時期はとっくに過ぎておりますの」
小さな口でお茶を口に含んで嚥下する。ほっ、と息を吐いて、話を続けた。
「父が憎い感情もありますが、わたくしはそれはそれ、これはこれ、として自分のするべきことをして、自分の道は自分で作るつもりです。自分のなすべきことは見えていますので、先日の話はそれほど気にしないでください」
ただ、とクラリッサは付け加えた。
「きっと、『幼いクラリッサ』は、その気遣いを嬉しく思いますわ。彼女には自分を気遣ってくれる人間がいませんでしたから」
小さなクラリッサは味方のいない中、懸命に生きていた。
「そうか」
少し気持ちが軽くなったような、不思議な気持ちになりながらアルバートは呟いた。
クラリッサがお茶のお代わりを注ぐ。
「それはそれとして、デートはしてくださいませ!」
「あ、するんだ!?」