29:(やっぱり)突撃訪問するクラリッサ
「来たよ! ああ、来ると思ってたよ!」
「あら、以心伝心ですわね!」
「違う!!」
せっせと鉱山でいつものようにつるはし片手に働いていると、アルバートの持ち場に、クラリッサが以前と同じような格好で、ひょっこりと顔を出した。エイダも後ろについて来ている。
「だってハンカチをくれたのは「俺の働く姿を見てくれ」という遠回しのお誘いですわよね?」
「まったく違う!」
「もう、照れなくてもよろしくてよ」
「本当のことだから否定しているんだ!」
「ふふ……嫌よ嫌よも好きのうちというものですわね?」
「お前人の話聞く気ないだろ!?」
クラリッサがアルバートの話を右へ左へと聞き流しながら、持ってきた簡易椅子と簡易テーブルを広げ、のんびりとくつろぎ始めた。
「さあ、どんどん働いてくださいませ!」
「気になるよ……働きにくいよ……」
「早く慣れたほうがいいですわよ。これからもたくさん来ますわよ、わたくし」
「たくさん来る気なのかよ!」
「ほら、手が止まっておりますわよ」
「お、おま……、わかったよ好きにしろよ……」
言うだけ無駄だと感じ、アルバートは口を噤んで、作業に戻った。
クラリッサはエイダに淹れてもらったお茶をのんびり飲みながら、アルバートの母が作ったクッキーを口に入れた。
「やはりお義母様のクッキーは美味しいですわね。エイダも、はい」
「いいんですか? ありがとうございます!」
エイダの分まで用意してある椅子に座らせ、エイダにもお茶を飲むようにクラリッサは促した。
「ちなみにこの椅子、我が家の試作品なのですけれど、座り心地はどうかしら、エイダ」
「少し硬いですけど、気になるほどではないです。持ち歩くにはこのぐらいの軽量がいいですし、長時間座らないなら問題ないと思います」
「あなたしっかりした意見を言ってくれるからいいですわね。意見ありがとう」
「お役に立てたなら光栄です!」
キャッキャッと女性陣がはしゃいでいるなか、アルバートは切り出した鉱石をリヤカーに載せて、中身を隅に積み上げた。
「あら、それはいらないものですの?」
「ああ、ただのガラクタだよ。黒い石で、とりあえず捨てるにも金がかかるから、こうして放置してる」
「そうですの」
クラリッサは積みあがった石を見て、首を傾げた。
「どうかしたか?」
「いえ、特になんでもありませんわ。アルバート様、蜂蜜レモンいります?」
「いる」
クラリッサから渡された蜂蜜レモンを受け取る。
「やっぱり動いたあとに食べるのはいいなあ」
「頑張って作った甲斐がありますわ」
「これなら失敗しないから安心だ」
「まだわたくしあきらめておりませんわよ」
「まさかリベンジする気じゃないだろうな? やめろよ? やめろ」
いつになく真剣な表情でアルバートが告げるも、クラリッサは希望を捨てていなかった。
「いえ、料理は回数をこなすのが大事とお義母様が仰ってましたわ。つまり、数をこなせばわたくしでもきちんと食べられるものを作れる可能性が……!」
「美味しくできるとまでは言わないんだな」
「わたくしそこまで図々しくありませんわ」
「充分図々しいだろ!」
「アルバート様、そろそろお仕事再開なさったほうがよろしくてよ」
「くっ……わかってるよ……!」
クラリッサに口では敵いそうにない。
アルバートは大きな口を開けて最後の蜂蜜レモンを食べると、仕事に戻った。




