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【電書化】大嫌いな婚約者が理想の旦那様でした【コミカライズ】  作者: 沢野いずみ
本編

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25/55

25:幼いクラリッサ3

明日から朝夜の二回更新になります。



「――パパ、今なんて?」


 クラリッサが七歳になったときだった。父から信じられないことを言われたのは。


「跡取りが生まれたのだから、お前は淑女らしくしなさい」


 もう一度聞いてもその言葉は変わらなかった。

 クラリッサは震える唇で懸命に口を動かした。


「パパ、どうして? わたし、会社のためになったでしょう? どうしてわたしが跡取りじゃないの?」


 クラリッサにはわからなかった。クラリッサは今まで父や会社のために、頑張ってきたはずだった。


 クラリッサは楽しかった。自分の考えたものが現実に商品になるのも。それを人が嬉しそうに使っているのも。大好きな父の役に立てるのも。どれもとても楽しかった。

 会社がどうしたら大きくなるのか、最近はそういったことを考えて、父に伝えるのも、とても面白かった。


 遊ぶより父と仕事することに充足を覚えていた。

 だから、いずれ父と肩を並べて、会社を支えていきたいと思っていた。


「こういったものは男が継ぐものだ」


 ショックだった。

 今までの努力が、女だからと、たったそれだけで切り捨てられたのが。


「……どうして女じゃいけないの」

「クラリッサ、わがままを言うんじゃない」


 わがままではない。ここまで会社を大きくしたのは、ほぼクラリッサのおかげなのに、なぜそれが認められないのか。


 頑張ったのに、どうして父は一度たりとも、褒めてくれないのか。


「お前はまだ幼いからわからないんだ」


 クラリッサはぐっと大泣きしたいのを耐えた。ここで泣けば、ますます子供の癇癪で片付けられてしまう。


「パパ」

「お父様と呼びなさい」

「なんで?」

「淑女になって、立派な家に嫁ぎなさい」


 その一言で、クラリッサはわかった。わかってしまった。


 ――ああ、父は、そのつもりなのか。


 自分を、会社の足掛かりにするつもりなのか。


 クラリッサは自分に対してにこりとも笑わなくなった父を見つめた。

 わめきたいのをぐっと耐えて飲み込んで、静かに再び口を開いた。


「――わかりましたわ、お父様。わたくし、大人しくしますわ。それでご満足でしょう」


 さっきと打って変わり、言葉遣いをがらりと変えたクラリッサに、父の眉毛が少しだけ動いた気がしたが、もうクラリッサにとってはどうでもよかった。


「でも跡取りのあの子が大きくなるまで、わたくしは今まで通り、仕事を手伝います。お父様もその方がよろしいでしょう?」

「好きにしなさい」

「ええ、好きにしますわ」


 クラリッサはもう仕事をする気がなくなり、父の執務室から立ち去った。

 スタスタスタと、足早に歩いて辿り着いたのは、クラリッサの部屋の隣だ。


 音を立てないように、そおっと扉を開けて中を覗き込むと、小さなベビーベッドが見えた。

 そこに足音を殺してゆっくりゆっくり近付いた。


 中には生まれたばかりの、小さな小さな命がいた。


「ノア」


 クラリッサは小さな弟に呼び掛けた。


「……あなたの顔を見たら憎い気持ちになるかと思ったけど、そんなことなかったわね」


 ぷに、と指先で弟の柔らかな頬っぺたを押すと、くすぐったかったのか、ノアが顔をほころばせた。


「かわいい子」


 可愛い可愛いクラリッサの弟。


「跡取りはあなたなのですって」


 この家の大事な子。


「……わたし、もう必要ないのね」


 きっと、この子が生まれるまでの、つなぎだったのだろう。


 クラリッサの脳裏に浮かぶのは、小さい頃、自分をお姫様と呼んでいた父の姿だった。


 楽しかった。毎日が。幸せだった。毎日が。

 愛されていた。


 確かに、愛されていたのに。




◇◇◇




 クラリッサは王子様系男子が嫌いである。

 だって、彼らはいつ変わるかわからない。


 父のように。



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『大嫌いな婚約者が理想の旦那様でした』

コミカライズ合本版2巻

本日8/31配信されました!


今まで1話ずつ配信されていたものが
6~10話までまとまったものになります!

合本版限定描き下ろし特典漫画&未公開ラフ集が収録!

うめお先生の描かれるクラリッサとアルバート、そしてコミカライズのみのオリキャラたちもぜひお楽しみください!

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『大嫌いな婚約者が理想の旦那様でした 2巻(合本版)』


発売日:2023年8月31日



あらすじ

婚約者のアルバートがこれまで隠してきた素の姿を見たことで、彼にベタ惚れしてしまったクラリッサは、
アルバートから本気で好きになってもらうため、メイドや弟に協力してもらいながら様々なアプローチを実行する!
そのクラリッサの思いと行動はアルバートの気持ちに変化をもたらしていき……。
近づく二人の距離。
しかしそんな中、商売人であるクラリッサの父親は、アルバートとアルバートの両親を利用しようと企み…。
幼い頃のある出来事から父親を避けてきたクラリッサだが、アルバート達を守るため、
クラリッサは父親と向き合い戦うことを決意するが……。

一途でパワフルな前のめりラブコメディ!!

【合本版限定 描き下ろし特典漫画&未公開表紙ラフ集を収録!】
※本作品は『大嫌いな婚約者が理想の旦那様でした』第6巻~10巻を収録した合本版です。


各電子書籍ストアにて配信されています!ぜひお使いのストアにてお楽しみください!
よろしくお願いいたします!

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そしてそして!!

『病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?)』

コミカライズ開始しました!


開始日は9/1(金)

ComicWalkerにて連載!


なんと
17日まで毎日更新です!
(その後日曜更新)

17日間毎日更新ってすごいですよね!?
ぜひ皆様お気に入り登録して毎日お楽しみください!

コミカライズをしてくださるのは
小箱ハコ先生!
めっっちゃくちゃ最高のコミカライズなので皆様お楽しみに!

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『病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?)』

漫画:小箱ハコ

連載開始日:2023年9月1日(金)

(17日まで毎日更新!その後日曜更新)



そして素敵な「どんな話?」を1枚にまとめた漫画を小箱ハコ先生が描いてくれました!

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圧倒的美!!!!!

皆様よろしくお願いいたします!

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