24:幼いクラリッサ2
クラリッサはその後父になかなか会えなかった。前以上に父が忙しそうに動き回るようになったからだ。
「パパに会えないの?」
「パパは忙しいのよ」
クラリッサは何度も母に聞いてはがっくりと肩を落とした。
そして記念祭。この国ができたことを祝う日だ。
この日は街には多くの屋台が出て、子供はプレゼントをもらい、大人も大事な人たちと贈り物をしたりして、一日をにぎやかに過ごす。家族でごちそうを食べたりする、大事な日だ。
クラリッサも毎年父と母と仲良く過ごすこの日が大好きだった。
――今日はきっとパパも帰ってきてくれる!
そう信じていたが、結局父は帰ってこず、クラリッサは母が作ってくれたごちそうを食べて過ごした。
次の日。
「あれ?」
クラリッサが気付いたのは公園で遊んでいたときだ。子供の一人が、みんなに何かを見せて自慢しているのが目に入った。
「なに?」
「あっ、クラリッサ! 見てみて!」
その子供がクラリッサに茶色いものを差し出した。
「テディベア?」
「そうなの! 昨日パパがくれたの! リボンのところに私の名前が入ってるんだよ!」
「俺ももらった! 俺黒~!」
「私はうさちゃん。私はその場でこの子の名前を決めてリボンに入れてもらったの」
みんながみんなぬいぐるみを手にしている。
それは、クラリッサが考えたのとそっくりな、名前を入れられるぬいぐるみだった。
クラリッサの反応がおかしいことに気付いたのか、子供の一人が首を傾げた。
「クラリッサちゃんはないの?」
「あ、うん……」
「すごい人気なんだよ今!」
「そうなんだ……」
その後どうやって家に帰ったかクラリッサは覚えていない。走りながら家に駆け込んだクラリッサは、目に入った母にしがみつき訊ねた。
「ママ! パパは?」
「あら、クラリッサ。パパ久しぶりに帰って来たのよ」
母の言葉を聞くとクラリッサは昔より大きくなった家を走り抜けた。待ちなさいと言う母の声も耳に入らない。
家に帰ってきていつも父がこもっている執務室を開けると、予想通り、父がそこで書類を広げていた。
「クラリッサ、ノックをしなさい」
扉をいきなり開け放ったクラリッサの方を見もしないで、父は言った。
「パパ! わたしの考え使ってくれたんだね!」
クラリッサは嬉しかった。頑張って考えたものを父が形にしてくれたのだ。
「……あれは、試しでやっただけだ」
「でも人気出たんだよね!」
クラリッサは嬉しかった。自分を認めてもらえたようで。
「パパ、わたしまだまだいっぱいアイディアがあるの! パパの役に立てるよ!」
クラリッサは嬉しかった。だって父が大好きだったから。
クラリッサは確かに父が、大好きだったのだ。