22:経営上手なクラリッサ
「疲れた」
「素晴らしいですわ! アルバート様!」
ぐったりしているアルバートとは裏腹に、クラリッサは生き生きと輝いていた。
「初日売り上げ目標達成いたしました! 素晴らしい、素晴らしいですわ! やはり女性客相手にはイケメンです! 優しく見目麗しいイケメンがいれば間違いありません」
「お前すげえ最低なこと言ってるからな」
「経営者などそういうものですわよ」
アルバートの言葉をさらりと流して、クラリッサは再度売り上げに間違いがないか計算を始めた。
「この調子なら父の手から逃げられそうですわね」
「そうかよ」
「あの優しいお義父様とお義母様に、きちんとした暮らしをさせてあげられそうですわ」
とんとん、とクラリッサが帳簿を纏めるのを見て、アルバートがもじもじとしながら近寄った。
「あの……その……ありがとうな……」
「あら、何のお礼です?」
「俺の家のこと、考えてくれてるんだろう?」
「わたくし、自分がしたくてしただけですわ」
そうだろう、とはアルバートも思う。でもそれだけでないだろうことも、なんとなくわかっていた。
「わざわざ俺の家に来て、事業の話を親にしたのも、俺の親の意思とか、俺と親がどういう関係かとか、見るために来たんだろ。母さんのマドレーヌも置いてくれたじゃないか」
「商品にできるほどの出来でしたもの」
「母さん、小さい頃お菓子屋さんを開くのが夢だったんだって。夢がひとつ叶ったって喜んでたぞ」
「そうですの。……よかったですわ」
クラリッサは帳簿を、店に備え付けられている小さなテーブルに置いた。
「叶えられる夢なら叶えてあげた方がいいですもの。小さなことですけれど、お義母様の夢を叶える手助けができて、よかったですわ」
「本当に嬉しそうだったよ」
「マドレーヌもクッキーもよく売れましたから、お義母様に、また売る商品を考えていただくようにお伝えくださいな」
「ああ」
クラリッサは、空になった、クッキーとマドレーヌの置いてあった場所を指差しながら言う。アルバートはそれを見て小さく笑った。今日のことを母に報告したら大喜びするだろう。
「なあ、クラリッサ」
「なんでしょう?」
「お前の家のメイン事業は、ギフト系だよな?」
「……ええ」
「今回、お前が提案したのも、ギフト系だよな?」
「うちの、得意事業ですから」
「俺だって、少しは調べているんだ、クラリッサ」
クラリッサは押し黙った。
「お前の家の事業が、お前の父に代わってから、一番初めにしたのは、子供へのプレゼント商品の開発だった。はっきり言っては悪いが、とてもお前の父親が思いつかなさそうな部門だ」
クラリッサはアルバートの言葉を静かに聞いている。
「クラリッサ」
クラリッサは地面を見つめる。
「お前の家の商品は、全部お前のアイディアなんじゃないか?」
クラリッサは唇を震わせた。
「……よく、気付きましたわね」




