表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/55

21:働く二人



「いいですかアルバート様、笑顔ですわよ」

「わかってるよ……」

「ほら、にこっと、ほら、にこっと!」

「に、にこ……」

「思いっきり引き攣っているではありませんか!」

「仕方ないだろ! 意識すると引き攣るんだよ!」


 レストランのウェイターのような服装に身を包んだアルバートが、頬をぴくぴくさせていた。

 本人は笑顔を作ろうとしているらしいが、まったくできていない。


「まあいいですわ。パン屋さんでは自然と笑えているのですから、仕事している間に勝手に笑顔になっているでしょう」

「それを知るためにパン屋に来たのか?」

「あとアルバート様のコックスタイルが見たかったので。大変眼福でございました」

「正直すぎだろ」

「人間正直に生きたほうが楽しいですわよ」

「時と場合によるだろ」

「わたくしは常に正直です」

「時と場合によれよ」


 アルバートとクラリッサが弾むようなやり取りをしているのは、小さな店の中だ。


「本当はもう少し大きな店舗でできればよかったのですけど、あの少ない資金からではこれが精一杯でしたわ」

「俺からしたら充分だよ。まさか店を構えることになるとは……」

「ここではわたくしがオーナーで、あなたは雇われ店長ですわよ」

「わかってるよ」

「わたくしに傅いてくださってもよろしくてよ」

「そういうのパワハラっていうんだぜ」

「セクハラでもありますわね」

「知ってるのかよ!」

「商家として当然ですわ。最近雇用状況も改善されて、ただ雇えばいいというものでもないですからね」

「ああ、そう……」


 ただ会話をしていただけなのに、疲れた様子のアルバートを無視して、クラリッサは店内を見回した。

 小さな、アルバートが働いているパン屋とそう変わらない、こぢんまりとした店だ。

 店内には小さな工房があり、ここで蜂蜜レモンや菓子作りキットを制作できるようになっている。

 いずれは工場で生産したいが、現在の資金では無理なため、利益を上げて、事業が拡大できたら工場を手に入れる予定である。

 まずはこの小さな店からスタートだ。

 店内には、アルバートとクラリッサとエイダの三人で作った、蜂蜜レモンとお菓子作りの簡易キットがある。

 レジの横には、アルバートの母が作ったマドレーヌとクッキーも置いてある。


「さてと」


 クラリッサはポケットから眼鏡を取り出し、それをかける。


「なんで眼鏡?」

「父にバレたら邪魔されますから。アルバート様がここにいる理由はアルバイトだと言えばいいですが、わたくしはそうはいきません。バレないように変装するのですわ。エイダ」

「はい」


 エイダが茶色い髪色のカツラを手にして、クラリッサに近付いた。クラリッサはそれを受け取り頭にかぶる。


「どうですか、アルバート様。わたくしの美貌を隠せていまして?」

「その自信満々な様子はまったく隠せていないけど、パッと見はわからないな」

「なら大丈夫ですわね」


 クラリッサも、いつものドレスではなく、動きやすい、黒を基調としたワンピースに身を包んでいる。

 エイダもクラリッサと同じ格好だ。彼女も従業員として手伝ってもらう。

 クラリッサはいまだに笑顔の練習をしているアルバートの背中を優しく叩いた。


「アルバート様、頑張ってくださいませ」

「わかったよ」

「あなたの実家が自由を手にするかどうかが決まる、大きな場面ですからね」

「緊張させるなよ!」


 文句を言いながらアルバートは看板を掲げ、店の外に出た。店の呼び込みを行うのだ。

 今回の商品のメインターゲットは女性だ。

 そうなれば、呼び込みは若くて顔のいい男性が一番である。アルバートにはうってつけの役割だ。


「さあ、忙しくなりますわよ、エイダ!」

「はいお嬢様!」


 こうして初日が始まった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

『大嫌いな婚約者が理想の旦那様でした』

コミカライズ合本版2巻

本日8/31配信されました!


今まで1話ずつ配信されていたものが
6~10話までまとまったものになります!

合本版限定描き下ろし特典漫画&未公開ラフ集が収録!

うめお先生の描かれるクラリッサとアルバート、そしてコミカライズのみのオリキャラたちもぜひお楽しみください!

i00000


『大嫌いな婚約者が理想の旦那様でした 2巻(合本版)』


発売日:2023年8月31日



あらすじ

婚約者のアルバートがこれまで隠してきた素の姿を見たことで、彼にベタ惚れしてしまったクラリッサは、
アルバートから本気で好きになってもらうため、メイドや弟に協力してもらいながら様々なアプローチを実行する!
そのクラリッサの思いと行動はアルバートの気持ちに変化をもたらしていき……。
近づく二人の距離。
しかしそんな中、商売人であるクラリッサの父親は、アルバートとアルバートの両親を利用しようと企み…。
幼い頃のある出来事から父親を避けてきたクラリッサだが、アルバート達を守るため、
クラリッサは父親と向き合い戦うことを決意するが……。

一途でパワフルな前のめりラブコメディ!!

【合本版限定 描き下ろし特典漫画&未公開表紙ラフ集を収録!】
※本作品は『大嫌いな婚約者が理想の旦那様でした』第6巻~10巻を収録した合本版です。


各電子書籍ストアにて配信されています!ぜひお使いのストアにてお楽しみください!
よろしくお願いいたします!

⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

そしてそして!!

『病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?)』

コミカライズ開始しました!


開始日は9/1(金)

ComicWalkerにて連載!


なんと
17日まで毎日更新です!
(その後日曜更新)

17日間毎日更新ってすごいですよね!?
ぜひ皆様お気に入り登録して毎日お楽しみください!

コミカライズをしてくださるのは
小箱ハコ先生!
めっっちゃくちゃ最高のコミカライズなので皆様お楽しみに!

i00000


『病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?)』

漫画:小箱ハコ

連載開始日:2023年9月1日(金)

(17日まで毎日更新!その後日曜更新)



そして素敵な「どんな話?」を1枚にまとめた漫画を小箱ハコ先生が描いてくれました!

i00000


圧倒的美!!!!!

皆様よろしくお願いいたします!

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ