18:(いつも)突撃訪問するクラリッサ
「来ましたわよ!」
「突然来るのやめてくれる?」
父とひと悶着あった翌日、クラリッサはラッセンガル邸を訪れた。
寂れた玄関で自分が来たことを告げるクラリッサに、アルバートは嫌々ながら扉を開けた。
「事前に訪問を伝えるとかしないのか?」
「そうしたらきっとアルバート様はパン屋の仕事を入れてしまわれるでしょう」
「…………」
図星だったのだろう。アルバートが押し黙った。
クラリッサはまるで我が家のようにアルバートと並んでラッセンガル邸の廊下を歩いた。
「なんで後ろにいないんだ? 家主と並ぶってありか?」
「うふふ、こうして並んで歩くと、もう夫婦になった気分になりますわね」
「まったくならないけど?」
軽口を叩きながら歩いていると、応接間に到着した。
と、中から扉が開け放たれた。
「ようこそきてくださいました! クラリッサ嬢!」
「まあまあまあ、二人並ぶとなんてお似合いなのかしらぁ!!」
アルバートの父と母があからさまなおべっかを使いながらもクラリッサとアルバートに近寄った。
「相変わらずクラリッサ嬢の美しいこと! 羨ましいわあ」
「お義母様も大きな子供がいるとは思えない美しさですわ」
「まあ~! なんてお上手なの~!」
アルバートの母は上機嫌でクラリッサを硬いソファーに案内した。この家に柔らかいソファーは存在しないのだ。
アルバートの母は、実際年齢の割に若々しく見え、客観的に見ても美しいだろう。アルバートは母親似である。
対して父は並みである。どこをどうみても、その辺にいそうなおじさんだ。
アルバート自身、どうしてこの二人が結婚したのかよくわからないが、貴族同士のつながりだったりがあるのだろうと思っている。
「クラリッサちゃん、何か食べたいものある? と言ってもクッキーかマドレーヌしかないんだけど」
「あ、じゃあマドレーヌで」
さっきまで『クラリッサ嬢』と呼んでいたのに、一瞬でちゃん呼びになったことにアルバートはあきれつつも何も言わなかった。
アルバートも母と並んで茶を淹れる。貴族の男児が茶を淹れるなど、普通はありえないことだろうが、使用人のいないラッセンガル邸では当たり前のことだ。
「はいどうぞ、クラリッサちゃん。手作りなのよ~!」
お金のないラッセンガル家ではお菓子は手作りが基本だ。
「いただきます」
クラリッサが母に礼をして、マドレーヌを口に運ぶ。クラリッサが目を見開いた。
「美味しい!」
「ありがとう! お菓子作りが趣味なのよ!」
美味しいと言われて母は嬉しそうにしている。アルバートはあまり美味しさを顔に出さないから、こうして口に出してもらうと嬉しいのだろう。
「これはお店に出していいレベルですわ」
「まあ、嬉しい!」
「いえ、本当に……」
クラリッサがお茶を一口飲んだ。
「ちょうどいいので、このままお話いたしますわ。お義母様、お義父様、経営者になってくださいませ」




