15:可愛い婚約者
「一緒に販売って……どういうことだ……?」
「そのままの意味ですわ」
クラリッサはアルバートが敷いてくれたハンカチの上ですっかりくつろぎ、エイダに淹れてもらったお茶を口に含んだ。
「この間お話しましたでしょう? 私と結婚しても、借金がチャラになるだけで、その後、裕福になるわけではないと」
「あ、ああ……」
アルバートは、以前アルバートの家でした会話を思い出しているようだ。
「別の手ですわ」
「別の手?」
「ええ、別の手を考えると、申しましたでしょう?」
クラリッサの言葉に、アルバートが、あっ、と声を出した。
「別の手ってそっちの話か!?」
「そっちもどっちも、一つしかないではありませんか」
カゴに入っている小皿を一枚手に取り、クラリッサが自ら作った蜂蜜レモンを載せる。フォークで刺して口に入れると、酸味と甘みのハーモニーが口腔内に広まった。
「いやいやいや、普通そうじゃなくて!」
「なんですの?」
「そうじゃなくて! ……そうじゃなくて……」
アルバートの勢いが削がれていく。頬を少し赤らめながら、アルバートは口を開いた。
「俺への……方法の……だと思う……ねえか」
「はい?」
声が小さすぎてよく聞こえず、クラリッサが聞き返した。
アルバートは顔を真っ赤に染めながら、怒鳴るように言い放った。
「だから! 俺へのアプローチ方法を考えるってことだと思ってたって話だよ!」
それだけ言うと、アルバートはクラリッサから背を向け、皿に載せた蜂蜜レモンをせっせと口に含み始めた。
しかし、髪の毛を後ろに縛っているおかげでよく見えるアルバートの耳は、赤く染まっていた。
「アルバート様……」
「なんだよ……自意識過剰で悪かったな……」
自分の勘違いが相当恥ずかしかったのか、アルバートは振り向いてくれなかった。
クラリッサは激しく脈打ち始めた胸を、手でぎゅっと抑えた。
そして本人に聞こえないようにそっと呟いた。
「可愛すぎますわ……!」




