94話 ボルケーノカントリー
「ハワード! ねぇねぇあれ! あれがオーロンド火山?」
森の中でがるるを走らせていると、リサちゃんが興奮気味に声をかけてきた。
顔を上げて小手をかざせば、確かににょっきりと伸びる円錐型の火山が見えてくる。3000メートルを超えるガーベラ聖国の名峰、オーロンド火山だ。
ボルケーノカントリーはあの山の麓にある街だ。サンドヴィレッジを発って五日、よーやっと着いたか。
「やれやれ、今回は時間がかかっちまったな」
「半分は貴方のせいでもあるのですけどね」
アマンダたんが呆れたように言って、俺様のたんこぶを叩いてきた。
……ちぇ、湖で水浴びしてた冒険者を覗いただけなのに、二人で袋叩きにしないでよね。そのお仕置きに時間がかかったせいで予定が遅れちゃったじゃないの。
「時々思うわ、一回あんた思い切りぶちのめされればいいのに」
「毎回君たちにぶちのめされてるじゃなあい、それで勘弁して頂戴な♪」
「懲りてないから問題なのよっ!」
「リリー様の話だと若い頃からこの調子だそうですからね。まぁある意味ハワードらしいと言えばらしいですが」
「まぁな☆」
「褒めてない。ともあれ、エルマーはボルケーノカントリーに向かってるんだよね。あそこで何しようとしてんだか。これまでの経緯を考えるとろくなことじゃないのは間違いないけど」
「俺様になろうとしているらしいが、その理由がわかってないからな。ま、サイコ野郎の小説なんざ興味はねぇよ、徹底的に推敲してボツにしてやるさ」
俺様の周りの人間に近づいて、俺様の欠片をかき集めて、挙句俺様の持つ力も猿真似して。そうまでして俺様を再現したけりゃすりゃいいさ。
だが、んな表面をなぞっただけで俺様になれると思ったら大間違いだぜ。
「俺様の上辺だけを真似る程度でハワード・ロックが再現できるわけねーだろ。俺様が背負う物、向けられてる物。その全てを理解しているんだろうな、Mr.Fake」
「ん。あんたはドスケベの変態だけど、沢山の人を救ってはいるからね。大事な人のためなら、自分の身を削るのも厭わない。そこは評価してもいいかな」
「十年、ずっと傍で見てきた私が保証しますよ。貴方は最高のロクデナシです」
―ばうっ!
「がるるも褒めてくれるのかい、テンション上がってくるねぇ。美女三人からエールを貰ったんだ、おじさん張り切っちゃうぞ♡」
がるるが走る速度を上げた。さて、ボルケーノカントリーでどんなドラマが待っているんだろうかね。
ハワード・ロック物語Ⅱ~ガーベラ聖国編~もクライマックスだ。エルマーの謎を解いて、感動のフィナーレを飾りましょうかね。
◇◇◇
ボルケーノカントリーで思い出したが、リサちゃんが立ち寄りたい場所の一つだったな。
近づくにつれて、リサちゃんがウキウキし始める。目を輝かせてまぁ、可愛らしい事この上ないぜキティ。
「来た来た来た! ようやく来ましたボルケーノカントリー! 職人の街だよハワード!」
「ドウドウ落ち着いてリサちゃん、興奮しすぎて鼻血出てるよ。はいひっひっふーひっひっふー」
「出産の呼吸をしてどうするのです。ですが、職人でなくともこの光景はそそられますね」
アマンダたんも息をのんでいる。俺様達の前に広がるのは、レンガ造りの工房が無数に立ち並ぶ街並みだ。煙が幾筋も伸びていて、壮観な景色を作っているぜ。
このボルケーノカントリーは職人の街でもある。魔法具、武器防具、果ては家具に至るまで。あらゆる物を作り出す産業都市なのさ。
「俺様もこの都市産の鍋とフライパンを愛用しているが、これがまた使いやすいんだ。鍋は保温性に優れてるから余熱で調理できるし、フライパンは焦げ付かないし。汚れが付きにくいから洗い物も楽で助かるんだこれが」
「そうそう! ここの職人の腕は本当にいいのよ、是非とも見学して技術を教えて欲しいわ」
「んじゃ行ってみる?」
「職人でしたら顔も広いでしょうし、エルマーの情報も集められますものね」
「ありがと二人とも!」
事件は楽しみながら解決しなきゃな、何事にも遊び心は必要さ。
リサちゃんってばよっぽど楽しみだったんだろうな。目につく工房に突撃しては、職人一人ひとりにインタビューしてメモ書きして。時には実際に技術を教えてもらって、心行くまで職人の街を堪能していたよ。
その合間に俺様とアマンダたんはエルマーの聞き込みっと。陰険なサイコ野郎の事を聞いていると、幾人かから目撃情報を得られたぜ。
「あー、敬愛のエルマーか。数日前にオーロンド火山に向かってんのを見たよ」
「へぇ? なんか怪しい事してなかった?」
「そこまではわからんな。ただまぁ、ウロボロスが居てはエルマーも悪さは出来まいよ」
「人懐っこいドラゴンだが、人間に危害を加える奴には容赦しないからな。旅人さんも安心して過ごすといい、この街はウロボロスに守られている場所だから」
「そいつは助かるな。俺様気が小さいもんでね、カツアゲにあったらどうしようかと思ってたんだ」
おっとぉ、アマンダたんが呆れたような流し目で俺様を見てるぞぉ? だって不良に絡まれたら怖いじゃない♪
「炎の聖獣ウロボロス、数あるドラゴンの中でも最強格に居る種族でしたね」
「けど実際はかーなーり人懐っこいドラゴンなんだとさ。時々餌を求めに街に降りることもあるらしいからな、運が良ければ会えるだろうよ」
「なでなでできるんでしょうか、楽しみです。しかし、ガーベラ聖国に生息する聖獣は、皆人間に友好的なんですね」
「そいつが国の名前になってるからな。魔王がやんちゃやってる時も、サロメ以外の聖獣が頑張って守ってたようだしよ」
「人と聖獣が共存する国……素敵ですね。思わず住んでしまいそうです」
「そんなら俺様と一緒に愛の巣でも作っちゃう? この賢者ハワード・ロックと一緒になれば刺激的な毎日を約束するぜ」
「もうすでに過ごせていますよ」
「あんらまぁ、まんざらでもなさそうね♡」
俺様のバカ騒ぎを一番楽しんでるし、こっちもはしゃぎがいがあるってもんよ。
「……賢者ハワード?」
「今、賢者ハワードって、言わなかった?」
なぁんていちゃついてたらだ。急に周りが騒ぎ始めた。
一斉に俺様を注目したかと思うと、あっという間に人の山に囲まれちゃった。美女に囲まれるのは嬉しいが、野郎に囲まれるのは嫌だねぇ。
「賢者様! 本物の賢者様なんですね!」
「お噂はかねがね伺っています! なんでもガーベラを回ってエルマーから聖獣を救っているとか……!」
「ガーベラ聖国のために、大犯罪者のエルマーと戦って頂けるなんて。本当にありがとうございます!」
「あんれまー? なんかわからんけど歓迎されちゃってない俺様」
「ええ……どうしてでしょうか」
「ま、いっか♪ 俺様としては存分に目立てて超嬉しーから☆ なんか気分よくなってきたしぃ、特別サービスだ。サイン会でも開いてやるかね♪」
って事で突発的なファンサービスだ。魔法で服や道具にサインを描き、時にはハグして握手してっと。機嫌いいから野郎相手にも渋々サービスしてやんよーっと。
「お待たせー! ここの工房もやっぱ凄いわ、超勉強になる! って、あれどうしたのさ」
「どうも、ここにはハワードファンがたくさんいるようでして」
「……なんで?」
「わかりません」
「どうでもいいじゃなぁい、俺様が気分良ければ全てよしってね。ハッピーな街でサイコーよHAHAHAHAHAHAHA!」
「必要以上にうざいんだけど、殴っていい?」
「あらまぁ割とガチな声色。俺ちゃん今回何もしてないのになー♪」
結局ガッツリ一時間、ハワードファンの集いで気持ちいい思いをさせてもらったぜ。やっぱ俺様はスポットライト浴びて目立つのが一番好きだわ♪




