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78話 最低なオチ

 街長の逮捕と儀式の真相、勇者の復活により、レイクシティは混乱していたが、数日がかりでどうにか収めることができた。これにてレイクシティの騒動は完了だ。

 いやはや、まんまとエルマーに乗せられる形で終始したもんだぜ。力は俺様に遠く及ばないが、知力でうまいこと誘導するとはやるじゃないか。


「小手先の話術と用意の良さで最小限の準備をし、最大限の成果を出すか。力押しオンリーじゃない所に好感が持てるぜ。野郎でもああいうタイプは嫌いじゃないな」

「んー、けど私たちと目的が同じだったからか、してやられた感がないんだよね。本当に何なんだろうエルマーって。悪人じゃないの?」

「ですが二つの事件で共通している事は、どちらもハワードが根底に存在していることです。フウリさんの時はハワードに会いたいから、今回はハワードのように活躍したかったから。一見ちぐはぐなようで、行動理由はぶれていません」

「とことんまでのハワードファンってわけか。全く、野郎の追っかけなんざお断りなんだがなぁ」


 だが、さすがの俺様も気になってきたぜ。なんで奴はそんなに俺様にご執心なんだ?

 奴はサンドヴィレッジに来いと誘っていた。そこでサシで話そうともな。


「次の目的地がわかりやすくて結構だ、それにサンドヴィレッジとなれば……♡」

「……鼻血垂らしてる時点でろくな事考えてないでしょ」

「砂漠にある、ちょっとしたスポットなのですけど、やりたい事が大体想像できますね」

「いいじゃんかーおっさんの楽しみなんだし。さて、荷物をまとめて出て行きますか」


 もうここにゃあ用はない。てなわけで宿から出ると、うれしい出迎えが。

 赤ん坊を抱いたマーリンちゃんと、アーサーの幻影が待ち構えていた。


「賢者様、やはり出て行ってしまうんですね」

「マーリンちゃん。ああ、残念ながらな。というかお前、魂移したんじゃなかったっけ」

『この子とマーリンが落ち着くまでは消えるわけにはいかないのでな、魂のコピーをとっていたのさ』

「用意周到な奴だ。ともかく、見送りに来てくれてありがとね」

「……やっぱり、名残惜しいです。もう少し、もう少しだけここに居ては、くれないのですか? 私達、恋人同士じゃ……」


「悪いね、あくまで儀式が始まるまでの期間限定さ。もう君とはなんのかかわりのない、ナイスミドルなだけのおじさんだ」

「……残念です」

「ま、しょぼくれる事はないさ。こんな軽薄な男よりもふさわしい奴が隣にいるだろう? 何年も何年も君だけを想い続け、この地で待ち続けた、君だけの勇者様がな」

『気を遣わせて済まないな』

「野郎に遣う気なんざねぇよ。ま、彼女を泣かせる男は俺様こっきりにするこったな」

『素直じゃないな。そうだ、賢者ハワード。左手を出してもらえるか』


 言われた通りにすると、左の掌に召喚術の紋章が浮き上がった。


『マーリンを守ってくれた報酬だ、必要な時に呼ぶといい。お前にも、隣に立つ女性がいるようだしな。しっかり守ってやれよ』

「俺様の隣ほど安全な場所はないさ、ねぇ」

「否定はしませんよ」


 うーんクールな返事だ、惚れ直すぜBaby。


『ハワードさまぁっ!』


 なぁんて時にだ、俺様に向かってくる女性達の大群が。奴隷エルフちゃんと、サロメに保護されていたエルフちゃん達だ。


「もう行ってしまわれるんですか? 必ずまた来てくださいね!」

「賢者様との夜がもう忘れられなくて……また逢瀬を共にしていただければ……♡」

「あっ、思い出すだけで体がうずいて……やぁん♡」

 



「……あんた何をした? つーかナニをした!?」

「いやぁ、三晩連続で百人の相手したから俺ちゃん自慢の魔槍が火を噴きまくったぜ♡」

「ナニしてんだあんたぁぁぁっ!? だから妙に肌ツヤッツヤだったのかぁぁぁっ!?」

「だぁってぇ、何年も女だらけの集落にいたから男に飢えてたみたいでさぁ、皆一斉に求めてきちゃってぇ。そりゃ応えないとハワード・ロックじゃないでしょーよ☆」

「賢者様……最低です……」

『お前な、最後の最後で台無しじゃないか……』

「ちゃんとエチケットは守ったから安心しなよ♪ って殺気……!?」


 振り向けば、そこには笑顔のアマンダたん。拳をボキボキ鳴らす姿は仁王のよう。


「随分お愉しみだったようですねハワード」

「や、これはその、あれだ! 俺様の聖剣がちょっと魔力過多になったもんでそいつの発散をだね!」

「言い訳として最悪ですよ、なので天誅!」


 というわけで渾身のジョルトブロー、俺様の顔面に直&撃。湖まで吹っ飛ばされる、アマンダたんのベストショットだったぜ☆


―ぷおーっ!


 さらにサロメが湖から飛び出し、俺様を打ち上げる。頭から墜落して、アマンダたんに土下座する形になっちまった。


「サロメ様もお見送りに来られたのですね。状況がその、あれですが……」

「これが女が放っておかない俺様の賢者スタイルさ。ま、これで俺様に見切りはついたろ。こんなおっさんの事なんざ忘れて、心おきなく勇者とランデブーしなよ」

「……ええ。この子には私だけを見てもらうよう育てます。エルフですから、時間は沢山ありますからね」

『それより、サロメがお前に何かを見せたいようだぞ』

―ぷおっ、ぱおっぱおっ、ぱおーっ!


 サロメが鼻から水を噴き上げると、湖が光り始めた。

 濁っていた湖が見る間に浄化されていき、水底まで見えるほど澄んだ湖に生まれ変わる。水草も一斉に生え始め、生命力に溢れた湖へと変貌していた。


『水の聖獣サロメのスキル、【魂の浄化】だな。あらゆる穢れや呪いを消し去り、潜在能力を引き出すスキルだ。今後はサロメもレイクシティの発展に協力してくれるだろう』

「女性達を守る必要も、もうありませんからね」


―ぷおーっ


「また来いってか。ああ勿論、必ず来るさ。ここに俺様ハーレムがある限りな♪」

「なら二度と戻ってこない方がいいですね」

「あだだだ! 鼻、鼻ひっぱらないでよアマンダたーん」

「こうしないと、出来ないことがありますから」


 無理やり屈まされると、アマンダたんが抱き着いてきた。でもって、耳元でささやいてくる。


「今は我慢します。ですがいつかは、私だけを見てくださいね」

「これでも君しか見てないんだがねぇ」

「なら証明を」

「あいよ」


 アマンダたんの唇にフレンチキス。そしたら彼女は柔らかく微笑んだ。

 この世で俺様しか見れない表情だ。こいつだきゃあ、誰にも渡したくないもんだぜ。


  ◇◇◇


「これで、サロメの力も手に入りましたか」


 義手をかざし、エルマーは緑と青、二つの光を眺めていた。

 一つはテンペストから抽出した力、もう一つはサロメから抽出した力である。

 聖獣は体内に膨大な魔力を蓄えている。その抽出の際の副産物としてコピーが生み出され、暴走して周囲に破壊をもたらすのだ。

 本の中に聖獣の力をしまい、エルマーは目を閉じた。


「ええ、ええ。貴方の指示に背いて申し訳ありません。貴方の指示では、レイクシティの住民を皆殺しにする予定でしたね。ただ、なぜでしょうか。私にもわからないのですが……どうもそんな事をする気持ちになれなかったのです」


 空っぽになったはずの自分にも、僅かに残っている物があったのだろう。そう独り言ち、エルマーはかぶりを振った。

 多少予定はズレても、目指すべき物は変わらない。本が望む力は手に入れたのだ、気にする事はない。


「貴方が望むのは、聖獣達の力でしたね。あと残るは地の聖獣と炎の聖獣。それを手に入れれば貴方が私を、ハワード・ロックに変えてくれる」


 望む未来を見据え、エルマーは歩き出す。憧れのハワード・ロックを目指すために。


  ◇◇◇


「そうですか、師匠はレイクシティで活躍されたんですね」


 場所は戻って風の精霊の住処へ移る。

 フウリに事の顛末を聞いたカインは、師の活躍を自分のことのように喜んでいた。


『どうやら、次の目的地も決まったようじゃの』

「はい。俺達もレイクシティへ向かいます。そこにまた、師匠が残した課題があると思いますから」


 結局エアロタウンに滞在中、ハワードの課題の答えは見つからなかった。

 けどハワードが何を問い尋ねようとしているのかは、うっすらと分かっている。


「答え合わせをするためにも、そこでもう一度師匠の課題に挑まないと」

「それは分かるんだけど……私達、もう少しここに居ないとだめじゃない?」


 コハクは苦笑しながら、両腕に抱いた子供を見せた。

 一抱えもあるその大きな子供は、カインに向けてねだるような鳴き声を出す。勇者は微笑むと、


「はいはーい、いい子だね、ほらお食べー♪」

―ぴょぉぉぉ~♪


 練り餌をテンペストの雛に与え始めた。

 昨日のことである。勇者パーティの三人はテンペストの孵化に立ち会っていた。

 新たな聖獣の誕生。生きていてもお目にかかる事などまずありえない場面に遭遇した三人は、それはもう感動したものである。

 だがしかし。


―ぴゃー! びゃー!

―ぴょええええっ! ぴええええっ!

―ぴぃーっ!

―ぴゃっぴゃっ、ぴゃっ!

―ぴぴぴぃっ!


 孵化した五羽の雛の世話は、親鳥はもちろんフウリも大苦戦。てんてこまいになる聖獣と精霊を見ていられず、手を貸すことになってしまったのだ。


「孵化したてで雛も弱いし、病気になったら大変だものな。落ち着くまでは俺達も手伝いますよ」

『すまんなぁ……ハワードに育て方のノートは貰ったのじゃが、いかんせん初めての事で手際がよくなくてのぉ……賢者の弟子が居て助かったわ』

―ピィィィ……


 テンペストも申し訳なさそうに首を垂れてくる。けれど勇者として困った者を助けるのは当然の責務。相手が精霊と聖獣であろうと関係ない。


「おーい! バッタ捕まえてきたよー!」


 エサ取り当番のヨハンが帰ってきた。背負う袋には雛の練り餌に使うバッタがたんまりと入っている。

 すると餌を求めて雛が飛び出し、ヨハンに襲い掛かった。


「あだっ! や、やめっ、いだだっ! つつかないで! 頭もげる、髪の毛抜けるっ!?」

「ははは、ヨハンの髪をバッタと勘違いしてるみたいだね」

「なんだか可愛い。撫でると喜ぶし、人懐っこいし。ねぇカイン、私達に子供ができたら、あんな感じなのかな?」

「子供って、まだ早いよコハク。けどそうだね、きっと君に似て心優しい子になるよ」

「カインにも似て素直ないい子にもなるわ」

「コハク……」

「カイン……」

「いちゃついてないで助けてくれる!? いだいいだいいだいいだい!!」

『ハワードに負けず劣らず濃いのぉ汝ら』

「そうですか? 師匠に比べると影は薄いと思いますが」

『……まぁ、よいか。次の練り餌を作っておかんとな、勇者よ手伝ってくれ』

「わかりました」

「その前に僕を助けて! いだっ、いだだだだ! なんで僕ばっかりつつくわけ!?」

―ぴゃっぴゃっぴゃっ!

「完全に餌と思われてるみたい。怪我したらすぐ治してあげるから、頑張ってヨハン」

「鬼ぃ!」


 雛に飲まれるヨハンをよそに、カインとコハクは餌を作り始める。

 勇者パーティは今日も平和であった。

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