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70話 悲しい勝利(笑)

「んで、エルマーがマーリンになんか仕出かすかもしんないから、ボディガードを引き受けたと」

「さっすがリサちゃん話がはやーい♡」


 場所は変わって拠点の宿。休憩中のリサちゃんに事情を話すと、どこか呆れた様子でため息を吐かれちゃった。


「いつもの事ながら、美女の依頼を安請け合いして。それに振り回されるこっちの身にもなってみろっちゅーの」

「いっやーメンゴメンゴ♪ けど目先の美女を放置すんのは俺様の主義に反するからよぉ、君だって困ってる人見たら助けるでしょ?」

「否定はしない。けど今回の依頼者は今までのに比べて……」

「?」

「(ちらり)……しゃあ! (ちらり)っしゃあ! 勝ったぁ!」


 マーリンちゃんの板胸を見ては、勝ち誇ったように雄たけびを上げてガッツポーズ。そーいやマーリンちゃんのカップサイズ、Aだったわね。


「リサさんはどうして喜んでおられるのですか?」

「Bの劣等感が関係しているのかと、今はそっとしておいてください」


「黙れ選ばれしEの女。持つ者には持たざる者の気持ちなんて分からないのよ、こいつがCやらDやらFやらGやらでかいのばっかり連れて来る度、心臓を握りつぶされるかのような痛みを感じ続けてきたのよこっちは」

「やれやれ、俺様に需要あるんだから気にする必要ねぇってのに。いいかいリサちゃん、巨乳にゃ夢が詰まってる。ペチャパイには愛が詰められる。故に需要は無限大! 男の性欲に限界はないのだ!」


 ドゴッ!


「気持ち悪いから黙れ変態賢者」

「Nice右ストレート、鼻が潰れて匂いが分からなくなっちゃったぜ☆」


 だがおっぱいマイスターとしての主張は出来た、悔いはない。


「あの、私の護衛を引き受けていただけるのはありがたいのですが……長に話を通さなくて大丈夫でしょうか」

「大丈夫だろ? 巫女の特権で長よりも強い権限を持ってるんだしさ」

「ですが……いくら守っていただいても、私は先程話した通りで……」

「だからこそだ。その運命からも俺様が救ってみせる、絶対にだ」

「何? 何か事情があるの?」

「ああ。どっちかっていうと、エルマーよりそっちが本命さ」


 ガーベラ聖国には昔からの風習が広く残っている。そいつが悪い形で出ているのがこのレイクシティなのさ。


「レイクシティでは十年に一度、聖剣と聖獣サロメを讃える儀式を行います。太古に魔王を倒した勇者への感謝を表す儀式なのですが、その際にある供物をささげるのです」

「要は生贄って事?」

「はい……妙齢の、エルフの女です」

「……えっ、それって!」

「ああ、マーリンちゃんだ。今回の儀式で捧げられるご馳走なんだとよ」


 俺様にいわせりゃカビの生えたくだらん風習だ、命を犠牲にする儀式になんの価値もねぇよ。


「巫女に大きすぎる権限を与えられるのも、儀式までの慰安目的なのです。儀式の時が来れば私は湖底へ沈められる……そのような流れになっています」

「しかも聞いた話じゃ、儀式が始まるまであと二日しかない。それが君に残された時間でもあるんだろう?」

「はい……」

「ちょっと待ってよ! そんな理不尽な役割与えられて、納得しちゃだめでしょ! 嫌なら嫌って言わなくちゃダメ! なんで簡単に受け入れてるのさ!」

「いいのです、私が死ぬ事で人々が喜ぶのなら、この身を捧げるくらいやってみせます。それに私は、その……剣の声が聞こえるので」

「剣の声って?」


「聖剣の声です。幼いころからずっと、私を待っていたと語り続ける声が聞こえていたんです。この街に来てから、聖剣に直接教えてもらって……それを街長に話したら、サロメ様の巫女に選ばれたのです」

「……ハワード、あの子ってちょっとアレな子?」

「別に不思議な事じゃねぇだろ。魔王しかり、塔の魔人しかり、この世にゃ理屈で説明できない存在がいるんだ。勇者や賢者も超常の存在だし、意思を持つ剣が居てもおかしかないさ」

「聖獣も同じような存在ですからね。マーリンさんは剣の声が聞こえるから贄に選ばれたそうですが、貴方としては納得されているのですか?」

「納得とかの問題ではないんです。私の役目ならば、全うしなくては」


 ……随分とまぁ立派な事を言っているが、果たしてそいつは本心なのかねぇ。

 その証拠に、目が怯えているぜ。君の心の内、手に取るように分かるよ。


「ま、これで俺様達がやるべき事も分かってくれただろ?」

「うん。まずエルマーは間違いなく儀式に介入してくるから、絶対に止めなきゃいけない」

「そしてマーリンさんの救助です。何としても生贄の儀式を阻止しましょう」

「いえ、ですから私はもう、運命を受け入れていますから。そんな事をすればあなた方が危険ですから、どうかお気になさらないでください」

『あーあー聞っこえなーい』

「……あの?」


「んでリサちゃん、俺様の腕はどんな塩梅?」

「もーちょいかかるかも。新しいギミックを追加しててさ、それの調整が中々難しいんだ」

「おんやまぁ! 俺様をさらにイケメンにしてくれるアクセサリーを追加してくれるのかい、そいつは嬉しいサプライズだぜ」

「えっと、あの? 私の話を聞いていましたか? 私を助けても、あなた方には何の利益もありませんよ?」

「美女を救うのに理由が必要かい?」

「手始めに、儀式を企画している街長の所まで行ってみない? 犠牲者が出るかもしれないし、儀式の延期か中止を提案してみないと」

「まずは根回しからですね。リサさんは引き続きハワードの腕の調整をお願いします」

「任せといて! そっちもハワードのブレーキ役は任せたよ」

「かしこまりました」


「あの、皆さん、あのー……こ、困りました……」

「タダでやってもらうのはお嫌いかな? そんじゃあ、事が上手く済んだら報酬を払ってくれるかな」

「報酬、と言いますと?」

「青空の下で君の“初めて”一発頂戴な♡」


 言葉半分で殴り倒さないでよアマンダたん、君の右フックは俺様でも脳が揺れるから。


  ◇◇◇


 さて、やって来ましたる街長の家。レイクシティを取り仕切ってるだけあって豪邸に住んでやがるなぁ。


「お邪魔しまーっす、街長さんいらっしゃいますかー?」

「誰だ貴様は」


 扉を開くなり、丁度目的のジジイが居た。

 しわだらけの年老いたエルフだ。長命のエルフで老人姿とは、一体何年生きてやがるんだこいつ。


「胸には長の証である徽章、あんたで間違いねぇようだな。レイクシティ街長、テオドアだったか」

「だから答えろ、何者だ貴様。マーリン、お前がこの無礼者を連れてきたのか」

「無礼者とは失礼だな、ちゃんとノックはしたぜ」

「こっちが答える前に入る奴を無礼者と呼んで何が悪い」

「馬鹿正直に受け答えしてたら門前払い食らうだろ?」

「……マーリン、誰なのだこいつは」

「えっと、その……」


「Stopマーリンちゃん、自己紹介くらい自分でするよ。俺様はハワード・ロック、この名に聞き覚えは?」

「! 勇者パーティの賢者だと? 偽物ではあるまいな」

「この隻腕が身分証だ。御希望なら冒険者カードも見せてやるぜ」

「……本物、のようだな。かの有名な大賢者がこのような軽薄で無礼な奴だとは」

「悪いが野郎に払う礼儀は持ち合わせてなくてね、無駄話もあれだし、用件だけ伝えるぜ」



 

「敬愛のエルマーが儀式に介入しようとしているだと?」

「ですので、儀式の延期か中止を提案します。万一エルマーが介入した場合、多くの被害が出る危険がありますので」

「……馬鹿馬鹿しい」


 アマンダたんの言葉を遮って、テオドアのジジイは鼻で笑った。


「エルマーの事は重々理解している、だからと言って儀式を止める理由になどならぬ。これは千年も昔から行われている神聖なる催し、たかが一介の冒険者如きに恐れて中止するなどあり得ぬわ」

「ですが、人命の方が大事では?」

「たかが人命と積み重ねてきた伝統を比較するでない。それに問題などあるものか、儀式の日は聖剣の力がとみに強くなる、エルマー如きにどうこうできる物ではない」

「大した自信だな」

「当然だ、私は儀式が始まった頃からこの地にて守り人を務めてきた。その度に見てきたのだ、聖剣の守護の力をな。それにこの儀式は勇者様への感謝を示す神聖なる伝統だ。途絶えさせるなど言語道断、我々は勇者様の赤子として敬虔にならねばならぬのだよ」

「……そうですか」

「貴様らの力など必要ない、わかったらとっとと出ていけ。余所者ならば余所者らしく、観光でもしているがいい」

「やれやれ、そういう事ならしゃーないねぇ」


 ま、最初から期待はしていなかったけどな。長寿のジジイほど人の話に耳を傾けるはずがねぇしよ。


「いつまでも頭固いままだと時代の流れについていけなくなるぜ、パズルでもして脳みそほぐしておきなクソジジィ」

「ふん、貴様のような無礼者に言われたくないなクソガキ」


  ◇◇◇


「聞いたかいアマンダたん、俺様クソガキだってよ♪ いっやー若く見られちゃうなんて嬉しいもんだぜ☆」

「鏡を見てください、年相応のおじさんが映ってますよ」

「あらやだほんと、年相応のイケオジが映ってるわ♪」


 しっかし俺様、見れば見る程かっこいいねぇ。360度見渡してもイケメンしか映らねぇや☆ やっぱ男は四十歳から魅力にあふれるもんなのねぇ♪


「あの、賢者様。私のためなんかにそんな、頑張らなくてよろしいのですよ? 街長のおっしゃる通り、いざとなれば私一人が死んで済む行事ですし……」

「あのねマーリンちゃん、俺様根拠のない理由って嫌いなの。さっきからなんだい? 聖剣の力があるから大丈夫、自分が犠牲になりゃあ大丈夫。何が大丈夫なんだい?」

「確かに。聖剣には魔力が残っていますが、とても街を守れるほどの力は見受けられません。それに貴方が犠牲になっても、エルマーが介入の手を緩める要素は何もありません」

「それは、昔からの伝統がありますから……」

「伝統が命を守ってくれるのかい? 君の命を食おうとしているような言い伝えにそんな力があるとは思えねぇな」


「…………」

「それとさ、一つ聞いてもいい? なんで君は生きる事を諦めているんだい?」

「えっ?」

「さっきから君は、生きようとする意志を感じないんだ。まだ君は若いだろう、なのにどうして死に急ぐような事ばかり話しているんだい? この世の面白い事を何一つ知らないまま死ぬなんざもったいないぜ」

「……だって、私は死ぬためにここへ来たのです。今更生きる事に、意味なんかありませんから……」


「何か事情があるようですね」

「ま、話したくなかったら話さなくていいさ。けど気分を害した落とし前はつけてもらおうかな」

「何をすればいいのですか?」

「なぁに簡単さ。俺様とデートしましょ♡」

「でぇと?」


「そ、デェト♡ まだレイクシティの全部を回ってなくってさぁ、是非ともご当地美女と一緒に楽しみたいんだよ。特に美女エルフとデートなんて中々機会もないしさぁ、おねがぁい」

「わ、私でよければ……美女……私ってそんなに、綺麗なんですか?」

「勿論! なんなら俺様が保証書書いてあげるよ」

「そんな、もったいないです……!」


 あんれま、照れちゃって可愛いねぇ。初々しさがたまらないぜ。

 エルマーや儀式の事は気がかりだが、まずは目先の美女だ。紳士として、心行くまで美女との逢瀬を楽しまないとな♪

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