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69話 湖の巫女マーリン

「あの、大丈夫ですか? 頭から流血していますけど」

「大丈夫です。彼はあの程度で死ぬタマではありませんので」

―わふっ♪


 ……あっさり言ってくれるけどね、ガンダルフに頭かじられたら普通死ぬからね。つーかがるるも来るのが速すぎるんだよね。


「しかし、氷の聖獣ガンダルフを従えているなんて……あなたは一体、何者なのですか?」

「俺様はハワード・ロックだ。この名に聞き覚えは?」

「! 勇者カイン様と共に魔王を倒した、世界最高の賢者様……!?」

「大正解だ、これが証拠の冒険者カードな」


 身分証を見せるなり、マーリンちゃんの目が見開かれた。


「本物……なのですね。その失われた右腕、伝承の通りです」

「勉強熱心だな、ただ一つ間違っているぜ。右腕を失ったんじゃない、隻腕って個性を手に入れたのさ」

「お強いのですね。それであの、お突き合いとは一体?」

「気になさらないでください、この賢者は虚言癖があるので」

「虚言癖とは失敬な、ナンパだよ。俺様マーリンちゃんみたいな美女に目がなくてね、ついつい恋人になってほしいと思って声かけちゃうんだよ」

「えっ、え? なんぱ? えと、男性が意中の女性と恋仲になるための儀式ですよね?」


 考え方が古風だねー、こりゃあ男から口説かれた事がないと見た。こりゃ好都合♪


「そーそー俺様君に一目惚れしちゃってねー♡ だから一緒にホテルへ行って親睦会でもしよーよー♡ 初めてでも大丈夫! 俺様に任せて、痛くないようきちんと優しくやらしくリードしてあげるからぁ♡」

「がるる、ブリザード」


 局所的な猛吹雪が俺様を襲う! あっちゅーまに冷凍ハワードの出来上がりってな。


「ってそんな大技使うなよ、マーリンちゃんが凍ったらどーすんのよ?」

「そうでした、私とした事がとんだミスを」

「あ、あの……賢者様が被害に遭うのは構わないのですか……?」

「うん別に平気」

「見ての通りすぐに氷結から脱出していますし、心配する必要はありません」

―がるるっ

「は、はぁ……」


 過激な漫才でちょっと引き気味みたいね。常人にはついて行けねぇよなこのやり取り。


「ですが、氷の聖獣ガンダルフを従えるなんて。あの、触ってみてもよろしいですか?」

「がるるが許せばかまわないよ。どうだい?」

―……わひっ


 ちょっと悩んでから頷いてくれたな、サンキューがるる。


「では……うわぁ、柔らかい毛皮。これが聖獣の触り心地なのですね」

「寒冷地に住んでいるから毛皮がもふもふなんだ。テンペストの鳩胸も柔らかくて最高だったがね」

「そういえば、テンペストの生態に関する発見も先日されたばかりでしたね。大精霊と共に雛を成すなんて、想像もできませんでした」


 エルマーの奴がそんな情報流してたっけか。俺様の知名度を上げてくれるのは感謝するが、あいつは何が目的なんだかな。


「かの有名な大賢者様と出会えるなんて光栄です。御都合よければ、お話を伺ってもよろしいでしょうか。勇者パーティの一人とお話しできる機会なんてそうありませんから」

「オッケェーイ、そんじゃあ近場のカフェでも案内してもらいましょうかね」


 アマンダたんにマーリンちゃん、両手に華で俺様ワクワクだぜ。


  ◇◇◇


 マーリンちゃん推薦のカフェにて、俺様はカインとの武勇伝を語った。ペット可だから、がるるも中に入れるのが嬉しいね。

 そりゃもう真剣に聞いてくれるもんでね、ついついトークがはずんじまう。美女のニコニコ顔を見れて俺ちゃんも満足だ。


「一旦休憩しようか? 長話聞いてて疲れたろ」

「大丈夫です。勇者パーティの活躍、まるでその場で見ているかのようでした。とてもお話上手なのですね」

「漫談で食っていける自信があるもんでね。まぁ幕間感覚で質問してもいいかな?」

「なんなりと」

「君はこの街で随分高い地位に居る子のようだが、どんな立場に居るんだい? 見た所その装束、水の聖獣サロメの毛で編まれているようだけど」


 マーリンちゃんは驚いた顔になった。そりゃあ見ればわかるさ、俺様だもん。


「もしかして、一目見た瞬間から?」

「Off course。賢者様を甘く見ないでくれるかい、これでも世界で追従できる者が居ない程の頭脳を持っているんでね」

「確かに、世界に広まっている技術の一割はハワードの発明ですからね。特許を独占していれば今頃億万長者でしょうに」

「金なんざすぐに稼げるから別に要らねぇのさ。いつでもケバブを食える程度に稼げていればそれでいい。話が反れたが、君は水の聖獣に仕える巫女って所かな。しかもかなりの権力を持っている。一声で俺様達を街から追い出せる程度のね」

「……どうしてそこまでわかるのです?」

「一を見て十を知る、賢者の特技さ。ガキの様子から大体分かるよ」


「素晴らしい観察眼です。おっしゃる通り、私はサロメ様の巫女を務めています。代々この湖に住むエルフが就く役職なのですが、巫女はレイクシティであれば、どのような事をしても許される権限を持っています。それこそ、あらゆる非道を働いても許される程の」

「……ハワード、セクハラは自重しましょう。リサさんが危なくなりますよ」

「問題ねぇよ、いざって時は権力をねじ伏せるまでだからな」

「心配なさらないでください、私にそのような決断をする胆力はありませんから。精々、好きな物を持ってこさせるくらいしかできませんので」

「いや充分我儘じゃないか、可愛い所あるねぇ。どんなものを取り寄せているんだい?」

「……編みぐるみを、その……集めているので」


 女の子らしい趣味に俺様のハートがずっきゅんしちゃうぜ、久しぶりの正統派女子だ。見た所二十代前半ってところかな? 年齢とのギャップがたまらんねぇ。


「しかし、なぜ巫女がそこまでの権力を有しているのです? 一個人が持つにはあまりにも強大すぎる気がしますが」

「それは、その……すみません、お話しするのはちょっと……」

「いいよ別に、君が可愛いってだけで充分さ」


 いやぁ、マジで上物のお嬢ちゃんだぜ。この世間慣れしてない箱入り娘っぷりがまた最高だ。是非ともホテルに連れ込んで、手取り足取り腰取り教えてあげたいねぇ。


「んで、そろそろ出てきたらどうだい? いつまでもすみっこで見物すんな、野郎に眺められるのは気色悪くて嫌いなんだ」

「ハワード? 誰とお話しされているのですか?」

「なぁに、もう一人のファンが仲間に入れてほしそうにこっちを眺めていたんでね」


 カフェの端っこにある席に、見覚えのある仮面姿が見える。全く、あんだけ目立つ格好してんのに誰も騒がないとは。魔法で目立たないようにしてんのかね。


「今日は機嫌がいいからな、特別に相席を許してやる。こっち来いよ」

「なんと慈悲深き申し出でしょうか、では遠慮なく。お久しぶりです。ハワード・ロック」


 ご丁寧な挨拶と共にやってきたのは、仮面姿の漆黒の男、敬愛のエルマー。ガーベラ聖国の冒険者兼指名手配犯にして、俺様のファンを名乗る胡散臭い野郎だ。

 がるるが毛を逆立てて威嚇しているが、エルマーは一切気にせずお辞儀をした。


「私のお誘いに応じ、ご足労ありがとうございます。道中いかがでしたか、アマンダ嬢やリサ嬢も壮健でしょうか」

「見ての通りさ。わざわざ顔を出してくれてありがとよ、色々聞きたい事はあるが……一番聞きたいのはこれだな。てめぇ、サロメに何をするつもりだ? テンペストの時と同じだろう? 水の聖獣サロメを使ってひと悶着起こすつもりなんだろう」

「サロメ様に……! 敬愛のエルマー、賢者様の功績を伝えた方のはずですが」

「ああ、その件に関してですか。お話しますよ」


 エルマーは平然とマーリンちゃんに説明し始めた。こうも淡々と自分の行いを話すとは、相変わらず腹の底が見えない奴だ。


「このような経緯がありまして、私は賢者ハワードの功績を広めたのです。私の所業が彼の血肉になったと思うと、光栄な想いで一杯です」

「気狂いなピエロに気遣われてもな。別に頼んでねぇし、やってほしくもなかったね」

「おっと、これは失礼いたしました。しかし私はただ、尊敬する貴方の活躍が見たかっただけです。決して悪意はございません。そこだけは常々、心に入れていただきたい」

「それが余計に性質悪いってんだよ。そんで? 俺様の前にわざわざ顔を出してきた理由は? 自分からとっ捕まりにきたわけじゃないだろう」


「無論。既に私は仕込みを終えました、その旨をお伝えしようかと思いはせ参じた次第です。何の予告も無しに事を起こすのは不公平かと思いましてね。何しろ貴方は正々堂々、真正面からの戦いを好まれる。私も敬愛なる賢者にあやかり、正々堂々と予告をさせてもらいます」

「お前の頭の中どうなってんだ? わざわざ自分からネタ明かしするとは前代未聞だぜ。折角のアドバンテージをむざむざ潰すとはな」

「私の目的は貴方の殺害ではありません、貴方の輝かしい活躍を見たいだけなのです。どうか見せてください、貴方の熱き魂の息吹を。さすれば、剣に導かれた破滅の未来を待つ巫女を救う事も出来るやもしれませんから」


 エルマーはマーリンちゃんに同情の眼差しを送った。皮肉も蔑みもない、純粋に彼女を心配しているのが分かる。

 こいつには一切の邪気がない。普通に人を心配出来るし、自身の身を挺して人助けも行える。なのに、真逆の事も平然と出来てしまう。

 なんだろうな、空虚なはずの人間なのに……別の存在の芳香がむんむんしてくるぜ。


「そこまで人格ぶっ壊れている奴はむしろ好きだぜ。俺様をより有名にしようとしているようだが、そうする事でお前になんのメリットがある? そこだけが分からねぇんだ、教えてくれ」

「難しい事ではありません。私はもっと貴方の事を知りたいだけ、そのためには貴方の活躍を間近で見たいのです。貴方をとにかく知って、知って、理解して。私は貴方になりたいのです」


 言うなり、エルマーが消えた。やっぱり幻影だったか、魔法で遠隔操作してやがったな。

 あの野郎の次の標的はサロメと、聖剣エーデルワイス……そしてマーリンちゃんって所か。いいねぇ、一気に話が展開してきたじゃねぇか。


「出し惜しみしないのは願ったりだが、自分の目的のために人を不安にさせるのはいけねぇな。ねぇマーリンちゃん」

「エルマーが言っていた、破滅の未来とはなんですか?」

「……それは……」

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