7話 「なぜなら、俺がハワード・ロックだからだ」
麻薬密売人は、アマンダたんが連れてきた憲兵団によって拘束された。
リサちゃんの事は、俺様とアマンダたんで口裏を合わせ、被害者として伝えておいた。「彼女は人質を取られ脅されていた」ってな。
リサちゃんや薬漬けにされていた自警団は、俺様がきちんと治療しておいたよ。これでもう禁断症状に悩まされる事ぁねぇだろうな。
今は病院でしっかり休みな、アフターケアは美人な医者に任せるさ。
「八面六臂の大活躍でしたね、流石です」
「当然だろ。何なら、心から納得のいく決め台詞でも聞かせてやろうか?」
「是非お願いします」
「なぜなら、俺がハワード・ロックだからだ」
ハワードだから仕方ない、これ以上の理由はないだろうさ。
何しろ俺様、徹底したハッピーエンド至上主義者だ。何事もSmileで終わらないとな。
「ただ、厄介事を背負ってしまいましたね」
「ザナドゥに喧嘩売っちまったからなぁ。ま、俺様にとっちゃカフェでトーストセットを食うようなもんさ」
「その心は?」
「腹の足しにもならねぇよ」
人間の犯罪グループなんざ、魔王に比べりゃおままごとと変わらねぇ。
何しろ俺様は最強無敵の大賢者だからな。ザナドゥには俺様のスローライフを彩るパセリにでもなってもらおうか。
「あ! そういやまだ今日の宿取ってねーじゃん。忘れてたぜ」
「滞在して数時間も経ってないのに、事件が起きすぎですよ。貴方と居ると、トラブルが絶えませんね」
「だろうな。だが、こいつが俺様のスローライフなのさ」
スローライフと書いて「自分らしい生き方」と読む。故に俺様のスローライフは一般人のそれと大きく異なる。
ヤバい事件に首突っ込んでんのに、心臓が激しくビートを刻み、全身の血を甘く滾らせ、期待で脳が沸騰してくる。トラブルをどうお洒落に遊ぼうか、考えるだけで頬が緩んじまう。
スリル&ハプニングに塗れた、最強だからこそ楽しめる最高の人生。それこそが賢者ハワード・ロックだけに許された、特別なスローライフなのさ。
「俺様についてきたら火達磨になるぜアマンダ。今からでも王都に帰って復職したら?」
「まさか。貴方の騒がしい旅を体験する方がずっと面白いですから」
「ですよねー」
こっちはこっちで俺ちゃんを放っておいてくれないし。あーあ、もてる男ってのも楽じゃあないねぇ。
◇◇◇
翌日、リサちゃんは無事に退院できた。俺様の処置のお陰で薬物の影響もなくなっててな、むしろ前より元気だって話だ。
「その、ありがとうハワード。助けてくれて……貴方が助けてくれなかったら、私……」
「気にしないで頂戴な。お礼はホテルで一発やらせてくれるだけで充分」
「天誅!」
アマンダたんの斧攻撃で叩き潰される俺様。スリッパで殴られるコックローチの気分がよーくわかるぜ。
「不思議な人よね、貴方って。口を開けば下品な事ばっかり言うくせに、困ってる人を迷わず助けるし……それも片腕を失った体で、危険に飛び込んで……本当、変な奴」
「片腕を理由に女を見殺しにできるかよ。助ける理由にゃ充分さ」
「ふふ……本当に、腕を無くしてもハワード・ロックは変わりませんね」
「その程度で俺様はブレねぇよ。何しろ俺様は、本物のプライドを持つ男だからな」
俺様の持つ「神の加護」は世界のバランスを簡単に壊してしまう、個人が持つにはあまりに強すぎる加護だ。
なればこそ、力に伴う責任を理解し、揺るがぬ誇りを持たねばならない。
だから俺様は目立ちたいのさ。力を自覚し隠さぬ事で、悪人達を抑圧できる。余裕な顔して義務を背負えば、「この人ならば大丈夫」と安心させられる。力を振るって注目されれば、俺様が居るだけで絶望が希望に変わる。俺様の賢者としての理想像だ。
何があっても俺様は、この理想を貫き続ける。永遠に眠るその時まで、誇りと自信を心に抱き、笑顔で堂々と胸を張れる人生こそが、俺様が目指す最高に格好いい人生だからな。
「リサちゃん、またなんかあったら俺様を呼びな。どこに居ようと飛んでって、君を助けるから。何しろ俺ちゃん、全世界の女の子達の味方だからねっ」
決まったぜ……自分の格好良さにほれぼれするなぁ。
「ところで、ハワードの義手はいかがですか?」
「うん、すぐに作るね」
「あり? ここは「ハワードかっこいー」とか「ハワードすてきー」とか歓声挙がる所じゃないの?」
「ごめん、思い切り滑っててそんな気になれなかった」
「……あ、そ。ちぇ、あわよくばディープキスの一つももらえると思ったんだがなぁ」
「でも、本当にごめん。私のせいでザナドゥに目を付けられたよね……」
「んー? なんの事かな。俺様はただ、女を守る為に暴れただけだ。だから全部俺様の責任だ。リサちゃんが気負う事なんてなんにもないよ」
「ハワード……本当に、変な奴……! 恩は返すからね。魔法具職人の名に懸けて、ハワードが唸るような、すっごい義手を作るから!」
って事でリサちゃんは、俺様の右腕制作に取り掛かった。
額に汗を浮かべ、全身全霊を込めて、俺様の腕を作っていく。アマンダたんと一緒に見守り、数時間後。
「できた! ハワード、これが貴方の新しい右腕よ!」
「おー待ちかねたぜ! どれどれ?」
白の骨格をベースに、赤い強化装甲を取り付けた、クレバーなデザインの腕だ。ガントレットのような前腕部には翼を象ったレリーフが細工され、ちょっとしたアクセントになっている。見る者の心を鼓舞し、勇気づけるヒロイックなデザインだ。
流石はリサちゃんだ。注文通りの最高の義手をプレゼントしてくれたじゃないの。
「傷口に嵌めれば、直接くっつくようになってるの。早速つけてみて」
「ありゃまぁ! これまた親切設計なこって」
上着を脱いで、わくわくしながらくっつけてみる。そしたら青白いオーラ状の紐が伸びて、傷口に巻き付いた。
試しに片手逆立ちしてみたり、思い切りパンチを撃ってみるけど、しっかり腕に食い込んでいる。すげぇや、生身の腕よりゴキゲンだぜこいつはよ。
「凄いのはそれだけじゃないのよ。その腕は魔物のスキルを吸収する力があるの。吸収した力はストックされて、自分の能力として使う事が出来るのよ」
「おお! マジかそれ!? それって、強い魔物を取り込めば取り込むほど強くなるって事じゃないか!」
最高だぜ、ただでさえ強い俺様が、もっともっと強くなるって事じゃねぇか!
「ハワードが望んだ、最強の腕でしょ。戦えば戦う程強くなっていく。大事な人を守りたいって、貴方の注文に答えた義手よ」
「ありがとなリサちゃん。いくらだい? 金なら惜しまねぇぜ」
「ううん、要らない。それは私の気持ちだよ。私を助けてくれて、本当にありがとう」
リサちゃんがにこやかに言ってくれる。全く、お礼を言うのはこっちだってのによ。
今日からよろしく頼むぜ、俺様の新しい右腕よ。
「でも、まだそれ調整が必要なのよ。貴方の反応速度にきちんと合わせないといけないし、魔物からスキルを奪った後、正常に機能するのかきちんとテストしておかないと」
「へぇ、こんだけの完成度なのにまだ改良の余地があんの? そいつは楽しみだなぁ、最終的にどーなっちゃうのこの右腕。今からワクワクしちゃうぜ♪」
それに、ザナドゥに手を出しちまったからなぁ。ザナドゥは強欲な犯罪組織だ、例え末端でも、叩き潰した奴の事は許さねぇ。
腹いせにヘルバリアを襲ってくるかもしれねぇし、街を守る意味でも、もうちっと滞在しておいた方がいいかもな。
「んじゃまぁ、暫くはここを拠点に活動しますか。次の目的地も決めてないし、行く当てもないしな。その間よろしく頼むぜリサちゃん。そのついでにどうだい? 俺様と夜の営みのレッスンなんて」
「お断りよ。私はもうちょっと紳士的な男が好みなの、カインみたいな男がね」
「あーん、残念☆」
けどまぁ、リサちゃんは明るく笑ってくれている。その笑顔だけで、充分としておきましょうかね。