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幕間 盾の戦士ヨハン

 森の中に木刀が打ち合う音が響いてくる。

 王都近郊の森にある、開けた花畑。そこで赤毛の少年と、素行の悪そうな男が手合わせをしていた。

 赤毛の少年は幾度も男にぶつかっては弾かれ、手を変え品を変え、一太刀浴びせようと必死になっている。だが男は全てを悉く跳ね返していた。


「はーいこれでおっしまーい」

「うわあっ!?」


 少年を殴り倒し、男は木刀を担いだ。

 かれこれ二十戦やったのだが、少年は掠らせることすらできなかった。だけども男は笑みを浮かべ、彼と目線を合わせた。


「やるじゃねぇか、俺様を一歩でも動かすたぁな」


 そう言い、男は振り返る。男が立っていた場所には足跡が三つしかない。少年の攻撃を、男はその場からほぼ動かずに対処したのだ。

 少年が男を動かしたのは、最後の一撃のみ。だけども少年にとっては大きな進歩でもあった。


「一年がかりで……やっと師匠を動かせました……! 遠かったなぁ……!」

「今日のところは褒めてやるよ。ほれ立て、手加減したから動けるだろ?」

「はいっ! あの、師匠。約束のご褒美を……」

「あのなぁ、何度も言うが俺様ゲイじゃねぇっての」


 文句を言いつつ、少年を撫でてやる男。少年は嬉しそうに撫でられ、満足気に頷いた。


「さてと、戻るぞ。丁度昼飯時だからな」

「はいっ!」


 少年は元気よく頷くと、男と共に王都へ帰っていく。

 少年の名はカイン・ブレイバー。男の名はハワード・ロック。

 後に勇者パーティと呼ばれる、世界最強の二人組である。


「ヨハンも訓練が終わった頃でしょうか。頑張ってるかなぁ」

「アマンダたんに任せてるから大丈夫だろ。あいつに合わせたトレーニングをしてもらってるからな」

「流石です師匠! けどなんで俺とヨハンは別々に訓練してるんです?」

「理由は二つ。お前とあいつじゃ加護の方向性が違うから、同じ訓練しても意味がないから。んでもってもう一つは……」


 ハワードはにやっとした。


「思春期男子は美女に指導してもらった方がやる気が出るだろ?」


  ◇◇◇


「そう、そのまま腕を引いて、腰を使って跳ね上げるように」

「こう……ですかっ?」


 アマンダの言う通りにしながら、ヨハンは訓練用の魔法人形を投げ飛ばした。

 魔法人形はヨハンに殴りかかるようプログラムされており、それを背負い投げでいなす訓練をしていた。

 綺麗なフォームで人形を投げ飛ばすと、アマンダは優しく微笑んでヨハンを撫でてくれた。


「いいですよヨハン君。よくできましたね」

「い、いや! アマンダさんの指導が丁寧だからでしてあの、その……」


 アマンダに褒められ、ヨハンはしどろもどろになった。

 相棒のカインがハワードの弟子になってから、なし崩し的にヨハンも師事を受けることになったのであるが、意外にも彼を指導してくれているのはハワードの従者、アマンダだった。


「それにしても、背が伸びましたね。カイン君よりも大きくなったのでは?」

「え、ええと。はい。なんか気付いたら。成長期だからですかね?」

「男の子の成長は早いですね。去年までは小さくて可愛かったのに、驚きです」


 アマンダは「ふふっ」と笑っている。その笑顔に胸が高鳴ってくる。

 健全な十三歳の男子にとって、アマンダはあまりにも刺激的な女性である。

 修道服ごしに分かる暴力的な発育の肉体、しかも超が付く美女。近づくといい匂いがするし、指導も優しいし。時折触れる体の感触ときたらもう、理性が壊れてしまいそうだ。

 ハワードに師事を受けるとなった時はどうなる事かと思ったが、アマンダにつきっきりで、手取り足取り教えてもらっているのを思うと。


「……生きててよかったかも」

「どうかしましたか?」

「いやなんでも!」


 アマンダに顔を覗き込まれ、ヨハンは飛び退った。彼女と居る間、ずっと悶々としている思春期真っただ中なむっつりスケベである。


「ただいまヨハン!」

「あ、カイン。お帰り。どうだった?」

「いやぁ疲れたよ、けどやっぱ師匠は凄いよ!」


 【転移】で戻ってきたカインからハワード自慢を聞かされる。この一年、ずっとハワードが凄いだのかっこいいだの聞かされて飽食気味である。


「よーうアマンダたん、ヨハンの坊主はしっかりやってたかい?」

「勿論。貴方と違って真面目ですから、指導のやりがいがありますよ」

「そいつは重畳。さてと、お前ら! 装備を置いて手を洗ってこい。飯作ってやるから、遅れずに食堂へ来いよ」

「はいっ!」

「は、はい……」


 ヨハンはカインと違い、ハワードが苦手だった。悪い人でないのは分かっているのだが、言動が荒っぽくて、彼には少し近づきがたい人物である。

 それに、食事かぁ……嫌だなぁ……。

 ヨハンはため息をついて食堂へ向かう。ハワードの料理は非常に美味しい、美味しいのだが……一つ問題が。


「ほれ食え、お残しは許さねぇからな♪」


 二人の前に出されたのは、山盛りのサラダ四皿に厚切りステーキ五枚、ハムとチーズのサンドイッチが一斤分に、野菜スープがどんぶり三杯、オムレツ七個と特大フライドチキンが十個、そしてフルーツ盛り合わせ。これだけの量が並んでいる。これが一人前だ。

 一年間、二人は毎日四食この量を食べさせられている。ハワード曰く食事もトレーニングだというのだが。


「吐いたら野菜スープ二杯追加な♡ きちんと食えよ?」


 笑顔が怖い。最初の頃は何度も残して、その度に怒られたものだ。


「うー……今日も食べられるかなぁ……」

「とにかく頑張るしかないよヨハン。それじゃいただきます!」

「それしかないか……」


 食べる以外に道はない。ヨハンは料理に手を付けた。

 けど、やっぱり美味しいや。

 自分たちのためにこれだけの食事を、しかも自腹を切って作ってくれるのだから、懐の大きい人物だとは思う。けどやり方が乱暴すぎるからやっぱり、ハワードは苦手だった。


『ごちそうさまでした!』

「おーし、大分胃袋膨らんできたな食べ盛りどもめ。お父ちゃん嬉しいぜ♪」


 んでもって文句を言いつつ完食してしまうヨハンとカイン。なんだかんだ訓練がハードな分、あれだけの量も食べきれてしまうのだった。


「食器は自分で洗っとけよ、働かざる者なんとやらだ。終わったら俺様の執務室に移動しろ、そのまま座学に入るからな」

「はーい」

「わかりました」


 体だけ鍛えても馬鹿が育つだけだと、ハワードは二人の教養にも余念がない。賢者と呼ばれるだけあって非常に博識で、しかも教え方まで上手いと来たものだ。

 座学が終わればまた分かれて修行。夜は疲れ切って、二人とも泥のように眠って朝を迎える。そして早朝からまた、ハワードとアマンダに師事を受けると。

 こんな生活がもう一年も続いている。ハワードの言いつけで冒険者としての活動は禁止されており、カインとヨハンは未だFランク冒険者のままである。


「なぁカイン、僕達って今、どれだけ強くなってるのかな」

「どうなんだろ。冒険者カードを師匠に預けてるから、レベルもどうなってるのか分からないし」

「そうだよねぇ……」


 ただ、カインは物凄く強くなっているだろう。元々図抜けた力を持っていた奴だ、それがハワードの指導によりさらに磨きかかっている。ずっと傍にいるヨハンは分かっていた。

 それに比べヨハンはと言うと、ずっと防御の技術ばかりを教えられていた。

 アマンダから教わっているのは投げ技のほか、攻撃をいなしたり、受け止めたりするスキルばかり。攻撃スキルも、魔法スキルも、ヨハンは使えない。だから少し不安だった。

 このまま冒険者として活動して、カインの足を引っ張らないかどうか。


「なぁカイン、僕さ……ってもう寝てるし」


 寝息を立てている幼馴染にため息をつき、ヨハンも眠りについた。


  ◇◇◇


 そんな生活がさらに一ヵ月続いた頃である。二人はハワードに呼びつけられ、


「よーく聞けよブラザー。今日からお前らの冒険者稼業を解禁してやる」


 そういわれて、冒険者カードを返された。

 突然の事にヨハンは困惑する。するとハワードはにやりとし、


「アマンダたんの報告も聞いて判断した。お前らは充分力をつけた、今なら他の冒険者に後れを取る事もねぇだろうさ」

「本当ですか!? やったねヨハン!」

「う、うん……」


 自分がどれだけ強くなったのか分からないから、喜ぼうにも喜びようがない。しかし、なんともなしに冒険者カードを見てみたヨハンは驚いた。

 レベル92。彼のカードにはそう書かれていたのだ。


「こ、これ……どういう事……? 一年前、僕はたしかレベル2だったはず……!」

「決まってんだろbaby、俺様が指導者としても天才だからだ。きちんとお前らに合わせてメニュー組んだから、それくらい強くなるのは当然だ。元の素材は悪くなかったわけだしな」


 だからって異常すぎる。驚くヨハンをよそに、ハワードは依頼書を渡してきた。

 ダークドラゴンの討伐、Sランク冒険者用の高難易度の依頼だ。本来Fランクのヨハンとカインでは受けられないものだが。


「ギルドに掛け合って特別に手配してきた。ちょいと行ってぶちのめしてきな、今のお前らなら余裕だろ」

『は、はい!』


 二人は喜び勇んで飛び出した。早く自分の腕を振るいたくて仕方ない。


「そうだカイン、君は今レベルいくつなの?」

「俺? へへ、凄いよヨハン。なんとレベル600だ!」

「え……?」


 聞いた瞬間、ヨハンは耳を疑った。何かの間違いじゃないかと。

 だけどもダークドラゴンを前にした時、カインは。


「やぁっ!」


 ショートソードを一振りするだけでダークドラゴンを木端微塵に粉砕し、事実を伝えていた。

 圧倒的な力の差を見せつけられ、ヨハンは愕然とする。確かに彼は強くなった。だけどカインに比べたらその力は、あまりに小さくて。


「凄い……やっぱり師匠は凄いや! こんなに強くなってたなんて、俺驚いちゃったよヨハン!」

「う、うん……そうだね……」


 ヨハンはショックを隠せなかった。小さな頃から一緒に育ってきたのに、カインとの距離はあまりにも開きすぎていて、酷い疎外感を感じていた。

 王都に戻っても、ヨハンの表情は浮かばない。自分の力を実感する前にカインが片づけてしまったから、強い無力感のみが残っていた。

 カインと別れ、一人広場で呆けるヨハン。これまでの努力を否定されたような気がして、涙が出てきてしまった。


「随分局地的な雨が降ってるもんだ、妖精用の傘でも用意してやろうか?」


 ふいに声をかけられた。振り返るとそこにいたのは。


「……ハワード、さん?」

「Hello boy。馬券でも外したか? 奇遇だな、俺様もだ。いやー今日は運の巡りが悪くてなぁ、大負けしちまったぜ☆」

「ならやらなきゃいいのに……」

「ギャンブルは男の潤いさ。お前もやってみるか? まぁそれはいいとしてだ、カインが空気読まずに一撃粉砕したらしいな。二人一緒に向かわせたのはちとまずかったか」


 ハワードはため息をつくと、ヨハンと肩を組んだ。


「今回は俺様のミスだ、詫びにいい所へ連れて行ってやるよ。大人の遊びを教えてやる、ついてこい」

「え、ちょ、大人の遊び? 何をさせるつもりなの?」

「お前を男にしてやる。あいつより先に卒業すりゃあ自慢できるだろ?」


 卒業ってなんだ。いぶかしむヨハンが連れていかれたのは、王都のはずれにあるいかがわしいお店。ようは娼館である。


「え、え!? えええ!? どこに連れてきてるのハワードさん!?」

「どこって、俺様行きつけの娼館♡」


「僧侶なのに何常連になってんの!? そーいうのダメなんじゃないの!? 神様に怒られるよってか怒られろ!」

「落ち着きなボーイ、神様はどうして男の股に女とつながる鍵をくっつけたと思う? ようは神様直々に「ヤっちゃえ、人間☆」って言ってるようなモンでしょーが♪ だったら僧侶であろうと遠慮なく合&体しなくちゃなー♡」

「なんで賢者やってんのあんた!?」


 どえらい生臭賢者である。騒いでいる間に連れ込まれ、受付をすますと、煽情的な服装の美女が迎えてきた。


「あらハワードさん♡ いらっしゃーい昨日ぶりねぇ」

「ハァイオデッサちゃーん♡ 昨日の俺ちゃんのテクはどうだったぁ?」

「相変わらず最高だったわ♪ それで、その子は?」

「あー実は今日の客は俺様じゃなくてこっちの小僧でな、是非とも君の手で卒業させてほしいんだよ」

「あらまぁそうなのぉ? 初心な子を食べられるなんて役得だわ♡」

「って事で後よろしく♪ ヨハンよ、金は心配すんな。俺様の奢りだぜ。この店ナンバーワン嬢を抱けるんだ、しっかり堪能してきな」

「や、待ってハワードさん! なんか怖い、すんごく怖いんだけど!?」

「大丈夫よボーヤ、全部お姉さんに任せなさい。人生最高の快楽を教えてあ・げ・る♡」


 ヨハンがピンク色の部屋へ連れていかれる。そして一時間半後。


「…………(魂が抜けている)」

「はいどーだったヨハンくーん?」

「……さ、サイコーでした……」


「そーかそーか! これでカインにマウント取れるな、先に卒業したってよ♪ 自分を変えるにゃまずは心からだ。魂が貧相なままじゃ、自信なんて手に入らないからな。今は顔を上げな。また落ち込んだ時にゃ俺様を頼れ。またここに連れてってやるからよ☆」

「子供をどこへ連れて行くんですか、ハワード?」


 その声を聞いた途端、ハワードはぎくりとした。

 いつの間にか、アマンダが来ていた。彼女は笑顔だが、威圧感に満ち溢れている。


「未成年をなんてお店に連れ込んでいるんですか?」

「いやぁそれはその、ヨハン君に自信をつけさせようとだなぁ」

「天誅!」


 皆まで言わせず斧で叩き潰され、ハワードは撃沈した。


「大丈夫ですかヨハン君、変な事をされませんでしたか?」

「は、はい、むしろいい思いをさせていただいたと言いますか……」

「全くこの人は……励ますにしても他のやり方があるでしょうに」

「男ってのは、一皮むけて初めて一人前になるもんなんだよ。って事で俺様も君で一皮むけていい?」

「天誅!」

「あーっあーっ! なんて見事なフルスウィング、斧で一皮むけるのはあかーん!」


 アマンダに追いかけまわされ、ハワードは去っていく。ヨハンは空笑いして、彼を見送った。

 荒っぽいが、ハワードなりにヨハンを励ましてくれたようだ。乱暴に見えて、きちんと周りの人を見ているらしい。


「けどやっぱり……ちょっと苦手かな」


 豪快すぎる性格だから、ヨハンはまだ苦手意識が取れそうになかった。


  ◇◇◇


 あれ以来、ヨハンは時折ハワードを頼るようになった。

 カインと共に活動していく中で、ヨハンは幾度も力の差に悩んでいた。何しろ仕事はカイン一人で片付いてしまい、ヨハンは何一つ彼の役に立てていないからだ。

 自身の無力さを感じたり、時にはハワードが察した時に、酒場で話を聞いてもらった。

 ハワードはいつも、親身になって聞いてくれていた。時には一緒に遊びに連れて行ってくれたし、ハワード直々に指導してくれる事もあった。


 ハワードに支えてもらいながら、ヨハンはどうにか冒険者を続けていたが、それでもカインとの間に開いた溝は、深まるばかりだった。

 カインは強い、途方もなく強い。わずか半年の間に数多の依頼を片付けて、Sランク冒険者の地位まで上り詰めてしまったのだ。


 パーティを組んでいるヨハンもAランクまで到達しているのだが、カインの腰巾着だの金魚の糞だの、周囲からは散々な呼ばれ方をしていた。

 だから、最近思うのだ。自分はカインから離れた方がいいのではないかと。


「んで、パーティ抜けて故郷に戻るのか?」

「そうしようかなって、思ってるんだ。本当は一緒に居たいけど、カインはどんどん先に行くばかりだし……ハワードさんとアマンダさんのおかげで、村に戻れば警備の仕事とかできそうだしさ。……カインは僕が居なくても、やっていけると思うしね」


 ヨハンが居なくても、カインはいずれハワードと並ぶ存在になるだろう。あいつはきっと、いや絶対に勇者と呼ばれるようになる。ヨハンはそんな確信を持っていた。


「カインには、次の仕事の時に伝えようと思うんだ。僕が居たら却って足手まといになるだろうから……」

「んー、そうか。お前が考えて決めた事だ。俺様に止める資格はねぇよ。ただまぁ、俺様の教えをいまいち理解してないのは困りもんだな」


 ハワードはふと考えてから、


「明日、俺様の仕事に付き合ってもらおうか。本当は自分で気付いて欲しかったが、どうも言わなきゃわからんようだしな」

「え、あ……うん?」


 翌日。言われるがまま、ヨハンはハワードと共に現場へ向かった。

 ハワードの仕事は、Sランク冒険者でも苦戦する、サーベルタイガーの討伐だ。十頭もの群れを成し、縄張りを巡回している。レベルは80を超えており、戦えばただでは済まないだろう。


「あいつらを一人で蹴散らしてみろ、危なくなったら助けてやる」

「えっ! いや、僕はカインじゃないんだよ? あんなの倒せるわけが……」

「つべこべ言わずに行け」


 ハワードに背中を押され、ヨハンはサーベルタイガーにまろびでた。

 魔物達はヨハンに気付くなり襲い掛かってくる。立ち上がりが遅れ、ヨハンはまともに攻撃を受けた、はずだった。

 あれ、痛くない?

 全身を噛み付かれたはずなのに、サーベルタイガーの牙が折れていた。ヨハンの体には傷一つついていない。

 驚きのあまりハワードに振り向く。賢者はにっとし、サムズアップした。


「……とりゃあっ!」


 ヨハンはハルバードを振るい、防御スキルを使いながら、一体一体確実に魔物を倒していく。時間こそかかったが、ヨハン一人で仕事を達成できた。


「前にも言ったが、お前の持っている加護は「盾の加護」だ。防御力特化の加護でな、そいつを伸ばすように、徹底して防御スキルを覚えさせたんだよ。多分タフネスだけなら、カインを超えてんだろ」

「カイン以上……!? これが、僕の力なの?」

「そうだ、お前だけの力だ。俺様の育成方針は長所をとことん伸ばし、オンリーワンの力を育てる事。周りと同じに育てるより、そいつだけが持つ魅力を引き出す方が面白いからな」


 軽く話すハワードだが、ヨハンをよく見ていないと出来ない事である。

 きちんと自分を見ていた事に、ヨハンは驚きを隠せなかった。


「ま、お前が故郷に帰るってんなら止めやしないさ。そこで俺様の教えを活かしてくれりゃそれでいい。カインとしっかり話し合って決めるんだな。ただまぁ、最後の仕事くらいは自信をもって挑んでみろ。もし自信を持てなければ、お前の魅力に惚れた俺様を信じろ。そうすりゃ、少しはマシになんだろ」

「……ハワードさん……」


 ヨハンは自分に自信がない。だけどハワードの言葉なら、信じてもいい。そう感じていた。


  ◇◇◇


 後日、カインと共にヨハンは、最後の仕事に向かっていた。

 無数に繁殖したリザードマンの駆除だ。いつもなら、カインの後ろに隠れてばかりのヨハンだが、今日はいつもと少し違う。

 持前のタフネスを活かし、カインの盾として背中を守り続けた。

 いかにカインが強くても、まだまだ彼は経験が浅い。よく見れば、危うい場面が幾度もあった。

 その度ヨハンは、カインを庇い続けた。カインを超えるタフネスを活かし、幼馴染が傷つかないように。

 仕事を終えた後、カインは嬉しそうにヨハンと握手し、彼を称えていた。なんだか照れくさくて仕方ない。


「今日は最高だったね、ヨハン!」

「う、うん。たまには僕もやらなきゃと思ってさ。いつも、カインの足を引っ張ってたし」

「? 足を引っ張る? なんで?」

「なんでって、僕はほとんど役に立ってなかったじゃないか。周りからも酷い言われようだったし……」

「……気付いてなかったんだな。俺はさ、ヨハンと一緒だからここまで頑張れてるんだよ。あとそいつらの事は気にしなくていいよ、一人残らず俺がぶちのめしてきたから。よくも俺の友達を悪く言ったなって」

「え?」


「俺には、君が必要なんだ。第一、なんで俺がヨハンを誘ったと思う? 君が見てくれるから、俺は妥協できなくなる。君が傍に居るから、俺は強くなろうと思えるんだ。ヨハンの前で格好悪い姿なんて見せられないからね。君が支えてくれるから、俺は前を向けるんだ」

「……カインにとって、僕って、何なの……?」

「決まってるだろ、親友だよ」


 その一言にヨハンは衝撃を受けた。

 思わず涙が出そうになる。堪えたヨハンは、カインの手をしっかり握り返した。


「んで、結局残る事にしたんだな」

「あんな事を言われたら逃げられないよ。正直、僕にどれだけできるか分からないけど……もう少しだけ頑張ってみるよ」

「そうかい。ま、お前さんの決めた事だ。途中で逃げ出さないよう努力しな」


 ハワードは葉巻をふかしながら、相変わらずの返事をした。

 一見チンピラにしか見えない、どこまでも賢者らしくない男である。だけども。


「ありがとう、ハワードさん。僕の魅力に、期待してくれて」

「礼を言われる筋合いはねーさ。男からの礼なんざ、No thank youだよ」


 ハワードはヨハンの頭を乱暴に撫でると、先に歩いて行ってしまう。ヨハンは笑みを浮かべると、賢者の後をついて行く。

 やっぱり、ハワードさんは少し苦手だな。

 ちょっと乱暴で、口調も荒っぽいけど、強くて、優しくて、しっかりと自分を見て、期待してくれる。そんな沢山の魅力を持ったロクデナシに夢中になってしまいそうだから。

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