65話 さらばエアロタウン
テンペストの繁殖なんて大発見をしたもんだから、エアロタウンはもうてんやわんやの大騒ぎだったぜ。
飲めや歌えと一晩中の大宴会、人も精霊も聖獣も、関係なしに大騒ぎだ。派手な宴は大好きだが、ケバブがないのが不満だぜ。
テンペストもフウリちゃんも円満な解決が出来たし、関わった身としては大満足の結果だぜ。ただ一つを除けばな。
「敬愛のエルマー、町の人から情報を集めてきました」
「こっちもだよ。感謝してよねー、集めるの大変だったんだから」
「いっやーありがとさん、俺ちゃん今ちーっと動けなかったからねぇ」
テンペストの卵がきちんと孵るよう、ベビーグッズを工面していたのさ。分身を駆使して森中の上等な枝を集め、卵がきちんと温まるように羊毛も混ぜて巣を作った。あとは卵の健康状態を確かめていたってわけ。
「ん、経過は上々だ。きちんと面倒見てれば健康な雛が生まれるぜ。雛が孵ったら、虫や卵黄とかのたんぱく質を摂らせろよ、野菜で栄養を補うのも忘れるな。それとこれ、昨日作っておいた……カールーシーウームパウダー☆ エサにまぶせば丈夫に育つぜ、クル病の予防にもなるからな。日光浴もきちんとさせろよ」
―ピョッ♪
『何から何まで済まぬな、というより随分詳しいの』
「なぁに、前にナンパした美女のインコを助けた事があるだけさ」
『結局そこに行き着くんかい』
「美女こそ俺様の知恵の湖なのさ。んで、麗しの知恵の女神様。エルマーについて改めて教えてくれるかい」
「かしこまりました。幾人かの冒険者とも接触できたので、詳細な情報を得られました」
「エルマーって二つ名を与えられるだけあって、かなりの活躍をしてるみたいだよ」
「ガーベラを中心に活動し、未開拓の土地を切り開いたり、疫病に効く薬を開発したり、危険な魔獣の討伐を幾つもこなしています。国内では結構な有名人のようですね」
「経歴が俺様によく似ているな」
「ですが、経緯は全く似ていません。ハワードはがさつに見えて、きちんと周囲に被害が及ばないよう配慮していますが、エルマーの場合周囲を全く顧みません」
「土地を切り開くために山火事を起こしたり、薬の開発に死刑囚を利用した人体実験をしたり、魔獣の討伐も村一つを犠牲にしての作戦を立てたり。手段を全く選ばないんだって」
「こいつはまた、過激なパンク野郎だぜ。冒険者と言うよりテロリストじゃねぇか」
『敬愛と呼ぶには真逆の男じゃな』
「二つ名の由来としては、先の行動で犠牲になった方々に対して手厚いフォローを行うからだそうです。犠牲者に対し敬意を忘れない冒険者、という意味ですね」
「だからある意味皮肉のこもったあだ名みたい。と言うか、ガーベラじゃ重罪人扱いされててさ。国内で指名手配されてるそうだよ」
「にも関わらずガーベラ内を拠点にし、未だに捕まっていないか。随分と腕のいいテロリストさんのようだな」
それに、あいつからは妙な気配も感じた。
どす黒い空気を携える、全く異質な悪意ある存在の気配をな。
「こんな奴に目を付けられるとか、ほんとあんたって、次から次へとトラブルを呼び寄せると言うかなんと言うか」
「くくっ、ならどうしてそんな男に付きまとっているのかなレディ?」
「嫌いならとっくに逃げてるっての。察しろ馬鹿」
病みつきになっているようだな、俺様のハードラックと踊るスローライフに。
敬愛のエルマーか、面白れぇ。魔王、ザナドゥに続いて新しい目標が出来たぜ。熱烈なラブコールまで受けたんだ、乗らない手はねぇな。
「レイクシティで待ってますか、俺様を随分尊敬しているようだが、生憎熱烈すぎるファンはカイン一人で足りているんでな。俺様直々にファン失格の宣告をしてやるよ」
俺を誘い込むためだけに、フウリの誇りと魂を傷つけ、挙句テンペストにまで無用な暴力を振るった。それも善意の名の下に。
そんな独善を許すわけにはいかねぇな。
「つーわけだハワードガールズ。次の目的は敬愛のエルマーの追跡に移ろうと思う、なんとしてもヤローをとっ捕まえて、イカれた善行を止めるぞ」
「かしこまりました。方針が決まったのなら、早速次の場所へ向かいましょう」
『もう向かうのか?』
「ごめんね、このフーテン賢者落ち着きなくってさ。けどエルマーみたいな奴をほったらかしたら、沢山の人が悲しむ事になっちゃうし」
「女の笑顔を守る為に、俺ぁ戦わなくちゃならねぇんだ。無論、君もその中に入っているからね」
『……全く、勝手な男じゃ。わらわを散々口説いておきながら、用が済んだらさようならか』
「そいつを言われると困っちまうな」
『困らせるつもりで言っている。さすれば、少しは足止めできると思ったからの』
言うなり、俺様の胸にしなだれてくる。ふふん、どうやら彼女も。
「俺様に心から惹かれちまったようだな、顔がとろけているぜ」
『とろけてなどおらぬ。じゃが、汝に惹かれてしまったのはまた、事実じゃ。精霊の身でありながら人に恋するとは、思ってもおらなんだ』
「なんら不思議じゃねぇさ、なにしろ相手がこの俺様なんだから。一度でも魅力に触れちまえば、二度と手放せなくなる。そんな甘い毒をハワード・ロックは宿しているんだからな」
『誠その通り。願うならば、ずっとこの地に住んでもらいたいものじゃが……それを望むのは不可能なのじゃろう』
「ああ。俺様は風よりも自由な男だ、一つの場所に留まる事は出来ない。だから悪いね、君の気持ちに応える事は不可能だ。それに君にゃあ、ここでやるべき事があるだろう」
―ピョッ
そう、ここには君の宝物が沢山つまっている。そいつを守り抜く使命が君にあるのなら、俺様は身を引くしかねぇさ。
『……こんなにも、名残惜しい心地になったのは初めてじゃな。ならばせめて、汝の行く先に手助けの風を吹かせてくれ。義手を出してくれぬか』
言われた通りにすると、甲に印を刻まれた。この印はもしや、
「召喚術の刻印、へぇ、俺様と契約してくれるのかい」
『わらわの力が必要な時はいつでも呼ぶがよい。汝を手にする事が敵わぬなら、せめて心だけでも、繋がっておきたいからの』
「All right、ありがたく受け取っておくよ。この想い、絶対無駄にはしないから」
レディがプロポーズしてくれたんだ、ジェントルマンとしてきちんと返答しとかねぇとな。
って事で、彼女の手を取りキスを落とす。桃のように染まった頬がなんともキュートだ。
彼女の傍に居られないのは俺様としても心苦しいさ。だが、エルマーを放置してより多くの美女が苦しむのは、もっと心が痛むのさ。
だから俺様は突き進む。野郎の蛮行をなんとしても止めるために。それにもうじき、心強い助っ人も来るだろう。
そいつからも逃げなきゃいけねぇしな。やれやれ、人気者ってのはつらいもんだぜ。
◇◇◇
レイクシティへ向かおうとするハワード達を、エルマーは見下ろしていた。
彼の手には、黒塗りの本が握られている。タイトルは存在しない、ページに文字も書かれていない。だけどエルマーには、中身が見えていた。
「ええ、手に入れましたよ。貴方の望む物を」
エルマーは本に語り掛けた。ぶつぶつと、独り言を重ねていく。
この本は自分を導いてくれる福音書、力を与えてくれる預言書。この本の通りに動けば、自分の願いは必ずかなう。エルマーはそう信じていた。
「ええ、ええ。そうです。私の願いのために、私は貴方に従いましょう」
『ハワード・ロックになる。それが私の願いですから』




