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6話 俺のようなロクデナシが必要なのさ

「消えた自警団? いや、初耳よ」


 工房に戻ってリサちゃんに聞いてみると、彼女は首を振った。


「リサちゃん自警団の隊長ちゃんでしょ? なのに何も知らないってのはちょっとないんじゃない?」

「そんな事言われても、皆自分の生活があるんだもの。私だって私の生活があるんだし、皆の事を把握できないわよ」

「ふーん?」


 ま、リサちゃんがそう言うならそうなんじゃないの? って感じに肩をすくめて、アマンダに目をやる。アマンダは小さく頷いた。


「でもザナドゥが関わっているなんて。この街も大きな奴に狙われたものだわ」

「そうだねぇ。そういやさ、ここで出回ってる麻薬ってどんな効果あんの?」

「どんなって……そりゃ精神に影響を与えるような物じゃないの? 麻薬なんだし、常習性がないと薬が売れないし」


「そうねぇ。例えばどんな影響があんの?」

「さぁ……いつもできていたはずの事が、できなくなったり? 私は分からないけど」

「ふーんそう、ふーん」

「な、なによ。その目は」

「そういやリサちゃんさぁ、あの馬車に何を積んでたの?」


 聞いた途端、リサちゃんがしどろもどろになる。


「あとさぁ、ワーウルフに襲われた時。可愛い悲鳴を上げていたねぇ。魔王軍に立ち向かっていた自警団の隊長さんが、あの程度の獣に遅れをとるもんかなぁ?」

「それは……ほら! 私だって女だし、恐い時には悲鳴くらいあげるわよ」

「ふーん、そっかぁ。あ、俺ちゃん喉乾いたから水頂戴」

「ダメ!」


 なんともなしに水へ手を伸ばしたら、リサちゃんが凄い剣幕で払いのけた。


「んー? どうしたの? 俺様ただ水を飲もうと思っただけよ?」

「それは……」

「そういや甘い匂いするねぇこの水」

「えっ、嘘、溶かすと匂い消えるのに」

「うん消えてる。嘘だよーん」

「!」


 カマかけたら明確に顔色が変わった。Bingoみたいだな。

 そもそも最初から違和感塗れなんだよ。自警団の隊長さんが雑魚の獣に怯えるわ、乗ってた馬車から甘い香り……麻薬と同じ香りがするわ。


 んでもって、彼女は自警団の窓口だ。憲兵をある程度コントロールできる。売人が商売する場所を確保するくらい、楽勝だろ。つまり。


「ヘルバリアに麻薬流してんの、君だろ?」

「私は……私は……!」


 リサちゃんはたまらず逃げ出した。追いかけてみましょうかね。


「いつから気付いていたのですか?」

「最初からさ。あの子に出会った時から、変な違和感が鼻に付いてしょうがなくてよ」


 あの子は己の仕事に誇りを持っているんだ、俺様に粗悪品の腕なんて渡すはずがない。それに、俺様の前で悪事がばれるような真似をなぜしたんだ?

 リサちゃんは黒幕に操られてるんだ。あの子は無意識に俺様に助けを求めていたのさ。ザナドゥに薬で体を壊されて、誇りを踏みにじられて……あの子の心はズタズタなんだよ。

 だから助けてやりたいのさ。俺様は女が苦しむ姿を見たくねぇんだ。

 っと、見えてきたな。リサちゃんだ。


「ダメ、来ないで! 私に関わらないで!」

「そーはいかないねぇ、ハワード・ロックは世界で一番欲張りな男だ、苦しむ女は全員助けなきゃ気が済まねぇのさ」


 もう少しで捕まえられる、って時に、目の前を馬車が通り過ぎた。

 そこから手が伸び、リサちゃんを連れ去っていく。ははぁん、薬物販売の元締めさんだな。


「頭が悪い奴らだ、俺様の前であんな事しちゃって。アマンダ!」

「後始末の手配ですね、かしこまりました。憲兵を連れて合流します」

「Very good。これで心おきなくスプラッタ小説のクライマックスを描けるぜ」

「やりすぎないよう、注意してくださいね」

「無理な相談だな。君が来る頃には、全員イケメンに整形されてるだろうさ」


 俺様の前で女を傷つけたんだ、相応の罰を与えてやらねぇと気が済まねぇ。

 待ってなリサちゃん、すぐに助けてやるからな!


  ◇◇◇


 馬車の車輪の痕を追いかけていくと、山小屋が見えてきた。

 複数の馬車が停まっている。成程、あそこで麻薬を一旦保管して、リサちゃんに運ばせていたわけか。リサちゃんに運ばせれば、顔パスで怪しまれずに麻薬を運べるもんなぁ。


「もう、これ以上はやめて! 彼らを離して!」

「そうはいかない。奴らを解放すれば、我々の足がついてしまう」


 リサちゃんの声が聞こえた。息をひそめて窓から覗くと、リサちゃんが複数の男に囲まれている。

 すぐそばには、檻がある。……禁断症状でうめいている、自警団の連中だ。


「下手をこいたな。我らの存在を嗅ぎつけられるとは、それでも自警団の隊長か?」

「もう、薬で半分壊されているけどね……! 一人の女に男が寄ってたかって暴力振るって、薬飲ませて……卑怯者!」


 あ、体が震え始めてる。禁断症状か。

 なぁるほど、隊員を薬物中毒にして人質に取り、さらにはリサちゃん自身も薬で縛り付けて無理やり麻薬を運ばせていたんだな。やり口が狡いぜ、マザファッカが。


「ふん、どうやら貴様の利用価値はもうなさそうだな。憲兵と通じる隠れ蓑として利用していたが、ここで処分させてもらおう」


 リサちゃんが羽交い絞めにされ、喉元にナイフを突きつけられる。


「我らザナドゥが繁栄する糧となった事、光栄に思うがいい」

「そんじゃあ記念にパチェラーパーティでも開いてやろうかMr.wimp(腰抜け野郎)!」


 もう我慢の限界だ。室内に侵入し、ファック野郎を蹴り飛ばす。突然のヒーロー登場に、悪役の皆さん動揺しちゃってるわね。


「何だ貴様は! 我々を誰だかわかっているのか!」

「働きアリだろ? 女王様のために安月給で働かされて大変だな、ケバブ屋にでも転職したらどうだい? ドラッグばらまくより儲かるぜ」

「おのれ……殺せ! 片腕の中年ごとき、早く駆除してしまえ!」


 マザファッカどもが一斉に襲い掛かってくる。ったく、身の程知らずもいい所だぜ。

 こっちは怒り心頭で、手加減できねぇってのによ。


「All right! 特別にカンフー教室開いてやるよ、俺様を倒せば黒帯だぜブラザー!」


 俺様は魔法とステゴロ組み合わせた喧嘩殺法の使い手だ。一対多数の乱戦は得意中の得意なんだよ。

 地水火風の魔法を連発して雑魚どもを圧倒し、華麗な蹴り技でぶっ飛ばしていく。成す術も倒れていく売人どもを見て、ボスが青ざめた。


「く、くそ……! こうなれば切り札だ! 来い!」


―ガアアアアアっ!


 ボスが指笛を吹くなり、壁をぶち破ってドラゴンが突入してきた。

 全長二十メートル、屈強な肉体を持った紫色のドラゴン、アビスドラゴンか。魔王が野に放った、一匹で二個旅団並みの戦力を持つ魔物だな。

 末端に大層なモン支給するたぁ、福利厚生の整った組織だぜ。


「お洒落なペットを連れてるじゃないの。だが運動不足のようだな、おじさんと散歩に行こうか? Hey puppy! Come on baby!」

「調子に乗るのもそこまでだ! アビスドラゴン、その中年を噛み砕いて「おらよっ!」


 雑魚が皆まで言う前に、アビスドラゴンを蹴り飛ばす。一瞬で大気圏を突破し、そのまま月に直撃。どでかいクレーターを作り出す。

 ドラゴンごときが賢者に勝てるわけねーだろファック野郎。


「月が驚いて目を剥いちまったな。んで? 誰がこの中年を噛み砕くんだい?」

「つ、強すぎる……! なんだ、この、男は……!?」


「俺は俺だよ。女好きで、大酒飲みで、ギャンブル狂いで、喧嘩好きなダメ親父。自分でも認める立派なロクデナシだ。だがな、そんな男にも絶対曲げない矜持ってもんがある。……てめぇ、よくもリサの心を汚しやがったな、このクズ野郎」


「ぐ……ふん! 我らに食い漁られる女が悪い。貴様に言われる筋合いなどないわ!」


「どこまでも見苦しい奴だ、そんなに地獄へ急ぎたいらしいな。特別に教えてやるよ、俺は貴様のような輩が大嫌いでな……女の誇りを踏みにじり、魂を傷つけ! 挙句泣かせるような奴を!! 俺は断じて許せねぇんだよ!!!」


 拳を握りしめ、思い切り殴り飛ばす。売人のリーダーは一撃で昏倒した。

 ふぃー、どうにか殺さずに済んだか。マジで手加減できずに殺すところだったよ。


「死んで楽に償えると思うな、これから一生をかけて、リサにしでかした事を償え」

「……ハワード……その、私……!」

「涙で化粧したら折角の美貌が台無しだぞ? ……頑張ったな」


 よっぽど辛くて、恐かったんだろうなぁ。泣きじゃくって、何度も嗚咽を漏らしている。

 頭を撫でてやると、リサちゃんは俺に抱き着いた。禁断症状とは別に、体が震えている。


「ハワード……私……街の人達に……酷い事を……! それに、ハワードまで巻き込んで……ごめんなさい……ごめんなさい……!」

「リサ、Smile」

「え……?」

「思い切り笑ってくれ。俺への礼は、それでいい」


 女は世界の宝だ、特に笑顔はどんな宝石にも勝る財宝だよ。

 その財宝を守る為には、俺のようなロクデナシが必要なのさ。

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