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56話 なぜなら、俺がハワード・ロックだからだ!

 翌日、セピアちゃんやらカインやら、大勢の見送りを受けつつ、俺様は旅立とうとしていた。

 がるるに荷物を乗っけて、アマンダたんとリサちゃんに目配せする。


「準備はいいかいハワードガールズ。というよりリサちゃん、君はいいのかい? ザナドゥを潰したんだから、もうヘルバリアの事を気にする必要はない。無理して俺様についてこなくてもいいんだぜ」

「冗談、がるるの快適さを知ったら戻る気になれないわよ。それに別れたら別れたで、最高傑作の義手があっという間に壊れちゃうでしょうが」


「加えて俺様のスリルにのめりこんじゃって抜け出せなくなったんでしょ?」

「否定はしないわよ。スケベ心丸出しにしてこなけりゃもっといいんだけど」

「そいつは無理さあ、俺様からスケベを取り除いたら何が残るんだい?」

「完璧超人の最強賢者」

「大正解! 欠陥のない人間ほどつまらんものはございませんよっと」


 俺様の女好きは筋金入りだからなぁ。魂にこびりついた特徴なもんでね、外すとなると俺様を殺す以外に方法はないのよ。


「ハワード……行ってしまうんだな」

「それを言ったらセピアちゃんだって王都に戻っちまうんだろう?」

「ああ。此度の一件を報告せねばならないからな。陛下と対面しなければならないから、少し緊張するが」


「恐いかな?」

「いや、もう恐れていない。貴方のお陰で、幻聴も幻視も無くなった。何を言われても私は私を生きるだけだよ。それに疲れたらまた、甘えさせてくれるのだろう?」

「へへ、次に甘えられちゃったら俺様、理性が吹っ飛んじまうかもよ?」

「かまわない、貴方であるなら」


「おっとぉ、予想外の告白じゃない?」

「次に私が苦しくなった時も、呼んだら必ず来てくれるのだろう? その時は……この身を任せても構わない。私は本気でそう思っている」

「そいつは嬉しいお誘いだ。しかし俺様は劇物だぜ、軽はずみな気持ちで近寄られちゃあ、君の体が骨まで溶けてしまう。そうなるのはごめんでね、だから君の告白は受け取れないな」


「ハワード……」

「だけど困った時は必ず呼びな、世界の果てに居ようと飛んでいって、君を助ける。なにせ俺様は、セピアの賢者なんだからよ」

「うん、わかった……」


 俺様だけに見せる甘えた顔と声だ。セピアちゃんの可愛い一面を独占しちまうとは、イケメンすぎて自分に恐怖しちまうぜ。


「師匠! セピアさんばかりずるいですよ、俺も構ってください!」

「お前昨日の今日でそのセリフよく言えるな」

「だってまだ試験始まってませんもん」

「そんな甘い事抜かしてると永遠に追い越せないぜ? 俺様のようなハードボイルドな賢者に、泣き虫で甘えたがりな勇者が勝てるはずがないからな」


 ってわけでカインにデコピンしてやる。こいつらも一度王都に戻り、セピアちゃんを援護してくれるそうだ。

 試験のルールとして、カインには一ヶ月後に俺を追いかけるよう指示している。一緒によーいドンじゃ試験にならねぇしな。


「お前らにつかまらないよう、俺様はとことん遠くまで逃げてやる。精々、俺様に出し抜かれないよう努力する事だな。期待してるぞ、カイン」

「はい! 俺、師匠の期待に応えてみせます! もう一度貴方と一緒に旅をするために。だから、約束してくださいね。俺が師匠を超えたら、勇者パーティに戻ってくれるって」


「当然だ。ヨハン、コハク。こいつをしっかりサポートしてやれよ」

「言われなくても。カインは私の恋人だもの、ハワードさんを捕まえる手伝いならいくらでもしちゃうもんね」

「はぁ……ハワードさんが戻ってくれれば、僕も少しは楽になるのにな……僕も絶対あんたを捕まえてやるからな」


「ははっ、ストレスでハゲ作っても心配すんなよ、俺様が治してやるから」

「はげる事前提で話をしないでくれないかな!?」

「いやー、ヨハンってやっぱいじりがいあるわー」

「いじるな!」


 周りが笑いに包まれたところで、出発の時間になる。最後に、カインと握手を交わした。


「じゃあな、成長した弟子ともう一度会うのを楽しみにしているぜ」

「俺も師匠の活躍楽しみにしていますから。またお会いしましょう」


 爽やかに別れを告げて、勇者に見送られながら俺様達は旅立った。

 あっという間にラドラが見えなくなって、カイン達が遠ざかる。さてと、カインは果たして俺様を追い越してくれるのかな? 今から楽しみで、胸がわくわくしてくるぜ。


「それでハワード、次はどこへ向かいますか?」

「実は決めてねぇんだわ。ま、風の向くまま気の向くまま、行き当たりばったりでいいんじゃねぇの?」

「ふふ、ハワードがそう言うのなら、暫くはのんびり過ごしましょうか」


 アマンダたんが微笑みながら同意してくれる。そしたらリサちゃんが首を傾げた。


「ところでさ、アマンダはなんのためにハワードについて来てるんだっけ? カイン達がダメでアマンダがいいのなら、当然なにかあるんでしょ? 夢とか目標が」

「私の夢と目標ですか? そうですね……」


 アマンダたんは俺様を見てから、悪戯っぽく笑った。


「秘密です♡」

「なんじゃそりゃ?」

「乙女は秘密が多い方が魅力的に映るものなのですよ。そうでしょう、ハワード?」


「Off course。ミステリアスなレディは大歓迎だ、俺様のアシスタントなら尚更最高だね。そんじゃあがるる! 全速力でかっ飛ばすぜ!」

―がるるっ!


 ガンダルフが思い切り地を蹴り走り出す。俺様の向かう先に退屈なんてありえない、台風のように暴れまわって、人生を自分らしく、とことんエンジョイしてやる。

 この命が燃え尽きるまで、ハワード・ロックを全身全霊全力で遊び尽くす。そいつが俺様の目標でありゴール地点、終わる事のない夢だ!


「さぁ、次はどんな面白い事をしてやろうかな!」


 常人じゃ味わえない、アクシデントを楽しむスローライフ。そいつを味わえるのは、この世で俺様ただ一人さ。

 なぜかって? そんなの決まってるだろ。



 なぜなら、俺がハワード・ロックだからだ!

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