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52話 約束を必ず守ってくれる、最高のロクデナシ

 ラドラに攻め込んだザナドゥも、クロノア達により掃討された。

 アマンダとリサが住民を避難してくれた事もあり、犠牲者は誰も居ない。これで残るは、ザナドゥの党首ジョーカーのみ。

 全員集合し、ザナドゥの旗船を見上げる。飛空艇からは禍々しい紫の光があふれており、儀式が完了間近のようだ。


「いよいよクライマックスか。大昔からタイムスリップしてきたゲストと遊べるとは、貴重な体験が出来そうだぜ」

「済まないハワード、どうやらこの先は、力になれそうにない……私の失態なのに、貴方に全てを任せてしまうとは。自分が情けないよ」

「セピアちゃん、顔を上げてごらん」


 言われた通りにすると、ハワードはセピアの尻に触れた。


「ひゃんっ!? な、何をするか貴様!?」

「いやー、一緒に踊っている間ずーっと後ろでお尻をふりふり揺らして誘惑してきたじゃん? いい加減我慢の限界だったもんでね、君の極上の桃尻を堪能させてもらおうかと」


 直後、賢者はセピアとアマンダとリサの三人に袋叩きにされた。


「すいません団長様、このド阿呆が無礼を働いて」

「とりあえず締めておいたので、お許しいただけませんか?」

「今はな、後で改めて制裁を加えるとしよう」

「そんなデザートこっちから願い下げなんだけど……」


 よろめきながら立ち上がったハワードに、セピアはため息を吐いた。


「こんな時なのにふざける方が悪いだろう、何を考えているのだ貴様は」

「俺様だからふざけていいのさ。第一、この程度なんか問題にすらなってないよ。だって俺様が勝つのは決定事項なんだ、塔の魔人だろうが、この賢者に勝てるはずがない。だろう?」

「そうですね、ハワードが負けるなんてありません。私達は、貴方がどう鮮やかに勝つのか見ているだけでいい。それが勇者パーティの賢者のスローライフですものね」

「分かってるじゃなぁいMy steady♪ 愛してるぜぇ♡」


 アマンダに投げキッスし、ハワードは楽しそうに飛空艇へ足を向けた。


「ちょい待ちハワード! 行く前に右腕見せなさいよ、万全な状態にしとかないと、宴会を楽しめなくなるわよ」

「おっとっとぉ、危ない所だったぜ。ピクニックに行く前に、雨具のチェックを忘れちゃあ駄目だよな」


 というわけで座り込み、リサに整備をしてもらう。彼女の予想通り、義手はキングとの戦闘でガタガタになっていた。


「全く、私のアートを丁寧に扱えって何度も言ってるのに。ほらできたわよ」

「Thanks! いい感じだぜ、指先までなめらかだ。いやー、美女から丁寧に看護されるとは、やっぱこの義手最高の機能がついてるなぁ♡」

―わふっ


 がるるが乗れと言うように背を差し出してくる。飛空艇まで連れていくつもりなのだろうが、ハワードはこれを固辞した。


「悪いがこっから先はお子様禁止でね、がるるにゃ悪いが、俺様一人で行ってくるよ。土産に燻製肉でも買ってくるから、我慢してくれ」

―くぅーん……

「しょんぼりしないでくださいがるる。私とハグしながらハワードの帰りを待ちましょう」


 はぁはぁ息を荒らげ、頬ずりするアマンダに、がるるは本気で嫌そうな顔をした。

 塔の魔人を前にしているのに、いつもの日常と全く変わらない。ハワードにしてみればこの事態ですら、スローライフの一部でしかないのだろう。


「不思議だな……心配すべき時なのに、まるで不安にならない。本当に、出かけるのを見送るような感覚だ」

「そりゃ、俺様にとっては買い物に行くようなもんだからな。骨董品に興味なんか毛ほどもねぇが、君に似合う可愛らしいティーセットでもありゃ買ってきてあげるよ」


「……紅茶」

「ん?」

「淹れるの、趣味なんだ。だから、買ってきてくれるとありがたい」

「いいぜ、最高にハイセンスなもん選んできてやる。俺様、美的センスも天才だからな」


 ハワードは笑い飛ばすと、


「んじゃま、昼飯までには戻ってくるさ」

「大好物のケバブを用意して待っていますよ」

「ありがとぉーアマンダたーん♪ そいじゃ、ちょっくら行きますか!」


 ハワードは勢いよくジャンプして、飛空艇へ一っ飛びしてしまう。

 置いていかれたのに、まるで寂しくない。ハワードがちゃんと戻ってくると、セピアたちは分かっているから。


「ハワード氏は、どんな風に勝つんでしょうね。遠すぎて戦う姿を見れないのが残念です」

「決まっているとも、圧勝だ。ハワードが苦戦するなんて、ありえないさ」

「うんうん。あいつはスケベでアホでギャンブル狂いで女好きで、所かまわず軽口かましてうざったらしくて、どこまでも賢者らしくないけど……」

「約束を必ず守ってくれる、最高のロクデナシですから」


 その場に居る誰もが、ハワードを信じて疑わない。そうさせるだけの力が、彼にあるから。


「そうだね、ハワードさんにかかれば、ザナドゥなんか敵じゃあないさ」

「あの人ほど、恰好のいいダメ男は他に居ないものね」


 セピア達の背後から、聞き覚えのある声がした。

 驚き振り向くなり、赤い影が通り過ぎる。少し遅れて突風が吹きすさび、セピア達の髪を舞い上げた。


「あの赤毛は……それに、貴公たちは!」

「いやぁ……本当に、本っ当にやっと追いついた!」

「翻弄されっぱなしで疲れちゃったわ。本当に意地悪なんだから、ハワードさんってば」


 そう零すのは、緑髪の戦士ヨハンと、青髪の魔法使いコハク。

 ハワード・ロックが所属していた、勇者パーティの仲間達だった。

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