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50話 party time

「団長! 緊急事態です!」


 翌朝、俺様達の下へクロノアが転がり込んできた。

 外も随分騒がしい。方向からして港で何か起きたみたいだな。


「ザナドゥの、移動基地です! ハワード氏の予想通り、奴らは移動拠点を使用し、海中に隠れていたようです!」

「それが今、ラドラに侵攻を開始したわけか。賢者ハワード」

「OK Buddy、ザナドゥの相手にも飽き飽きしていた所だ。今日は丁度粗大ごみの日だし、スクラップにして廃棄してやるよ。アマンダ、リサ、がるる! Are you ready?」


「ええ、問題ありません。斧は研いでおきました」

「避難経路、ちゃんと用意してあるよ。がるると一緒にガイドビーコンも設置したし、あとは兵士と連携すれば混乱なく誘導できると思う」

―がるるっ!

「いいお返事だ。ザナドゥの送別会、派手に繰り出してやろうぜ!」


 開始のクラッカー代わりに扉を蹴り壊し、主賓を出迎えに走り出す。港には、随分ゴキゲンな光景が広がっていた。

 海が大きく盛り上がるなり、帆船をひっくり返して、乳白色の飛空艇が飛び出してきた。側面に無数の砲台を備え、船底にはオールのような突起物が空を掻くように動いている。大きさはガレオン船四隻が丸々収まるほどで、俺様も初めて見る規模の飛空艇だ。


 目を細めると、船首にキングと……もう一人、男の姿が見えた。

 俺様には負けるが、中々精悍な顔した中年じゃねぇか。黒ずくめの服装で固めているのはセンスを疑うがね、背負った大剣も禍々しいデザインだし……ちょっと面白いなあいつ。


『初めまして、勇者パーティの賢者ハワード・ロック。我らザナドゥに楯突きし愚かなる男よ』

「はっ、こんなイケメン賢者指さして愚か者とはご挨拶だな。ナイスなファッションしているが、てめぇがザナドゥの元締めか」

『左様。我が名はジョーカー。魔王に代わり、この世を手中に収める者だ』


 船首で両腕を広げ、高らかに宣言するボス。よどみのない声色で、聞く者に威圧感を与える野郎だぜ。


「ジョーカーね、ラストを飾るに相応しい名前じゃねぇか。ファイブカード狙うには札が足りねぇようだがな」

『問題はない、今そこにエースが居る。ハワードと言う名のエースがな』

「成程! 俺様を取ればロイヤルストレートフラッシュ出されても関係ないと! 今年一番の面白いトークだ、犯罪より漫談でもした方が向いてるんじゃねぇか?」


 俺様を一番格の役に例えてくれるとは光栄だ、けど知ってるか? ポーカーのジョーカーはローカルルールで入れる物でね、場合によっちゃ最弱の役になっちまうんだぜ?


「俺様を最強の役にしちまったらお前の格が落ちちまうぜワイルドカード?」

『クルピエーに口答えをして、イカサマに嵌められても知らんぞ。エース?』

「くっくっく……」

『ふっふっふ……』


「『はっはっはっはっはっはっはっは!!!』」


 なんだよこいつ、意外と俺様と話が合うじゃねぇか。こんな形ではなく、酒場でバーボン酌み交わしながら会いたかったもんだぜ。

『これより塔の魔人復活の儀を執り行う! いかに貴様と言えど、かつて世界を滅亡寸前まで追い詰めた怪物には適うまい! ハワード・ロック、今日が貴様の命日となるのだ!』

「俺様の命日を決めてくれるのかい。は……That’s over the table maximum! フルスタック何ダース分だと思ってんだ? 自分の命日は自分で決める、いきなり横から出てきたエキストラが勝手に決めないでもらいたいね。

 キングとジョーカーまとめて奪って、俺様がファイブカード決めてやるよ。てめぇにゃブタ揃えるのが精いっぱいだろうがな!」

『ギャンブルに弱い貴様に出来るかな。さぁ、パーティを始めよう!』


「ハワード! 船から一杯敵が出てきたよ!」


 リサが指さすなり、飛空艇から無数の空挺部隊が降りてくる。総力を挙げて俺様を足止めするつもりかい、あくどい商売しているカジノだぜ!


「クロノア! 近衛兵の総力を挙げて奴らを駆逐しろ! あの程度の雑兵どもなど敵ではない!」

「了解! 我らの力、見せつけてやりましょう!」

「総員私に続け! ザナドゥの息の根を、ここで止めてやるぞ!」


 セピアを旗印に、兵達がザナドゥへ向かっていく。けどその目の前に立ちふさがる影が一体。


「飛び出し注意だぜお嬢さん、下がりな!」


 セピアの腕を引き、背中に隠してやる。俺様の鼻先にメイスの一撃がかすめ、風圧で前髪が舞い上がった。


「儀式の邪魔はさせん。このキング、命を賭して盾となろう」

「盾? うちわの間違いだろう、心地よいそよ風起こしてくれてありがとな」

「ほざけ!」


 キングが横殴りにメイスを振り回してくる。そいつを避けつつ、セピアを抱えてバック宙ってな。


「姉様!」

「私は大丈夫だ、お前はザナドゥの対処に回れ、我らの使命を忘れるな!」

「はっ!」

「アマンダ、リサ。君らは住民達の避難誘導を頼む。戦闘はクロノア達に任せときゃ大丈夫だ、君らは君らの役目を果たしてくれ」

「かしこまりました、くれぐれもやりすぎないよう気を付けてください」

「どさくさ紛れにスケベな事すんじゃないわよ」


「はっ、真昼間から美女と一発すんのも乙なもんかもな。Come,onがるる!」

―ばうっ!

「美女二人の足を痛めつけるわけにゃいかねぇからな、二人を乗っけてラドラを駆け回ってくれ相棒!」

―がるるっ!


 リサとアマンダを連れ、がるるが走っていく。クロノアも兵を率いてザナドゥの対処に向かい、残るは俺とセピアのみ。


「リベンジと行こうか。剣を抜きな」

「ハワード?」

「君の失った自信を取り戻すには、君の手で欠けたピースをはめる必要がある。俺が背を押す、あの王様気取りのガラクタ人形を、一緒にぶっ壊してやろうぜ」

「……ありがとう、ハワード……!」


 セピアは剣を抜いた。己の運命を文字通り、その切っ先で切り開くために。


「守るべき民に弾圧を強いる愚かな王よ、その粗末な城壁ぶっ壊して素っ裸にしてやるから覚悟しな! 馬鹿には見えない衣装を用意してあるからよ!」


 さぁ、下克上の始まりだ!

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