44話 麗しき団長様の彼氏役、確かに引き受けた
「しかし、見事な剣捌きだった。あれほどの腕があるのに、なぜ剣を使わない?」
「手入れが面倒くさくてね、ステゴロの方が楽で手早いから好みなの」
「全く……その無精さえなければ尊敬に値する賢者だと言うのに」
ラドラを回りつつ、俺様とセピアちゃんは他愛ない話に花開かせる。うーん、ふりふり揺れるお尻がなんとも美味しそうだ。
「おい、そのやらしく蠢く手はなんだ」
「いやぁ、折角二人きりなんだし、久しぶりにその桃を堪能しようかと」
「手首を切り落とすぞ! ……本当に、ブレない男だ。心配していた私が馬鹿ではないか」
「隻腕になった事か。皆この怪我の事言うんだよなぁ、俺ぁむしろこのハプニングを楽しんでるんだぜ。両腕揃ってちゃ味わえない経験が出来て飽きねぇしよ」
「どうしてそんな大ケガを楽しめるんだ。まともな神経ではないぞ」
「あいにく、物心ついた時から頭の箍が外れていたもんでね」
「だろうな。して、カインは元気にしているのか?」
「してるさ、俺様を勇者パーティに連れ戻そうと追い回しているよ」
「連れ戻す? まさか、パーティを引退したのか?」
「まーね」
経緯を話すと、セピアちゃんは目を閉じた。
「カインの重荷にならないようにか、だがカインはお前を求めている……なんともジレンマな関係だ」
「あいつの一方的な片思いなんだけどな、全然師匠離れできていない奴で困っちまうよ。いつまでも俺様に甘えやがって、あの馬鹿弟子が」
「魔王を倒した勇者も、戦いから離れれば子供だな」
「……まぁ悪い気はしないんだけどね。丹精込めて育てたから俺様に似て器量よしのイケメンに成長してくれたからな、師匠として鼻が高いぜ」
「なんだかんだ貴公もカインが大好きじゃないか」
「愛してない奴のために右腕捨てられるわけないじゃない?」
「それもそうか」
セピアちゃんがほんのりと笑った。その笑顔が、少しだけ弱弱しい。
港に着いた頃合いに、彼女がしたがっている話題を切り出してみた。
「まだ落ち込んでいるのかい? 国王から食らった一言が」
「……無理もあるまい、私の力不足が招いた結果だ」
「けどよぉ、クロノアから聞いたが、上の者の一言にしちゃ酷すぎるぜ」
セピアちゃんは頑張ったんだが、魔王軍に連敗してな。それで上司の国王から受けた一言がこれだ。
『仕事もできない、戦う事も出来ない、この税金泥棒が! 一体誰が貴様をその地位に立てたと思っている、恥を知れ!』
「散々っぱら頼り切っていた女にぶつける言葉かねぇ。頭に乗っけた豪華な王冠と違って、中身はあばら屋みてぇにスカスカな国王だぜ」
「……魔王を相手に、醜態をさらした私が悪いんだ。全ては私の、力不足さ」
海を眺めながら、セピアちゃんは力なく拳を握った。
「……その腕、本当に痛くないのか? 体調がすぐれなくなったりとか、しないか?」
「していたら美女との一発求めて旅に出ないだろう?」
「それもそうだな。全く変わっていなくて、呆れてしまったものな」
俺様の義手に触れ、目を閉じる。色っぽい仕草に思わず見惚れちまったよ。
「貴公の強さが羨ましいよ。貴公も多くの重圧を背負っているのに、私と違って堂々として、臆する事が無い。やはり「神の加護」を持っているから、賢者だから貴公の心は強いのかな」
「いんや、どれだけ大層な肩書や力を持っていようが、魂が錆びていれば意味はないさ。何があろうと俺様は俺様で居続ける。この決意が若さの秘訣さ」
「ふふ……確かに貴公の魂は、溢れんばかりに輝いているな」
セピアちゃんは苦笑し、何度も頷いた。
「済まないな、このような弱音を部下や、ましてやクロノアの前でするわけにはいかなくてな……けどおかげで、少しだけ胸の内が軽くなったよ。ありがとう、賢者ハワード」
「こちらこそ、君の可愛いお尻を眺める事が出来て役得さ」
ってなわけで遠慮なくもみもみと。やっぱこれまで触ってきた中でナンバーワンのお尻だなぁ。
当然、卍固めでお仕置きされちゃったけどね。手足が曲がっちゃいけない方向に曲げられてるんですがその。
「どうして無理やりセクハラに繋げるんだお前は!」
「そりゃ貴方、ハワード・ロックが美女を前に手を出さないなんて真似しないでしょうが」
「ぐっ……怒りたいのに、言い訳に納得してしまって怒れない……!」
「へっへー、ここでもまたまた俺ちゃんの勝ちー」
「はぁ……どうやっても、貴公には勝てないな。そんな貴公だからこそ、私は惹かれてしまったのだが」
「そりゃ、どういう意味かな?」
「へっ? あ、いや! これはその……言っておくが! 私は貴様のような破廉恥男にほだされたりなどしないからな!」
いやぁ、バレバレだってその態度。俺様の前じゃ団長様も形無しだねぇ。
「ともかく! 貴公はもっと賢者として慎みを持て! そうすれば父上だって貴公を認めて……って何を言わせるんだ!」
「さっきから自爆しっぱなしだぜ、シャワーでも浴びて頭冷やしてきなよ」
「うう……そうしよう……貴公と居るとどうも、調子がくるってしまうな……」
セピアちゃんはとぼとぼと去っていく。そのお尻を見送ってから、
「さてと、そこで隠れているハワードガールズ&副団長さん。出てきなよ」
「……やっぱバレてたかぁ……」
「貴方には隠し事ができませんね」
無造作に積まれた木箱の影から、アマンダたんとリサちゃんが出てくる。ついでにクロノアもな。
「あんたさぁ、そのセクハラ癖どうにかならないの?」
「無理ですね、というよりハワードがセクハラしなくなったらそれはそれで不気味です」
「それもそうか、どうしようもないおっさんだわ」
「おーい、随分酷い言われようじゃない? 俺ちゃん泣いちゃうぞ」
「勝手に泣いてろ」
「うわーん、リサちゃんがいたいけなおっさんをいじめるんだけどー、ひっどぉーい♡」
「普通に気持ち悪いわ!」
「……ハワード氏、姉様の重荷を軽くしていただき、ありがとうございます」
「男に礼を言われても嬉しくねぇよ」
「それでも、言わせてください。姉様はずっとふさぎ込んでいまして……立場上、俺にも弱い所を見せられませんし」
「まぁ、色々浮世離れしすぎた子だからな。縋る藁すらないってのは、辛いだろうよ」
近衛兵団のトップかつ、名家の長女だ。俺様みたいな自由人と違って、常に人の模範になるようふるまわなくちゃならない。
だからこそ、挫折して折れた心を治す暇がないんだろう。凛々しい顔で隠しているが、彼女の心はひび割れ、今にも砕けそうになっているぜ。
「……ハワード氏、お願いします、姉様を助けてください。姉様を救えるのは、貴方だけなのです。このままではいずれ、姉様の心が壊れてしまいます」
「OKブラザー。男の依頼は受けない主義だが、美女が絡めば話は別だ。麗しき団長様の彼氏役、確かに引き受けたぜ」
んでもって、仕事の時間が早速来ちまったようだ。とっとと追いかけて、助けに行きましょうかね。




