41話 賢者のbreakfast
深い森の中に、朝日の木漏れ日が差し込んでくる。野宿の夜明けだ。
そんな中で俺様は、美女二人の寝顔を堪能しつつ……楽しい楽しいcooking time♪
「カンカンのフライパンにー♪(ばうっ!) 油を少々解いた卵をじゅわー♪(わんっ♪) 味の秘訣は四種のチーズ♪(うぉん!) ゴルゴンゾーラにモッツアレラ、パルミジャーノ・レッジャーノ♪(わんわんっ♪) クリームチーズも忘れない♪(わんっ!) 卵が半熟になったなら、ブレンドチーズをくるりんぱっ♪(わふぅっ♪)」
がるるも合いの手を入れてゴキゲンだ。綺麗に焼きあがったら盛り付けて、パセリとトマトソースで飾り付けー。うーん我ながらいい出来だぜ。
これだけじゃ足りないから、ベーコンベーグルにレタスサラダもつけましてっと。
「んあ……ハワード、おふぁよぉ~……」
「ふぁ……まだ少し眠いです……」
「Good morning! 俺様特製モーニングセットが出来上がったぞー♪」
―わふっ♪
がるると一緒に、お寝坊さんなハワードガールズへモーニングコール。いい香りに二人とも目が覚めてきたようだな。
「コーヒー淹れとくから、その間に身支度済ませておきな」
「んー、いつもありがと……ふぁぁぁぁ……」
「寝ずの番、よくできますね……」
「前にも言ったが、俺様は自己暗示で即座に寝起きが出来るんでな。その気になりゃ、数年は寝ずに過ごせるんだ」
「どんな体してんのあんた。いつも思うけど規格外と言うかなんと言うか……」
「ハワードだから仕方ないですね」
「生きてりゃ楽しい事がいっぱいあるんだ、寝てる暇なんかありゃしないぜ。それよか身支度済ませてきな、せっかくのモーニングが冷めちまうぜ」
二人にコーヒーを出して、breakfastのお時間だ。アツアツのチーズオムレツを食うなり、二人の目が見開かれる。
「美味しい! やっぱあんた料理上手いよね、悔しいけど私より上だわ」
「こう見えてシェフ並の腕前を持っているもんでね、御希望とあれば満貫全席も余裕だぜ」
「勇者パーティの頃は、交代で料理当番をされていたのでしたよね」
「ま、俺様があいつらに教えたからな。特にコハクは飲み込みがよかったぜ」
俺様のおかげでコハクもプロレベルの腕前を持ったからなぁ。カインを勇者に育てた事といい、俺様は人を教える才能にまであふれているようだ。自分が怖いぜ☆
「サブレナを出発して、今日で三日目ですか。もうすぐ目的地に着くのですよね」
「おう。ザナドゥはどうやら、俺様と海水浴デートがお望みのようだ。スリングショットの似合う美女でも用意してくれれば最高なんだがね」
連中が指定してきたのは、アザレア王国の海の玄関口、ラドラだ。
そこで俺様と決着つけるつもりのようだが、水着じゃなくて命をぽろりしちまっても知らねぇぞ。
「さぁて……俺様を誘うって事は、きちんとしたおもてなしを用意してんだろう? 期待させてもらうぜ、愛しのザナドゥさん」
◇◇◇
がるるを走らせ一時間、目的地のラドラが見えてきた。
アザレア王国南方に位置する、他国との貿易拠点となっている港町だ。大型船が停泊する港には、多くの貿易商たちが行き来するのが見えた。
街も津波や高潮対策で小高い丘に建てられていて、赤や黄色、緑に青と、カラフルに塗装された家々が並んでいる。うーん、パンキッシュな見た目の街だぜ。
ここは外国から来た芸術家が多く住んでいてな、そいつらが共同で街をアートに変える計画を立て、家々を綺麗にカラーリングしたのが始まりなんだとか。
「綺麗な場所だね。こんな所をザナドゥは荒らそうとしているんだ」
「アーティスト気取りで、自分達の芸術でも見せつけようって腹なんだろうさ。やるんなら、男心をくすぐるグラマーな女神様でも街一面に描いて欲しいもんだぜ」
「ザナドゥにそんな絵心があるはずありませんよ」
―わふっ
「おやおや、がるるまでため息つくとは。お前さん、美術品の価値分かるのかい。興味あるなら俺様がレクチャーしてやるよ、裸婦画でも描いてな」
「絵のチョイス考えなさいよ……大体あんた、教えられるほど絵心あんの?」
「甘く見るなよ、俺様はハワード・ロックだぜ?」
ってなわけで、二人を題材にかるーくラフ画を描いてやる。あっという間にできていくデッサンに、二人とも感心した顔になった。
「めっちゃ上手いじゃん! え、これ私? 実写より綺麗じゃん」
「そう言えば僧侶時代、教会にも油絵を何枚か描いて寄贈しましたよね。もれなく全裸の女神様を描いていましたが」
「そりゃあ創作意欲を引き出すのはいつの時代も裸の女だろう。男の裸なんざ描いても誰も得しねぇって」
ちなみに、教会に寄贈した絵は画商から数億ゴールドで買いたいって声が出る出来栄えだったんだぜ。いやー、俺様ってば本当に才能の塊で困っちゃうぜ。
「ねぇアマンダ、ハワードにできない事ってあんの?」
「私が知る限り、我慢と辛抱と自重くらいしかないですね」
「我慢や辛抱や自重なんかしてこんなの上手くならねぇって。やりたいことを我がままに挑戦しなくちゃ上手に歳を取れないぞ」
「ですがすぐに極めてしまいますから、すぐに飽きて長続きしないんですよね。もったいない」
「そりゃ、熟練度マックスのスキル何度も使ったって楽しくねぇじゃん。新しいスキルを極める方に舵取ったほうが楽しいって」
できる事が増えた方が人生楽しめるしな。今日は気分が乗ってるし、もう一枚描いてみるか。俺様は記憶力が良いんでね、知り合った美女は全員見ないで描けるんだ。
「そういや旅している時に、世話になった美女が居たなぁ。こう、きりっとした顔をしていて……んでもってボンキュッ……ボォォォォン! なボディの美女なんだよ」
「なんで下半身をそんな強調すんのさ。胸もデカいのが腹立つけど」
「この方は……あの方ですか」
「おっ、流石はアマンダたん。やっぱ気付いたか。そうさ、彼女はアザレア王国が誇る師玉の美女、その名も」
「貴様ら、そこで何をしている」
往来のど真ん中で絵なんか描いてたせいか、憲兵さんに声をかけられちゃった。
平謝りしようと顔を上げたら、意外や意外、憲兵ではなく王国近衛兵団の人ではありませんか。しかも、ただの近衛兵様じゃない。
俺様の描いた絵にそっくりな、最高の美女だ。
艶やかな銀髪、凛とした空気を纏うクールな顔立ち、黒い宝石を嵌めたペンダントが彩る豊かな胸。そして鎧で覆っていても分かってしまう……安産体形が特徴のナイスバディ!
「もしかして君は」
「……まさか、お前は!」
俺様を見るなり彼女は、剣を抜いた。
「なぜ、なぜ貴様がここに居る! ハワード・ロック!」
「そいつは俺様のセリフだぜキティ! 王国近衛兵団長、セピアちゃーん!」




