35話 全身オリハルコンおじさん
「擬態能力だと……それがクィーンの能力!?」
Mr.オズマにさっきの事を伝えたら、随分とまぁ驚かれたぜ。擬態能力があるとなれば、周囲の人間に簡単に紛れ込めるからな。結構いやーな能力だぜ。
「くっ……ハワード・ロック! お前さえ、お前さえ来なければこんな事に!」
「そいつは結果論だぜMr,オズマ。文句があるなら今すぐ違約金払って街から出て行こうか? 他にマダムの声を取り返せる当てがあるならな」
「ぐぬ……!」
「パパ、おじさんは私を守ってくれたから、そんなに怒らないで。ナイフで刺されたんだよ、私をかばって……」
デイジーが俺様を擁護してくれる。俺様は淑女の頭を撫でてやり、ウインクした。
「優しい子だな。けど心配ご無用、傷なんて牛乳飲んだら治っちまったよ」
「彼の言う通り、心配する必要はありません。ですがハワードの悪い所でもありますよ、無駄に自分の体を切り売りしてしまうのですから」
「ほしけりゃ買ってもいいさ、一グラム五〇〇ゴールドで量り売りしてやるよ。それにそうまで擬態能力を恐がる必要はねぇさ。ネタバレすりゃ、初見殺しの技術でしかないからな」
「ええ。私も擬態を見破る方法は心得ていますし、がるるにも擬態は通用しませんから」
―がるるっ
がるるが自信満々に胸を張る。ガンダルフの嗅覚なら、いくら擬態しようが臭いで分かるからな。
「常に俺らが傍に居れば、クィーンの襲撃は恐くないさ。ただ、敵に場所が割れてるからな。ホテルは変えた方がいいだろう。人と接するのも極力減らした方がいい。二人とも、今日は俺様達のホテルに泊まりな。傍にいてくれた方が安全だ」
「…………(こくり)」
「私も、分かったよ」
「いい子だ。Mr.オズマもそれでいいな」
「ああ、最低限の荷物をまとめて移動しよう。……賢者ハワード、こうなれば最後まで責任を取ってもらうぞ。私の家族を、なんとしても守ってくれ」
「OK、直筆の保証書も添えておくぜ」
って事で最小限の人数で移動っとな。その間もデイジーは俺様を心配そうに見つめて、クイーンに刺された所に触れてくれた。
「……おじさん、さっきの怪我、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫じゃなきゃ今頃病院で美人の女医といちゃついているさ」
「けど、私のせいで……痛かったでしょ?」
「くくっ、意外と繊細だねぇ。よし、そんじゃあ練習後にいいもんを見せてやろう。最高のナイトショーにご招待するぜ」
「……うん……」
デイジーは随分心を乱されたみたいだな。迷える娘を救うために、この大賢者様が一肌脱いでやるとしますかね。
◇◇◇
「今宵もやってきました! 筋肉天使ハワードちゃんのぉ、ナウオンステェェェイジ!」
『おおおおおおおおおーっ!』
ってなわけで、夜になった頃。筋肉が躍動する宿酒場バルクにて、俺様第二のマッスルステージ開幕だ!
肉体美を披露する俺様にデイジー達はぽかんとしている。その横じゃアマンダたんが目を輝かせ、リサちゃんが呆れ顔で立ち尽くしていた。
「ははは……ごめんね、馬鹿が馬鹿やってる姿わざわざ見せちゃって……」
「……おじさん、何してんのあれ……?」
おっとぉ、何白い目で見てんのかなデイジー。俺様はただ、この鍛え抜かれた肉体美を見せつけているだけだぜ。
「ほれ腹筋、背筋鍛えてmuscle! hustleしちゃうぜ俺様の筋肉! 見よこれ全身オリハルコンだぜbaby yeahhhhhhh!!!」
『Yeaahhhhhhhhhhhh!!!』
彫刻の如き筋肉を見せつける度沸き上がる歓声! あふれ出る漢の魅力に全員うっとりだぜ! 俺様テンションマキシマーム!
「やーんもぉ最高よぉハワードちゃあん♪ ありがとぉリサちゃあん、ハワードちゃんのおかげで二日連続売り上げ爆上げよぉん☆ 明日も彼のスケジュール空けといてぇん♡」
「あれ、なんで私があいつのマネージャーみたくなってんの?」
「それよりも、宿の工面ありがとうございます。おかげで助かりました」
「いいのよぉアマンダちゃあん、丁度都合よくキャンセルが出・た・か・ら♪ マダム・ローラとデイジーがあたしの宿に来ちゃうなんて驚いちゃったわぁん☆ そ・れ・に♪ あたし好みのナイスミドルなおじ様まで一緒だなんてぇ……もう本当美味しそうなお尻、食べちゃいたいわぁ(じゅるり)♡」
「お、おいにじり寄るな! なんだこの宿とオーナーは!? 空気が濃すぎるだろう!?」
だが急な事態にも快く対応してくれる、懐の大きなオネェ様だ。しかも聞けば元アザレア王国軍精鋭部隊、近衛兵団の大隊長だったそうだ。
そんなんが常駐してるとか下手なホテルより安全だなこの宿酒場。
「……しかし、あんな阿呆が勇者パーティの賢者なのか……あんなのに我々は救われたのか……」
「と言いつつ、ハワードに釘付けですね。あの肉体美が羨ましいと見ましたが」
「う……最近、腹が出てきていてな……四〇代なのに、どうしてあんな体が保てるんだ。羨ましい……」
「…………!」
オズマは勿論、マダムも俺様の体にうっとりだ。クィーンに襲われてるってのに、随分リラックスしてんねぇ。
「はぁ……もうほんと、信じらんない。心配した私が馬鹿みたいだし」
「ダメよぉデイジー、暗い顔しちゃノンノン♪ あたしの「バルク」は筋肉と笑顔がはじける宿酒場♡ ハワードちゃんの筋肉で、心配事なんて全部吹っ飛ばしちゃいなさい☆」
「いや意味分からないから……もう本当、馬鹿みたい……ふふっ」
デイジーはため息をついて俺様を見上げて、小さく笑った。
ははっ、そうそう。俺様を心配するほど馬鹿らしい事はないぜ? なにせ俺様は無敵だ、こんなアホな事する余裕があるくらいにな。
「……ふふっ、あはははっ! もう、変なおじさん……あははは!」
やぁっと笑顔が戻ったな。ったく、十代笑かすのに道化を演じるのも大変だぜ。




