31話 今日も平和な勇者パーティ
勇者カインはカジャンガの冒険者ギルドにて、依頼達成の報告をしていた。
この数日、カインは生き生きしていた。
キサラは相当なハワードファンだ。ハワードを心の底から愛してやまないカインにとって、初めてできた同好の士でもある。
『師匠のいい所と言えば、やっぱりギャップですよね!』
『わかります、とてもわかります! 一見軽薄なのにとてもインテリジェンスで、強大な敵と戦う時に見せる狼のような野生の面立ちは……凛々しくて孤高で目を奪われます!』
『そうそう、でもベストバウトは、自分を心の底から楽しんでいる、大人の男の笑顔だと思いませんか!?』
『ミートゥーです!』
『わかってるぅー!』
……こんな感じの会話が、連日続いているのだ。
愛する人を思い切り語り、その想いを共有できる喜びにカインは胸躍らせていた。ハワード成分が枯渇し、禁断症状が出ていた彼にとって、キサラとの語らいは砂漠で見つけたオアシスの如き癒しでもあった。
「とはいえ、何もしないでいるのは勇者の名折れだし……きちんと街に還元しないとな」
キサラにも医学の勉強がある、なので昼間は冒険者として依頼をこなし、夜は遅くまでキサラにハワードへの愛を語る、というスケジュールを送っていた。
「あいつ……ハワードさん好きすぎるよな……」
「あら、ハワードさんも女性目線だと点数高いわよ? 年齢が近かったら私、カインとハワードさんで悩んでいたかも」
「いや、僕も男として憧れてはいるけど……あいつのあれはガチホモじゃん」
「愛情深い男性って素敵よね」
「君はカインに甘すぎない? というより、カインが他の女と仲良くしてるのは彼女としていいの?」
「それも大丈夫よ、カインは必ず私の胸に戻ってくるって信じているから。万一鞍替えするようならきちんと処理しておくつもりだし、ぬかりないわ」
「恐いから! 何をするつもりだ何を!?」
「ナニを根元から引っこ抜くつもり」
「魔王より魔王な考えしてるね君ってば!」
ヨハンとコハクの漫才が終わった頃合いに、カインは話しかけた。
「よし! これで今日のノルマは達成だ、子爵邸に戻ろう!」
「おー!」
「なぁカイン、こんな事してるよりもハワードさんを追いかけた方がいいと思うんだけど」
「何を言っているんだ、師匠への愛を語らう方が大事じゃないか!」
完全に目的をはき違えている。ヨハンはため息を吐いた。
「誰がお前の尻拭いしてると思ってんだよ……もぉ……」
勇者パーティが滞在してから、カジャンガの冒険者達は仕事がないと嘆いている。というのもカインが張り切ってギルドの依頼を全部引き受け、次々の内に片付けてしまうからだ。
そのせいでカインへの不満がたまっているのだが、そこはヨハンが上手く宥め、時には自腹で彼らの報酬を補填してたりするのである。
「戻ってきてハワードさん……僕一人じゃカインを制御できないから……」
貧乏くじを引くヨハンをよそに、二人は意気揚々と子爵邸へ帰っていく。
門をくぐるなり、キサラが出迎えてくる。カインが来るのを待ちわびていたようだ。
「カイン様! お仕事お疲れさまでした」
「キサラさん、お勉強はよろしいのですか?」
「小休止を挟もうと思いまして。お茶会の準備が出来ていますので、どうぞこちらへ」
お茶会が始まるなり、カインの独演会が始まる。今日の話は魔王討伐の旅の最中、ヨハンが捕まった時の事だ。
ハワードの冒険譚ともあって、キサラは目を輝かせて聞いている。それが余計にカインを調子に乗せていた。
「魔王軍の手により、戦士ヨハンは峡谷に吊るされた檻に閉じ込められました。救助は難航しました、俺達勇者パーティを抹殺するために、道中に無数の罠を張っていたのです。ですがその危機を、颯爽と解決してくれた大賢者がいたのです!」
「ハワード様ですね!」
「その通り! 罠にかまわず身をねじ込み、傷つくことをいとわず仲間を助ける勇壮な姿! 俺は後塵を拝すばかりで、追いつくころにはヨハンを助けた後でした。しかし! しかししかししかし! その時師匠がヨハンにかけた言葉がまたクールなのです! はいヨハン、なんて言われたのか再現して!」
「えっと……「半べそかいてる迷子はここかい? キャンディやるから出て来いよ、今ならチョコのおまけ付きだ、アーモンド入りだぞ」、だったかな」
「くぅ~~~~! どうですかこのウィットに富んだジョーク! 心細さの最中にこんな事言われたらトキメいちゃいますってば! 特にチョコをただのチョコじゃなくアーモンド入りと設定するきめ細やかさ! こんな小粋な軽口を、罠を切り抜けながら考えていたんですからね!」
「なんて余裕、ブレない芯の強さ……最強賢者ハワード・ロック、最高です!」
「まさしく鬱フラグブレイカーにして生きる勝利フラグ! 俺の師匠がハワード・ロックで本当に幸せです! だから師匠、早く勇者パーティに戻ってきてくださーい!」
ハワードへの愛が爆走し、留まる事を知らない勇者カイン。それを微笑ましく見守る魔法使いコハクと、呆れてげんなりしながらスコーンをかじる戦士ヨハン。
勇者パーティは今日も平和であった。




