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24話 死神が舞う鎮魂歌

 乱入してきたジャックに怯え、招待客達は急いで逃げようとしていた。

 だが奴の影魔法により扉が封鎖される。扉に影の刃を刺して固定したんだ。


「客どもが人質ってわけか、リサの時といい、人の盾が好きだなてめぇ」

「くかかっ、一般人ほど扱いやすい盾はないのでな! このジャックの常套手段よ! さぁ、これだけの人数を傷つけずに守れるか!?」


 ジャックは影から大勢の部下どもを出してくる。見た所レベル40ちょいの連中だ。

 成程、客に大けが負わせて、間接的に俺様の心を抉る気か。根っこまで陰険な奴だぜ。そもそもハワード・ロックがこの程度を対処できねぇわけがねぇだろ。


「【トマホークブーメラン】!」

「ってアマンダたん?」


 軽く締めてやろうとしたら、アマンダたんが戦斧をぶん投げた。文字通りブーメランのような軌道を描き、斧が部下どもをなぎ倒していく。遠距離用の投擲スキルか。

 彼女の手元に戻るころには、部下どもは哀れにも全滅していた。客には傷一つ付いていない、器用なもんだなぁ。


「おいおーい、俺ちゃんの獲物取っちゃ嫌だよぉ?」

「礼服で戦うハワードなんてレア中のレアなのですよ? 画になる場面を汚されたくないので、勝手ながら露払いをいたしました」


 あらまぁ、なんだかんだ俺様を愛してくれてるんだねぇ。粋なアドリブのおかげで会場がすっきりしたよ。

 アマンダの攻撃にジャックは呆気に取られている。アマンダは俺が鍛えた女だ、レベル50くらいまでの集団なら余裕で殲滅しちまうぜ。


「ふん……本番はこれからだ。いかに貴様が強くとも、これには対応できまい!」


 ジャックが鎌で床を叩いた。直後、影から紫の煙が噴き出てくる。ここだけじゃない、カジャンガのいたるところからも噴き出てきて、街全体を覆っていく。

 ガスマスクをかぶり、ジャックは勝ち誇った笑い声をあげた。


「くかかかかっ! こいつはザナドゥ謹製の毒ガスだ! 一呼吸でも吸い込めばドラゴンですら致命傷になる!」

「あっそ、俺様には湿気たアロマにしか感じないけどな」


 「神の加護」のお陰で毒類は一切効果がないんだなこれが。ま、こいつは俺様を殺すために使ったもんじゃないか。


「貴様に効かないのは織り込み済み、俺の狙いは、カジャンガ市民だ! いかに貴様が強かろうと、街全体を守る事は出来まい!」

「で、その罪を俺様に擦り付け、罪人にして国に片付けさせると……同じネタの使いまわしかよ、お前脳みそちゃんと入ってる? 代わりにカニクリームでも詰まってんのか? くそ不味そうなコロッケだな」

「くくっ、いつまでその余裕が続くかな? 魔王を倒した英雄が、街一つの市民を守れぬ屈辱に堕ちる様! このジャックの前で無様にさらすがいい!」


「へいへい、そんじゃあその得意げに伸びた鼻をへし折ってやるよピノキオ君。がるる!」

―うぉーん!


 指笛で合図を送ると、屋根の上でスタンバイしていたがるるが遠吠えを上げた。

 がるるが飛ばした魔力により、仕込んでいた魔法具が発動して、会場内に薬剤が振りまかれる。毒ガスを中和する解毒剤を出す、高圧縮スプリンクラーだ。リサちゃんに作ってもらって、会場は勿論、街の各地にセットしておいたのさ。


 室内のガスが薄らいだ。窓を見れば、紫の煙が中和剤によりかき消されていく。キサラちゃんお手製の中和剤すげぇな、効果抜群だぜ。


「紫の霧ってのもなかなか風情のあるもんだが、この街には似つかわしくないからな。返品させてもらうぜ、代金は負けといてやるよ」

「馬鹿な……馬鹿な!? なぜだ、なぜ貴様は悉く俺の手を読んでいるんだ!?」

「三回」

「は?」

「お前が同様の手口で無差別攻撃を行った回数だ、とある情報筋から手に入れていてね」


 ヘルバリアで会ったじいさんから買った情報だ。ジャックは敵を甚振って殺す事に拘る拷問好きで、特に精神的に打ちのめしてから嬲り殺しにするのが趣味なんだとか。

 敵一人を殺すために、人の盾は勿論、わざわざ毒ガスやら飛空艇での空襲やらを駆使して街全体を破壊し、相手に絶望感を与えて心を潰すのが常套手段だそうだ。


「手口さえわかっていれば対処は容易いもんだよ、ネタバレしたマジシャンは廃業だな」

「ば……か、な……!?」

「俺の魂を壊すか、随分大きな口を叩いてくれたな、Mr.腰抜け」


 ハワード・ロックの心を痛めつけようと、襲ってきた連中は数知れねぇよ?

 だがな、誰一人として俺の心と魂に、かすり傷すら負わせたためしはない。

 皆が期待するハワード・ロックは最強でなければならない、俺にはその期待に応える義務がある。それがハワード・ロックに課せられた責任なんだ。


 その重みを欠片も理解できない輩なんぞに、ハワード・ロックの魂は、かすり傷一つも付けられやしねぇんだよ。


最強の称号(ハワードの名)は軽くない。言葉の意味を、その身を持って知ってもらおうか」

「き……きき……きっしょおおおおおおおおお!!!!」


 ジャックは奇声を上げるなり、奥歯を噛み締める。

 直後、血の臭いが鼻に付き、奴の体が変異した。

 八本の足が生え、腹部が膨らみ、でかい口が開いた。唇が耳まで裂け、目が白目のない銀色の眼になる。その姿はまるで蜘蛛のようだ。


 見掛け倒しじゃねぇ、レベルが急激に上がった。レベル500ってところか? 陰に潜み、獲物を食い殺そうと幾重にも罠を張る、ジャックの性格を表したような姿だ。


「昨夜使ったレベルアップドラッグか? パーティグッズとしてはやりすぎだな」

『黙れ! 何が最強の称号だ、何がハワード・ロックだ! そのような張りぼてなど! このジャックが粉砕してくれるわぁっ!』


 部屋の影という影が無数に伸び、俺を襲ってくる。こんな芸当、人間じゃ不可能だ。この野郎……魔物に身を落としやがったな。


『凄い、なんと素晴らしい力だ! これならば殺せる、ハワード・ロックを殺せるぞ! さぁハワード! 貴様の魂を今こそ壊してくれるぞぉっ!』


 ジャックの影の刃がキサラ達に伸びる。払いのける時間はない、それなら俺を盾に守るまでだ!


「ハワード様ぁぁぁぁっ!」


 キサラの悲鳴が木霊する。三人を守るべく、全身に影の刃を受けちまったな。

 こんな冷たいもんを女に向けたのか、見上げた根性の持ち主だ。


『しゃははははははっ! やった、やったぞ! ハワード・ロック、討ち取ったり!』

「嬉しそうだな、宝くじでも当たったのかい?」


 刃をへし折り、ジャックの攻撃から抜け出す。この程度の痛みで俺を倒せると思ったか、おめでたい奴だ。言い値で御祝儀をくれてやるよ。


「全く、そんなに俺を怒らせたいのか。欲張りな奴だ、その無謀な心意気だけは買ってやる」


 久しぶりにキレたよ、本気でな。

 俺を狙うのは構わない。この俺なら、いくらでも傷つけてくれていい。

 だがこうもしつこく、俺の大事な連中に刃を向けられてはな……堪忍袋の緒が切れたよ。

 右腕の袖を破り、義手に魔力を込める。確実に、ジャックを殺すために。

 紅く発光した腕を見て、ジャックは震えあがっていた。


「アマンダにリサ、そしてキサラ……貴様如きが触れていい女じゃない。重ねに重ねたその愚行、最早万死に値する。魔物に堕ちた今、貴様に容赦する必要はない。慈悲も与えん、苦痛に悶えて地獄に堕ちろ」

『な、な、な……なぜだ……脳も心臓も貫いたのに……どうして貴様を殺せないのだ!?』

「質問に答えてやる。なぜなら、俺がハワード・ロックだからだ」


 そんなにハワード・ロックを殺したければ、心臓ではなく魂を貫くことだな。

 けど出来るかな。俺の魂はどんな刃であろうと傷一つ付きやしない。俺を好いてる奴らの俺が、最高の俺で居続けるために。ハワード・ロックは本気で自分を生き続けているからだ。

 お前がしてきた事は、本気で生きている奴の足跡を汚す行為に他ならない。誰かが大切にしている街や人々を踏みにじる権利など、貴様なんぞにあるものか!


「影に隠れて己を本気で生きない奴が、己を本気で生きる奴に気安く触れるんじゃねぇ!」


『ば……化け物がぁぁぁぁぁっ!!!』


 右腕に、俺が背負っている魂全てをつぎ込んだ。

 全身全霊の右拳がジャックを粉砕し、上半身をもぎ取って壁に叩きつけた。


 これで、勝負ありだ。


『がばっ……! た、だで、は……堕ちん……せ、めて……こいつら、だけでもぉぉぉ!』


 ジャックは息絶える直前、爆発と同時に毒ガスをまき散らした。

 魔法具は効果切れだ。毒ガスを処理するが、客どもが吸っちまう。


「アマンダ!」

「こちらは無事です、子爵閣下、キサラ様。どちらも保護しています」


 アマンダ達には解毒剤をしみこませたハンカチを渡してある。だから死ぬことはないが……。


「なんたる事だ……! 賢者よ、このままでは多くの人が犠牲に! 早く対処を!」

「……ふむ」


 見た所、毒ガスで死ぬには三十分ってところか?

 俺なら全員助けられるが、見せ場全部を持っていったら、約束が違うよな。


「キサラ、見せてくれるかい? 魔王を倒す、強いお姫様の物語を」

「! ……はい!」


 ケツは持ってやる、だから心置きなく戦いな、勇気あるお姫様。


「お父様、皆様は私が救出します。私の解毒剤なら、犠牲になった方全員を救えます!」

「なっ、子供は下がっていなさい!」

「今はそんな事に拘っている場合ではありません!」


 キサラの怒号に子爵閣下が怯んだ。ナイスガッツだ。


「賢者様、私の指示通りに解毒剤の投与を! アマンダさんとリサさんもお願いします!」

「OK! Here we go!」

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