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23話 バトル・オン・ジェントルメン

 キサラちゃんをアマンダたんとがるるに預け、俺様はリサちゃんと一緒にカジャンガを回っていた。

 あの野郎がキサラちゃんの大事な連中に手を出していないか見張っとかないとなぁ。ジャックの思考として、ターゲットの周辺に居る弱い奴から狙っていく傾向にある。外堀を確実に埋めて本丸を落とすってやり方だ。


 真綿で首を締めるような、陰険なやり方だぜ。影魔法なんて辛気臭いもんを得意とするだけあって、性格も陰湿な奴だ。


「にしても、あんたも無茶言うわよねぇ。昼までにこんなの作れとか無茶言うんだから」

「俺ちゃんも手伝ったでしょお? あとでケバブ奢るからぁ、勘弁してちょ☆」

「甘口でよろしく。ま、私は魔法具職人だもの。これくらい余裕でやってやるわよ」


 リサちゃんは指先で、作ったブツをくるくる回している。黒くて小さな箱、こいつが俺達の切り札だ。


「あ、昨日のおじちゃんだ」

「なにしてるのー?」


 キサラちゃんを慕うガキどもが近づいてくる。ったく、俺様は乳臭いガキは嫌いなんだがな。


「今ね、お姉ちゃん達お仕事中なんだ。終わったら遊んであげるから、それまで待っててね」

「えー、やだ」

「今遊んでよー」

「ぴーちくぱーちくうるせぇガキどもだな、どっか行けよ。俺様ガキは嫌いなんだ」

「こらハワード」

「ごまかしたってしゃあないでしょ? これ以上俺様に付きまとうってんなら」


 俺様はガキどもに腕を振りかざし、目の前でポンっと鳩を出してやった。


「俺様のショーに見惚れちまいな」


 はいはいしっかり見て頂戴。手を開くたびにほれ、鳩が一羽、一羽、また一羽と。ぽんぽん飛び出してきますよっと。

 でもってどっからともなく取り出しますはシルクハット。ステッキで叩けば、ほれ花束が飛び出した! 俺にゃあ無用の長物よ、てめぇにやるぜお嬢ちゃん。


「わぁ、ありがとおじちゃん!」

「おじちゃんじゃねぇ、マジシャンと呼びな」


 ほれステップ踏んで、華麗にターン、からのムーンウォーク! タップダンスからの指パッチンでクラッカーを出しまくり、やたら滅多に撃ちまくる! 小さなパレード、堪能しな。


『わあああーっ!』

「目ぇ輝かせて、中々ノリいいじゃねぇかガキども。滅多にしねぇサービスだ、俺様の美技に酔いしれろ!」


 はっ、だからガキは嫌いなのさ。ノリが良すぎて調子に乗っちまうからな。


「あんた、実はかなりの子供好きでしょ」

「いやいやリサちゃん、俺様ガキは大っ嫌いだよ」


 現に俺にマジックねだってきやがるし、これだからガキの相手は嫌なのさ。


『おじちゃーん! また来てねー!』


 たっぷりショーを披露して、奴らが満足したところで、ようやく解放されたぜ。ったく、菓子を沢山貰って満足か? もう俺に付きまとうんじゃねぇぞファッキンチルドレンが。俺様に気安く懐いてんじゃねぇっての。


 こーんなロクデナシと居たら碌な大人になれねぇからな。


「そういやカインが弟子入りしたのって十二歳の頃だっけ。子供じゃん」

「あまりに弱すぎて見てられなかっただけさ。さっさとこいつの設置を終わらせようぜ」

「うん。けどこれ、本当に使う機会あるの? 警戒しすぎじゃない?」

「念のためさ。使わなければ、用心しすぎたねで済む話だしね」


 ただ、俺様の勘では間違いなく使う羽目になるだろうな。ジャックに気取られないよう、注意しながら置くとしようか。


  ◇◇◇


 街での作業を終えて屋敷に戻ると、キサラちゃんがアマンダたんと一緒に出迎えてくれた。ご丁寧に飲み物まで持ってきてくれて、優しい子だねぇ。


「ありがとさん、薄荷水とは嬉しいな」

「レモンとミントを混ぜて作ってみたんです、お口に合うといいのですが」

「美女が作ったもんならなんでも美味しく頂けるさ。んじゃ……んーさっぱりしていて、清涼感のある味わいだ。一仕事終えた後のご褒美にゃ最高だぜ」

「ハワード様が喜んでくれたなら、私も嬉しいです……!」


 お盆で赤らんだ顔を隠して照れ始めた。深窓の令嬢様だから、照れ方が清楚で可愛いねぇ。


「……あんた、朝の散歩で何したの?」

「なぁに、新しいおとぎ話を作ってくれる約束をしただけよ。なっ?」

「はいっ!」

「ところでハワード、試着の準備が出来ていますので、客間へどうぞ」

「試着? なんの?」

「今夜のパーティに出席するでしょう? でしたら当然、服装も変えなければ」


 あー、そういや今夜舞踏会を開くとか言ってやがったな。フォーマルな恰好は苦手なんだよなぁ。

 なんせ……このナイスミドルが着飾っちまったら、来場されたレディ達の視線を釘付けにしちまうからよ。俺様以外の野郎が全員掠んじまうぜ。


「馬鹿な事考えていないで、早く着替えに向かってください。子爵閣下のご厚意で、私達の衣装を用意してくださったのです。リサさんもドレスのチェックがありますので」

「ほええ、気前いいんだね」

「んじゃ、一丁着てみますかね」


 男ってのは、服装によってより印象に磨きがかかるもんさ。

 たまにゃあハワードガールズに思い知らせてやるか、お前らが凄まじいイケメンと旅してんだって事をな。


  ◇◇◇


 夕方に差し掛かるころ、舞踏会に招待された客が集まってきた。

 客は中々の顔ぶれが揃ってるな。有力貴族や大手の商人と言ったビッグネームがぞろぞろやってきている。カジャンガ発展のためにあちこちにパイプを繋げてきたんだろうなぁ、努力する奴は男でも嫌いじゃないぜ。


「ふーむ……見目麗しい熟女や美女が揃ってまぁ、俺ちゃん大興奮♡」


 将来有望な二十歳未満もいるようだし、こいつは素敵なパーティになりそうだ。

 さてと、俺様のファムファタル達に合流しましょうかね。


「あ、やっと来た。遅いぞぉ?」

「ハワードにしては早いですよ、待ち合わせの時間なんて守った事がないんですから」


 会うなり文句を言う二人は、パーティドレスで着飾っていた。思わず俺ちゃんも鼻息荒くなるくらいbeautifulだぜ。


「リサちゃんは明るいイエローのシンプルなワンピースドレスか、飾り気のないデザインが元気なリサちゃんにぴったりだ! マーベラス!」

「アマンダたんはエレガントな紫で、体のラインが際立つタイトなドレスだな。暴力的なプロポーションが発揮されていてエクセレント、スカートのスリットがまぶしいぜ!」

「褒められて悪い気はしないかな。あんた口上手いわよね」

「口八丁で生きている方ですから。ですがありがとうございます」

「俺様は事実を言ってるだけよ。でもって主役のキサラちゃんはといいますと」

「あの、どうでしょうか? ハワード様……」

「暗めのグリーンを基調とした、オフショルダーのフィッシュテールドレスか。髪もアップにして、あらわになったうなじや鎖骨がまぁ……Berry Good! Sweetだぜベイビー!」


 なんも言えずに赤らんじゃう初々しさ、可愛すぎるぜキサラちゃん♡


「まさかこんな美女三人を侍らせるたぁ、俺ちゃん幸せ者ぉ♡」

「口調チャラすぎ。褒めてくれるのは嬉しいけど、もうちょい話し方ちゃんとしなよ」

「折角見違える姿になっているのに、もったいないですよ」

「くっくっく、憎まれ口叩いても分かるぜ? 俺様に見とれてんのがよ」


 俺様にあてがわれたのは、紳士の定番、タキシードだ。こいつを俺流に着熟してやったぜ。


「あんたさり気にファッションセンスもいいわよね」

「コンセプトは上品かつセクシーなおじさまさ。結構拘ったのよ? グレーのベストに紺のレギュラータイを組み合わせ、アスコットに結んでクールさを。ジャケットの前は開いてワイルドさを。足元はストレートチップの黒革靴をchoiceして高級感を演出してんのさ」


 あとは清潔感を出すためにオードトワレの香水を付け、髪型をオールバックに決めりゃあ、ダンディなジェントルマンの完成ってな。


「ムカつくくらい似合ってるわね、見た目だけならほんと、抱かれてもいいわこいつ」

「実際黙っていればワイルドなおじ様でかっこいいですからね、黙っていれば」

「素直に一発されたいって言ってくれりゃいいのによぉ。そんなツンケンしたところも愛しいぜバディ、今夜は神が作り出した芸術的な体で俺様を温めてくれないかい?」


「ぐぬぬ……! いつもならぶん殴るのに……」

「フォーマルな場所ですから、手荒な真似は出来ませんね」

「やーいやーい、ざまーみろーだべろべろばー! ところで、どうしたのかなキサラちゃん。さっきからぽけーっとしてっけど」

「あ……すみません。見とれてしまっていて……」


 ふっ、礼服に着替えた事で、俺様の魅力が爆発しているからな。分かる子には伝わるのさ、このフェロモンむんむんの渋い男の色気がな。

 ま、悪ふざけはここまでにしておくか。たまにはウィットなジョークを封印して、紳士的なハワードに浸ってみるのも一興だ。


  ◇◇◇


「皆様、本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。今のビンランド家があるのは皆様の御助力があってこそ。今宵は感謝と未来の発展を願い、舞踏会を開催させていただきました。それでは、乾杯!」


 子爵閣下の欠伸が出るような挨拶の後、舞踏会が始まった。

 ささやかな立食パーティとか言っていたが、出ている料理は上等な物ばかり。謙遜すんのはよしてくれよなぁ。


「うー……こうした場って初めてくるから、マナー分からないんだよねぇ……」

「なら、料理を取る時は皿の左下を空けるよう注意してみな。親指を置くスペースを確保できて汚さずにすむぜ。グラスと皿の二つ持ちはむずいから、使わない方はテーブルに置いとくといい」

「料理はともかく、グラスを置いたら、自分のがわからなくなるよ?」


「ナプキンを二つ折りにしてグラスの下に敷いとけば目印になる。冷たい飲み物を入れた時は、下半分を包めば水滴が垂れずに済むぞ。ついでに、グラスは女性なら胸より下の位置で、両手で持つと見た目の印象がよくなる。覚えておいて損はないよ」


 リサちゃんにちょちょっとマナーを教えつつ、俺様に寄ってくる美女達と軽く会話もする。くくっ、男ならグラスを片手で胸の辺りまで持つと印象が良くなるのさ。

 ジェントルメンな俺様が印象を良くしちまったら、いやぁ来るぜ美女がほいほいと。周りの上品なだけの男と違って、危険な香り漂わせるワイルドでセクシーな紳士だからな。今までにない魅力を持った男に女は近づいてしまうもんなのさ。


「あんた……普段おちゃらけてる癖になんでマナー完璧なわけ?」

「ふっ、能あるハワードは爪を隠すもんなのさ」

「普段はあれでも、きちんとした教養を身に着けているんです。なんでそれを普段から出さないのやら、もったいない話です」

「ギャップがあった方が女の子にもてるじゃなぁい、俺様なりの駆け引きなのさ」

「あ、あの……うぅ……」


 おっと? 美女に囲まれているから、キサラちゃんが近づけずにいるねぇ。

 紳士な賢者としては、放っておいちゃあだめだよね。男らしく誘ってみましょうか。


「キサラ様、如何でしょう。私と一曲交えませんか? 折角の舞踏会ですので、皆様が踊りやすいよう、二人でエスコートいたしましょう」

「え? あ……はい……!」


 俺様の手を取り、キサラちゃんが躍り出る。楽隊がムーディな曲を奏で始め、ゆったりとしたダンスで客たちの視線を釘付けにした。

 彼女が踊りやすいよう、ガラス細工を扱うように手を触れ、誘うようにステップを踏む。ダンスの主役は淑女だ、キサラちゃんが際立つよう、俺様は丁寧にエスコートするまでさ。


「優しいエスコート、ステップも完璧……草原の時と違います……」

「こんなハワードもいい物だろう?」

「はい、とても……!」


 ま、彼女の中じゃあ俺様が主役みたいだがね。瞳は俺様しか映していない。俺様と二人きりの世界を堪能していた。

 男冥利に尽きるんだが、俺様達に誘われて踊ろうとする奴が出てきているのが残念だな。

「目を閉じて」

「え?」


 キサラちゃんを胸に押し付ける。直後、楽隊の指揮者が影を伸ばし、無数の刃で襲ってきた。

 キサラを抱えてバック宙で回避し、アマンダとリサを背にして立つ。突然の攻撃に会場から悲鳴が上がる中、指揮者の影からゆらりと、男が現れた。

 はん、やっぱ影に隠れて機を伺っていたんだな。


「淑女のロマンスを邪魔するとは感心しないな、おまけにドレスコードも守れてない。レディをダンスに誘いたければ、まずはマナーを覚えてくる所からやり直すんだな」

「それは失礼したな、キサラ嬢があまりに美しく、気が逸ってしまったようだ!」


 ザナドゥ幹部、腰抜けジャック。三度俺様の前にご登場ってな。

 ジャックを見るなり、キサラが俺にしがみつく。俺は彼女の手に触れ、微笑みかけた。


「下がってくれ、あいつは俺様をご指名だ。ここに居ては、君の美しい肌に傷が付く」

「ハワード様……!」

「キサラの騎士として、必ず君を死神の手から守ってみせる。だから俺を信じて、待っていてくれ」


 アマンダとリサに彼女を預け、俺はジャックに立ちふさがる。鎌を出したジャックは、狂った笑みを浮かべていた。


「待ち望んでいたぞ、この状況を。貴様は必ずこのジャックが殺す! 如何なる手を使ってでも、ハワード・ロックの魂を潰してやる!」

「ふん、いつもならもうちょっと気の利いた事を言えるんだが、礼服で口汚いジョークを飛ばせば品性を疑われるんでね。今回は紳士らしく、スマートにお前を倒してやろう」


 死神には舞踏会らしく、ワルツを踊ってもらおうか。

 今生最後の舞いとして、鎮魂歌に乗せたワルツをな。

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