22話 そのころ勇者パーティはと言うと
ハワードがカジャンガにてロマンスを繰り広げている間。
「……師匠が来ない」
雪が降り積もった、バラルガ山脈の麓にあるラゾン村にて、勇者カイン達は一向に来ないハワードにしびれを切らしていた。
そりゃそうである。何しろハワードは真逆の方角に向かってんだから。
宿で暖を取りながら、カインはテーブルに突っ伏し、しくしくと涙を流している。
「くっそぉぉ……ここに来ればガンダルフを戻しに師匠が来ると思ったのに、どうしてこんなに来ないんだぁぁぁ……」
「完っ全に深読みしすぎたな、ハワードさんの掌の上で踊らされたよ」
ヨハンもため息をつき、得物のハルバードを担いだ。
まんまと間違った答えに誘導されていた。ハワードの方が自分達の事を理解していたのだ、完敗である。
「なんだかんだ、私達をきちんと理解していたものね。その上で意地悪するんだから」
「あの人子供っぽいようで、かなりの大人だもんなぁ。出し抜くのは至難の業だよ。しっかし、寒いなぁ……」
「ふふ、ゴボウ茶をどうぞ。ハワードさんに教えて貰ったのよ、根野菜は体を温めるって。それと首とおなかを温めながら足踏みすると、一気に体がぽかぽかになるそうよ」
「へぇ、あの人そんな事知ってるんだ」
「私冷え性でね、相談したら色々教えてくれたの」
ハワードはああ見えて、三人の体調管理には気を遣っていた。
食事当番になると、必ず栄養バランスを考えた料理を作ってくれたし、少しでも体調を崩したらすぐに応急手当をしてくれた。
特にコハクは紅一点ゆえ、女性の日などで体調がすぐれない時も少なくなかった。その際に頼りになったのがハワードである。
「薬をすぐに作ってくれたし、さり気なくカインに休憩を申し出てもくれたし。ああいう気遣いは大人って感じがしたわね。知識も豊富だし、ハワードさんが居なかったら、健康に旅できなかったでしょうね」
ハワードが心身ともにケアしてくれたおかげで、三人は病気やケガに苦しむ事はなかった。だから最後に、ハワードが右腕を失ったのが堪えたのだ。
「最後に隻腕なんて大ケガを負わせたのは私達のせいだもの……散々甘えてきた分、きちんとお返ししないと」
自分達だけ無傷なんて不公平だ。絶対連れ戻して、彼がしてくれた以上のお返しをしなくては気が済まない。
「あうぅ……師匠ぉぉぉぉぉ……」
「ほら泣くなよ、ハワードさんに笑われるぞ」
「それに、私達にはやる事があるでしょう?」
コハクは杖を握りしめ、外を見やった。直後に矢が飛んできて、ヨハンの頬をかすめた。
いつの間にか宿が囲まれている。剣や弓を持った連中が、カイン達を狙っていた。
バラルガ山脈に到着したカイン一行を待っていたのは、ザナドゥによる事件だった。
バラルガ山脈には良質なレアメタルがとれる鉱脈が存在している。ラゾン村はそのレアメタルを採取して生計を立てているのだが、ザナドゥは村を占拠し、レアメタルの独占をもくろんでいたのだ。
「ラゾン村を奪還したのはいいけど、肝心のザナドゥがまだ撃退できていないもの。早く彼らのアジトを突き止めて壊滅させないと」
「あの人もヘルバリアでザナドゥの幹部を倒したもんな。しかも犠牲者どころか、街に傷一つ付けずにだよ。改めてハワードさんの凄さを痛感するなぁ」
「そうなんだよヨハン! 師匠は本当に凄い人なんだ!」
ハワードをほめるなり、カインが復活した。
バンバンとテーブルを叩き力説する。根っからのハワードマニアを刺激してしまったようだ。
「どんな出鱈目な事でも実現し、どんな無茶も押し通す! 頭脳・力ともに最高峰の、まさに漢の中の漢! それが俺のハワード・ロックなんだ!」
とうとう「俺の」とか言い出したよこの勇者。どんだけハワード大好きっ子なんだろうか。
「ああ師匠、俺の師匠、愛する師匠……一体どこに居るのですか? こんなに恋焦がれているのに、貴方に会えない日々が長すぎて心が擦り切れそうです……!」
「なぁコハク、君の恋人あんなんだけどいいの?」
「いいの、ああいう所も含めてカインを好きになったんだから。ポンコツすぎて目が離せなくて可愛いじゃない。それに何よりも……ハワードさんと絡んでいる様子を観察しているだけでご飯が進むし(鼻血ブー)」
「君その内妄想のせいで失血死しちゃうんじゃない? あいだっ!?」
今度は投石がヨハンに直撃した。ヨハンは青筋を立て、ハルバードを担いだ。
「あいつら絶対潰す……ともかくだ、ハワードさんが好きだったら、ラゾン村をきちんと救わないとな。じゃないとあの人に笑われちゃうぞ」
「分かっている。師匠に頭をよしよしして貰うためにも! このラゾン村は必ず俺が守ってみせる! 俺は賢者ハワードの弟子、勇者カインなのだから!」
抜剣し、カインは飛び出した。
愛しのハワードに再会するためにも、ザナドゥが邪魔だ。何としても撲滅して、ハワード探しに戻らなければ!
「愛してます! 師匠ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
勇者は賢者への愛を叫び、戦いへと身を投じていった。




