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2話 勇者パーティを引退した。

 魔王討伐から早いもんで、一週間が経っていた。


 王都に戻ったら英雄として囃し立てられ、やれパーティだパレードだ騒がしくてよ。派手なのは大好きだが、ケバブをろくに食えねぇのは勘弁でね、全部すっぽかしちまった。


 カイン達にいい思いさせてくれてあんがとよ、くそったれた王様さん。若い衆に重い責任押し付けて、安全な所で煽っていたボジョレー・ヌーヴォの味は最高だったろ。


 カイン達には青天井の報酬が送られて、今後生きるに困らぬ地位を与えられた。あいつらと勇者パーティを組んだ俺様も、これで安心できるってもんよ。


「って事で、俺様は降ろさせてもらうぜ」


 今俺ちゃんが居るのは、王都にある光臨教会の一角、騎士修道会だ。


 この世界には光臨教会とか言う宗教団体が存在している。大陸の七割に勢力を持つ巨大な組織で、世間への影響力も馬鹿でかい存在だ。


 俺様はその団体が運営する騎士修道会所属の僧侶だ。中でも優秀な功績を多数上げたもんでね、教会から「賢者」の称号を賜った、業界でも五指に入る男でもあるのだ。


「教会からの、脱会届……ハワード、本当に出てしまうのですか?」

「いずれ辞めようと思っていたからな。魔王討伐で一区切りついたし、丁度潮時さ」

「……そう、ですか」


 俺様の従者を務めるシスター、アマンダたんがせつない目で俺様を見上げている。十年前に入会して以来仲良くしている、俺様の可愛い二十六歳の美女ちゃんだ。


 金髪碧眼のEカップ爆乳ちゃんに誘われちゃ気持ちも揺らぐが、もう決めたんだ。


 俺様は勇者パーティを引退する。そのための一歩として、教会を辞める事にしたのさ。


「俺様は神を信じて来たんじゃねぇ、スラムに生息していた浮浪児で、単に教会の戦力として利用するため、無理やり入れられただけ。そいつはアマンダたんも分かってんだろ?」


「ええ、知っています。子供の頃から王国の精鋭部隊を倒す程強くて、それに目を付けた教会の上層部が、騎士修道会に引き入れたんですよね」


「Exactly。ま、お上品な教会の方々が野良犬を調教できるわけねぇな。葉巻は吸うわ、ギャンブルに手を出すわ、大酒飲むわ、女は買うわ。好き放題の生臭賢者に成長しちまったぜ☆」


「賢者と言うよりチンピラですね」


「常識にとらわれないと言ってくれ。ともかく、魔王討伐の旅はいい機会になったぜ、おかげで安住の地を探す事も出来た。俺様くらいの強さがありゃ、どこでも生きていけるしよ」


「そうですね、ハワードは世界最強の賢者ですから」


 俺様の世界にゃ、レベルって概念がある。冒険者の平均レベルはだいたい30ちょい、王国の兵士連中だと40程度、精鋭部隊で60ほどが、大まかな目安だ。でもって、世界最強と言われる人間様でも、レベル100が関の山だ。


 それに反して、魔王様のレベルは999。こんなん誰が勝てるってんだよ、ぜってー無理じゃん? だからカインと俺様に白羽の矢が立ったってわけ。


 なにしろ俺様達は、千年に一度生まれる「神の加護」を持った人間だ。


 加護とは、誰しもが持つ才能を与える力だ。生まれた時から身に付く才能とも言い換えられる物で、所持するだけで怪力を発揮出来たり、優れた魔法が使えるようになったりと、有用なスキルや能力が得られるんだ。


 中でも、「神の加護」は全ての加護の力と人類の限界を超えた力を授ける加護でな。所持すれば全スキルが熟練度MAXで習得、ステータスとレベル上限も青天井になると、超レアな当たり加護なんだ。持ち主が二人も出るのは天文学的な確率だぜ。


 そんなのもあって、俺様とカインは人類で唯一レベル999に達した、世界最強のタッグなのさ。


「旅している間、色々サポートあんがとな。アマンダたんが教会を通して物資を送ってくれたおかげで、食料だの薬だのに苦労する事なかったからよ」


「だってカイン君に泣きつかれましたから。師匠がギャンブルにお金使いこんで物資がないって。私のバックアップが無かったら危なかったのでは?」


「お小言はやめてくれ、俺様は都合の悪い話と定時過ぎの上司の言葉にゃ耳を貸さないことにしてるんだ。しかしどうだい? もう俺様と会う事はないんだ、思い出作りにホテルで一発」

「神に仕える身だから無理です」

「あらー残念♪ 俺様のマーラ様にかかれば天国のような快楽が」

「天誅!」


 脳天に斧がぶっささった。愛情表現激しいねぇ☆


「全く、右腕を失ったのに全然変わりませんね」

「失ったんじゃない、隻腕って魅力を手にしたのさ」

「強いのも全く変わりませんか……そんなあなただから、私は見ていたのですけど……」


「ん? どうしたんだい? 俺様と別れるの名残惜しくなった?」

「なんでも。不良親父が居なくなってむしろせいせいします」

「あんらまぁ酷いわねぇ。そんじゃお別れついでに挨拶だ、ぱいならー」


 おもむろにアマンダたんのパイナップルをもみもみと堪能。男のロマンと幸せがいっぱい詰まった禁断の果実だぜブラザー。


 勿論斧で殴り倒され、トドメに頭を踏みつけられたがね。ご褒美のハイヒールが痛いぜBaby。


「最後にいいもん触れてよかったよ。じゃ、元気でな」

「はい……そうだ、これを」

「ん? メダルのネックレス? くれるのか」

「ええ、お守りに、持って行ってください」

「ありがとな、頂くぜ」


 アマンダたんがちょっと涙ぐんで見送ってくれる。あとは事務所で脱会手続きを済ませて、晴れて俺様は自由の身ってな。


「軍資金もたんまりあるし、なーにすっかなぁー」


 魔法袋には、報奨金の財宝がざっくざくよ。遊んで一生暮らせる金が入ってやがらぁ。

 さぁて、とっとと逃げるとしますかねぇ。……じゃねぇと、教会辞めた意味がねぇ。


 教会に居たら、カイン達が俺を探しに来てしまう。教会との縁を切って、足跡を辿れねぇようにしねぇとな。


 俺様の腕を失った事で、カイン達は強い責任を感じちまっている。自分達のせいで俺様に迷惑かけちまったってよ。

 だからこんな事を言い出しやがったんだ。


『俺が責任を持って師匠の面倒を見ます! どうか、俺の傍に居続けてください!』


 なんで男から愛の告白受けなきゃならねぇんだ。それにコハクもヨハンも賛同しちまってよぉ、ハワード・ロックを支え隊なんてふざけたユニット結成しやがったんだ。


 ったく、俺様みたいなおっさんに付きまとってんじゃねぇや。


 お前らが自分らしく生きるのに、俺様は邪魔だ。俺様は俺様なりに面白おかしくやる事にするさ。勇者パーティ最強賢者ハワード・ロックは、今日限りで引退させてもらうぜ。


 だからよカイン、お前はお前の人生を生きろ。それが師匠からの、最後の課題だ。


「んじゃ、片腕になった俺様を楽しみに行きますか! 人生自分らしく生きなきゃな!」


 折角隻腕なんて個性を手に入れたんだ、こいつを活かしてどんな風に遊ぼうか、考えるだけでもワクワクしてくるぜ!

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