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18話 ゼロに何をかけてもゼロなんだぜ

 敵はせいぜい、平均レベル30前後の雑魚か。

 キサラちゃんに残酷シーンを見せたくないんでね、全員一発ずつで勘弁してやるか。


「死ねぇっ!」


 まずは一匹、回し蹴りで壁に叩きつけあっさり気絶。

 二匹目はナイフで刺しに来る。その腕を掴んで投げ飛ばし、頭から地面に落としてやる。


「くそ、怯むな! 相手は一人だ、数で押せ!」

「知ってるか? ゼロに何を掛けてもゼロなんだぜ」


 アホな号令かけた三匹目に足払いを仕掛け、ついでに四匹目のみぞおちに喧嘩キック一発。悶絶して倒れ伏した。


「残り三匹、逃げるなら見逃してやるけど?」

「ザナドゥをなめるなぁ! この片腕の中年がぁ!」

「ガラクタの腕を付けていい気になるなよ!」

「ガラクタ? 今、言ってはならない事をぬかしたな」


 この右腕はリサが魂を込めて作った大事な腕なんだ、そいつをガラクタ呼ばわりした以上、やっぱり全員しばき倒す!

 五匹目の顎に肘鉄を打ち、六匹目の脳天に踵落としを叩き込む。最後に残った七匹目は。


「ガラクタの拳、たっぷりと味わいな!」


 リサお手製の右腕で、思いっきり殴り倒した。これにてあっさり全滅っと。

 ふん、出来の悪いシードルだぜ。食前酒にもなりゃしねぇ。


「て、撤退、撤退!」


 雑魚どもが慌てふためき逃げていく。今度来る時はキール・ロワイヤルでも持ってくるんだな。


「賢者様、お怪我は!?」

「大丈夫だよーキサラちゃーん♪ 俺様はあんな囀るだけのパロットに負けやしないさ☆」

「よかった……でも凄く強いのですね。流石は勇者パーティの賢者様です」

「うっひょお、可憐なプリンセスに褒められちゃって俺様感激ぃ♡ 褒められついでのご褒美に、お尻撫でてもいい?」

「がるる、フリーズ」


 アマンダの指示でがるるの氷結魔法が直撃、俺様は氷漬けにされちまった。


「そういや氷漬けになると、物体って簡単に砕けるのよね。試してみよっかな」

『無駄だぜリサちゃん、ハワード・ロックの燃える魂は、この程度の氷で砕けやしないのさ』

「情けない決め台詞だなぁ」


 ってなわけで氷を砕き、俺様復活ってね。


「キサラお姉ちゃん、いじめられたの?」


 雑魚が居なくなるなり、ガキどもがやってきた。キサラちゃんを囲んでまぁ、きゃいきゃい騒ぎ始めやがって。


「こわくなかった? このおじちゃんにいじめられたの?」

「ううん、違うのよ。この人は私を助けてくれたの」

「そうなんだー。あ! キサラ姉ちゃん、さっき兄ちゃんのお薬ありがとう。兄ちゃんの熱下がって、咳も止まったんだよ」

「そっか、よかった……もう大丈夫よ、病気はすぐに治るわ」


 ガキどもの相手をしているキサラちゃんは、柔らかい笑顔を見せていた。子供好きなんだろうな、子供のために無償で風邪薬を作るし、いい子だよ。


「……私、将来はお医者様になりたいんです。人助けするのが好きですから、医学を学べば、多くの人を救えるんじゃないかって思って。でも……父は私の夢に、反対なんです」

「どうして? 医者って悪い仕事じゃないのに」

「子爵家の娘として生まれたなら、きちんと婿を取って跡継ぎを作れ。医師なんて余計な夢を抱くな。……父からそう、きつく言われていまして」

「酷い、娘を政治の道具としか見ていないじゃない」


 リサちゃんが憤った。ただ、アマンダたんは少し微妙な顔をしている。

 悪いけど、俺様もアマンダたんと同じ意見だ。

 子供に対してすっごく優しい笑顔を見せている。彼女の心根が途方もなく優しいのが分かるよ。医師になる資質はあるだろう。

 だけど、優しいだけで務まるほど、医師は甘くないぜ?


  ◇◇◇


「早速娘を暴漢から守ってくれたか、感謝するぞ賢者ハワード」


 その夜、昼間の顛末を話すと、子爵閣下は上機嫌になった。

 夕飯も礼のつもりなのか、豪華な物を並べてくれている。メインがミディアムレアのステーキか、カインの大好物だな。食前酒のシードルも、昼の三下と違って上物だ。

 俺様としちゃあケバブやバーガーとかのジャンクフードが好みだが、たまにはこんな豪勢な料理も乙なもんだぜ。


「この調子でザナドゥの撃退に尽力してくれ、こちらも協力は惜しまない」

「あんがとさん。金と寝床だけでなく食事まで提供してくれるとは、羽振りのいい依頼主だ」

「こちらこそお礼を言わせてもらおう、賢者ハワードが多額の寄付をしてくれたおかげで懐が潤ったのでね」


 ちっ、やっぱ俺様が競馬でスッたの知ってやがったか。あの競馬場、子爵の持ち物だしな。

 これじゃ金払ってホテル泊ってんのと変わらねーや、あんま得した気分にならねぇ。


「成功報酬が実質お釣りのようなものですね」

「言うなっ」

「あんたの自業自得でしょうが」

「いやまぁそうなんだけどさぁ……とほほのほ……」

「この調子で護衛を頼む。明日の夜には重要な催しがあるのでな、ザナドゥに邪魔されるわけにはいかんのだ」


「催しとおっしゃいますと」

「うむ、カジャンガの発展が好調なのに加え、鋼鉄の売り上げも前年を上回ったのでな。懇親の意味で取引先や関係貴族を招いて舞踏会を開く予定なのだ」

「そいつは景気がいいもんだ、ザナドゥに狙われてる中行うってのは考えもんだがな」

「だからハワード!」


「かまわんよリサ殿。だがザナドゥを理由に中止にすれば、犯罪組織に屈したと噂が流れる。貴族の誇りに傷をつけるわけにはいかんのでな、万全の警備体制の下実施を強行するつもりだ。賢者ハワードを雇えたのは渡りに船というわけさ」


「貴族ってのは面倒だねぇ、これだから爵位なんざ要らねぇんだよなぁ」

「そういえばハワードってさ、魔王討伐の褒美で爵位与えられたんだよね?」

「辞退したけどな。俺様は平民としてのんびり生きていく方が性に合ってるのさ、ケバブもスリルも食い放題だしよ」


 カイン達も爵位は辞退したんだ。ま、領地経営だのなんだのやらなきゃならねぇ事が多いからな。んな面倒なのごめんだぜ。


「今後もカジャンガは発展させていく。ゆくゆくはアザレア王国一の娯楽都市にするのが私の夢なのだ。平民も貴族も関係なく、誰もが楽しみ、笑いの絶えない都市を作る。それが私の理想なのだよ」

「へぇ……」


 その言葉に嘘偽りはない。子爵閣下は本気で、誰もが楽しめる都市を作ろうと考えているようだな。貴族はそんなに好きじゃないが、子爵閣下は好感が持てるぜ。


「ですがお父様、その……」

「くどいぞキサラ! 医療福祉は金がかかる、その割に使える機会は限られておろう。この大事な時期に余計な投資は出来ん! 世間の分からぬ娘が口出しをするな」

「うぅ……」


 子爵閣下に言い負かされ、キサラちゃんは黙ってしまう。やれやれ、こいつはいけねぇなぁ。彼女ってば、すっかり子爵閣下を恐がっているんだ。

 そんな弱気な姿勢じゃ、医師なんてとても務まらないぜ。

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