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13話 自分を謳歌できるのはこの一瞬だけ

 がるるの健脚であっという間に頂上へ着き、改めてジャックとご対面する。

 巨大な鎌を携えた、痩身のヤローだ。病院から抜け出してきたみたいな貧相な顔をしていて、ぼろっちぃローブを羽織った姿は死神みたいだぜ。レベルはせいぜい、83ってところかな。

 んでもって肝心のリサちゃんは、後ろ手に縛られて捕まっている。人質のつもりらしいな。


「てめぇがジャックか、ザナドゥ所属の幹部様かい?」

「そうだ。お前が我々に楯突いた隻腕の中年だな」

「ご名答。100点をくれてやるぜ、優勝賞品はビーフジャーキーでどうだ」

「歯に挟まったら大変そうだな」


「Wow、病弱なジャンキーのくせに、中々ジョークが通じる奴じゃないか。だがしけたクイズ大会するつもりは一ミリもねぇんでね、とっととその子を放しな」

「そうはいかん。大事な盾なのでな、このジャック、一切の油断はしない。こいつが居る限り貴様は攻撃できまい? 分かっているのだぞ、この女が貴様の大切な者だとな」


 言うなり、鎌をリサに突きつけた。


「飛空艇から見ていた、仲睦まじく歩いているのを。貴様の恋人だろう、そうだろう?」

「いやー分かる奴だなお前! 聞いたリサちゃん、俺達恋人に思われたんだって! って事でぇ後で一発ヤりにいこーよぉ♡」

「あんたねぇ! なんでこんな時にそんな悪ふざけが出来るのよ!?」


「そりゃあ、この俺様だからふざけられるんだよ。ってなわけだ、ジャックさんよ。俺様の大事な女に手を出して、無事で済むと思うなよ? 見ての通り、街には傷一つ付いてねぇ。彼女の大事なこの場所に、指一本も触れさせねぇよ」


「ならば貴様の四肢をもいだ後、ゆっくりと破壊してやろう。咥える指もなく、街が蹂躙される様を見ているがいい!」


 ジャックが手を翳すなり、俺様の影がうごめいた。

 影が刃となって襲い掛かってくる。「影操りの加護」とは珍しいな、【影魔法】が使える唯一の加護だぜ。


「小洒落た手品を使うじゃねぇか、結構エンターティナーだな」


 だが俺様を討つには遅すぎる、目を閉じていても避けられるぜ。

 影の刃を掻い潜り、リサちゃんを救出する。あとはがるるに投げ渡して、はい人質問題解決だ。


「がるる! ここからは俺様のソロパートだ、リサを特等席にご招待してくれ!」

—ばうっ!


 いい子だ、流石は俺様のパートナーだぜ。


「そのガンダルフ……この俺のペットになるはずだった獣だな」

「彼女は願い下げだとよ。いくら相手が獣でも、ナンパで女に乱暴するたぁ論外だぜ。後で口説き方でも教えてやろうか?」

「……許さぬ、許さぬ許さぬ許さぬ! 俺の物は全て俺の物だ! 俺の物を奪った貴様の命をもらい受ける! ザナドゥに手を出せばどうなるか、思い知るがいい!」


 ジャックは影の中にもぐりこんだ。すると奴は周囲の影からサメのように飛び出して、四方八方から攻撃を仕掛けてくる。


「しゃあっ!」


 俺様の影に奴の鎌が突き刺さった。そしたら、なんか体が動かなくなる。


「スキル【影縫い】だ! 影を縛り付けた今、貴様はもう動かん。その首を刎ねてくれる!」

「散髪にしちゃあ中々過激なサービスだ、だがデュラハンの嫁を取る予定はないんでね」


 自信満々に語ってくれて悪いな。こんな拘束、俺様にはしつけ糸みたいなもんだ。

 力づくで影縫いを解除し、ジャックの顔面を蹴り飛ばす。自慢のスキルを破られて驚いてらぁ。


「こんな前戯じゃサキュバスどころか処女の股も濡れねぇな、女を抱いた事ないのかい?」

「ぐ、くそ!」

「影に逃げ込もうってか? そうはいかねぇよ」


 光魔法で地面を照らし、影をなくしてやる。こうすりゃ自慢の影魔法も意味をなさないだろう?


「い、移動できない……影が使えない!?」

「影に潜らなきゃ戦えねぇ腰抜けが。その程度の覚悟しか持たねぇ屑に、この街を……リサの魂を渡すわけにはいかねぇな」


 彼女の宝に、泥一滴もつけやしねぇ。この街は彼女の魂その物、何人たりとも汚しちゃならねぇ聖域だ。

 そいつに土足で踏み込んだ、てめぇの愚かさを恨むんだな。


「ばかな……なぜ、なぜこのジャックが失敗する!?」

「ジャンクが詰まった頭で考えな。俺様からの宿題だ」


 リサがくれた右腕で、全力でジャックを殴りつける。鎌のガードもへし折って、顔面に拳が突き刺さった。

 激しくきりもみ回転して、ジャックが倒れ伏す。リサ渾身の最高傑作は、俺様の期待に見事応えてくれたぜ。


「さてと、生きているかい弱虫君」

「ぐ、ふっ……! き、さま……何者だ……?」


「俺様は賢者ハワード・ロック。この名を聞いて、分からないわけがないだろう?」


「ハワード……! バカな!? どうして伝説の大賢者が、こんなところに!」

「単独ライヴの公演依頼を受けたのさ」


 ジャックの胸倉を掴んで宣告する。お前にはメッセンジャーになってもらうぜ。


「このヘルバリアはハワードの縄張りだ、次に手を出してみろ? この俺様自らが乗り込んで、テメェらを叩き潰してやる。一字一句、間違えずに優しいパパへ伝えろよ?」

「貴様……! ザナドゥに喧嘩を売って、タダで済むと思うな。覚えているがいい!」

「OK、三歩歩くまでは覚えてやるよ」


 ジャックを解放するなり、影に沈んで逃げ出した。これでザナドゥの注意は俺様に向くだろう、今後ヘルバリアが襲われることもないはずだ。

 下の決着もついたみたいだし、完全勝利だな。


「おーい、下っ端どもは無事かー?」

「とりあえず生きてはいますよー」


 新婚夫婦みたいな乳繰り合いをしてくれるアマンダたんの傍には、ボッコボコにされた下っ端どもが転がっている。うーん、手加減してもあの有様か。敵ながら可愛そうになるぜ。


「ハワード……自分を囮に街を、守るなんて……」

「囮? 勘違いすんなよ、俺様はただ、俺様の女に手を出したジャンキーをスラムに送り返しただけさ。君は一切関係ない、いいね?」


「……どうして? どうしてそんなに身を削ってまで、私を守ろうとするの?」

「夜の帳で君の全てを眺めたかったからさ。それより見てみろ! ヘルバリアを。綺麗なままだろ?」


 リサを解放してやり、一緒に街を見渡す。彼女が大好きな街には、傷一つ付いていない。


「これでヘルバリアは、ザナドゥの恐怖から解放されたな。俺様に注意を集めた以上、この街が壊される事はない。これからも、この綺麗な景色はそのままだ。これで気兼ねなく夢をかなえられるんじゃないかい?」

「なんの事?」


 リサちゃんはしらばっくれるが、俺様に話している間、目が随分泳いでいたぜ。君は外の世界への好奇心を抑えきれていなかったからな。

 だが、それと同時に外の世界への恐怖もあったんだろうな。


 この街から出たらどうなるんだろう、恐い目に遭わないかな。自信のなさを、街を守るって言い訳を付けてごまかしていたのさ。

 だけどほれ、この通り君の言い訳は、俺様が木っ端みじんにしてやったぜ。


「さっき見た通り、この街が今後ザナドゥに狙われることはない。これで君は、心置きなく外の世界へ飛び出せるようになったな。行きたいんだろう、旅にさ」

「……うん。本当は私……旅立ちたかった。色んな世界を見て回りたいの。でも、大丈夫かな。外の世界に出て私、やっていけるかな?」


「Believe in yourself! 俺様と違って君は若いんだ。たとえ失敗しても、いくらでもやり直しが利く。なのに失敗を恐れて踏み出せないなんて勿体ないぜ。この賢者を見な、失敗を恐れているかい? 不安を感じているかい? むしろトラブルを楽しんでいるじゃないか。言い訳は人生を曇らせるだけだ、嘆く前にまず行動しなきゃ、何も始まらないぜ」


「なんか納得しちゃうな。なんで貴方の声って、胸に響くんだろう」

「簡単なことさ。なぜなら、俺がハワード・ロックだからだ」


 説得力のある決め台詞を聞いて、リサも目を細めていた。


「俺様は人生をいつも全力で楽しんでいる。俺様がハワードで居られる間に自分を謳歌しないと、勿体ないからな。同じように、君がリサ・ライアットを謳歌できるのは、今この瞬間だけだ。だから何も恐れるな。君だけの人生を、心の底から遊び尽くすんだ」

「……うん。それが、自分らしい生き方だものね」


 いい顔だ。つきものが晴れたような、すがすがしい笑顔になっているぜ。

 後にも先にも、自分で居られるのは一度きり。命尽きるその瞬間、暗い顔して後悔するより、明るい顔で満足する方が絶対いいに決まってる。


 だから、恐れず夢に飛び込みな。未来溢れる若人よ。

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