10話 氷の聖獣ガンダルフ
時折場所を変えながら魔物を狩り取り、俺様はスキルを多数手に入れた。
魔物を倒してスキルをお手軽入手とか、リサちゃん凄い腕をプレゼントしてくれたなぁ。
無数のスキルが並ぶステータス欄を見て、俺様はついつい笑ってしまう。このスキルの分だけ俺様はまたまた強くなったわけだもんな。
「この中で、気になるスキルはありますか?」
「ゴブリンから奪ったスキル、【テイム】だな。ゴブリンは馬や牛を捕らえて手懐ける習性がある、その時に使うスキルだろうな」
【テイム】は文字通り、動物を懐かせ、従わせるスキルだ。
こいつを使えば、適当な生き物を捕まえて旅の足に出来るな。最弱モンスターのスキルだが、侮れないスキルだ。
「これで適当な馬でも捕まえるか。アマンダたんも歩いて足がむくんだだろ? そのむっちりしたおみ足がよりむっちりして俺様好みではあるんだがね」
アマンダたんのスカートをたくし上げて触れてみる。この太い腿、柔らかくて辛抱たまらんねぇ。
「天誅!」
Oops! 顔面に斧直撃。額が割れるように痛いぜ。
「何許可なく触っているんですか。……足太いの気にしているんですよ?」
「あらまぁ乙女。でも需要はあるぜ、主に俺様に!」
「天誅!」
はい二回目の斧直撃。俺様は射的の的かよ、ど真ん中当てた褒美に飴ちゃんでもやろうかな。
「顔赤らめて、反応は可愛いんだけどねぇ。それはともかく、君のために足を用意してあげるよ。【テイム】があれば馬だろうと何だろうと手に入れ放題さ」
「ですが、肝心の対象が居ませんけど」
「マンイーターのスキル、【獲物サーチ】を使うのさ」
肉食植物マンイーターが、エサを見つけるために使うスキルだ。一定範囲内に居る捕食可能な動物を探し出す優れもんよ。
って事で、アマンダたんのおみ足を守る為に、【テイム】する動物を探しましょう。
「【獲物サーチ】」
おお、頭の中に動物や魔物の位置が入ってくる。そしたらその中に、妙な気配を感じた。
神秘的な空気を纏った、強大な気配だ。こいつは、この近辺に居る動物じゃねぇぞ?
「しかも、檻に入れられている?」
「どうされました?」
「こっちだ、来てくれ」
アマンダたんを連れて目的地へ急ぐと、滝が流れる小川に到着した。
その小川の中に、動物の入った檻が転がっていた。
青白い、もふもふとした毛皮を持つ、全長六メートルのライオンのような獣だ。獣の周囲には光の粒子が漂っていて、神秘的な空気を纏っている。
「こいつは驚いたな、ガンダルフじゃねぇか。どうしてこんな所に」
「氷の聖獣ガンダルフ!? 光臨教会の聖典でも幾度も題材に使われている、世界で最も美しい動物ではありませんか!」
この世界には聖獣と呼ばれる、超常の力を持った動物が存在している。
ガンダルフはその聖獣の一種だ。生息地は遥か北方のバラルガ山脈で、たった四百匹しか生存していない。美しい姿から魔王軍に目を付けられ、毛皮や観賞用に乱獲されたんだ。
そのせいもあって、非常に警戒心が強く、ここ数年は目撃情報もない。
それに遭遇しても、聖獣は凄まじい戦闘力を持っている。
ガンダルフもその例にもれず、レベル400を超える強大な力を持っている。強靭な肉体は蹴りで岩を破壊し、牙は鋼鉄をも粉砕し、さらには氷の聖獣の名の通り、強力な氷結魔法を使いこなす高い知能まで持ち合わせているんだ。
「人間に捕まえられるような生き物じゃないのですが、どうしてあんな……」
「ガンダルフは最大で三十メートルまで育つ。見た所、あいつはまだ子供みたいだな。レベル70ってところか? 無理すれば捕まえられるだろうよ」
「は、早く助けましょう。ガンダルフですよガンダルフ」
「分かってる。随分興奮してるねぇ」
「好きなんです、ガンダルフ。生きているうちに会いたいと思っていた動物で……もう感激です」
よっぽどガンダルフが好きなんだなぁ、目が輝いてるぜ。
急いで檻を引き上げて、格子をぶっ壊してやる。ガンダルフは酷く弱っていて、衰弱が激しく意識がない。それに足にはトラバサミを受けた傷跡、腹部には矢を受けた痕が生々しく残っている。それに、殴打の痕もだ。
……トラバサミで動きを止めた隙に、集団で集中攻撃したのか。それに傷口がふさがっているから、捕らえられてから大分時間が経ったみたいだな。
ひでぇ事しやがるぜ、いくら珍しい動物だからって、ここまで痛めつける必要はねぇだろうが。
「早く治療しないと……ハワード」
「わかってらぁ、って、おお?」
ガンダルフが目を覚ました。ガンダルフは俺らを見るなり飛び退り、牙をむき出しにして低く唸り、威嚇する。
この反応で、どんな目にあわされたか理解できるな。この分じゃエサもろくに与えてねぇだろ。
—ぐるるるる……!
ガンダルフの目には俺達に対する憎しみが浮かんでいる。恐いよな、酷い目に遭わされて、見知らぬ場所へ連れてこられて。
だけどよガンダルフ、そのケガで無理すんな。傷が深い、下手に動けば死ぬぞお前。
仕方ねぇ。多少手荒だが、勘弁してくれよ。
「【テイム】を仕掛ける、アマンダたんは治療の用意をしといてくれ」
「分かりました」
義手を握りしめ、歩み寄る。直後、ガンダルフが襲い掛かってきた。
咄嗟に左腕を突き出し、噛みつかせる。並の人間なら腕がビスケットみてぇに砕けているが、俺様なら耐えられる。
「【テイム】!」
ガンダルフの額に義手を押し付け、スキルを使う。掌から桃色の光が出るなり、ガンダルフの表情が落ち着いていく。
ただ、目は怒りに燃えたままだ。
「【テイム】をかけても、完全に屈服していないか。大した奴だよ、お前さん」
けどごめんな、こうでもしないとお前、動いちまうだろ?
「お座り!」
—ぐるっ
「伏せ!」
—ぐるるっ
「よしそのまま。アマンダたん、手伝ってくれ」
腹の傷を見ると、まだ矢じりが体内に残っている。このまま治療したら残っちまうな。
【転移】で矢じりを取り出し、回復魔法で傷を治す。だけど栄養失調で落ちた体力までは回復できねぇな。
「腹空いてるだろ、携帯食料だけど食べろよ。腹の足しにはなるぜ、栄養もある」
つっても、そのまんまじゃぱさぱさして食えねぇよな。水でふやかして柔らかくして、匙でゆっくり食べさせるか。
ガンダルフはしぶしぶと言った様子で食べ、飲み込んでいく。すると体が楽になったのか、目が見開いた。
魔法で栄養価を一気に高め、ついでに吸収しやすくしたんだ。これならすぐに体力も回復するぜ。
「私にできる事はありませんか?」
「体を撫でてくれ、メンタルケアもしとかないとな」
って事でアマンダたんが毛布をかけて、優しくさすってマッサージする。頑張れよガンダルフ、絶対助けてやるからな。
そう意気込んだ時、風切り音が聞こえた。咄嗟に飛んできた矢をキャッチする。
「おいおい、矢をつかみ取るとかなんだよおっさん」
「しかしここまで流されているとはなぁ。探すのに手間取っちまったよ」
振り向けば、にやけ面した男が十人、クロスボウを持ってやってきた。
「いやぁ参ったぜ、もうちょっとでヘルバリアだって時に、馬車が脱輪してガンダルフを落としちまうなんてな」
「けどおっさんらが保護してくれてたみたいじゃないか。いやぁありがとう、俺達のガンダルフを助けてくれて」
「いけしゃあしゃあとよく言うぜ、お前ら、密猟者だろ。お前らか。ガンダルフを痛めつけたのは」
「痛めつける? 違う違う、可愛がっていただけだよ。こんな可愛い動物にひどい目遭わせるわけないだろ」
「そうそう。まぁちょっと可愛がりすぎちゃったのもいたけどさ、二頭くらい」
……こいつら、他に捕まえたガンダルフを殺したのか? 自分達の想い通りにならないからって……。
「まぁ死体ははく製で高値で売れるし、有効活用させてもらうさ」
「俺達は仕事でガンダルフを運んでいただけなんだ。そいつは大切な物でね、最後の一匹なんだよ。どうかわたしてくれないかい?」
「あ、そう」
こいつらからは、ガンダルフを殺めた事になんの罪悪も感じない。ガンダルフをただの商品としか見ていない、最低の連中だ。
なら、遠慮する事はねぇな。
「あ? なんだよおっさ」
「てめぇら歯ぁ食いしばれ!」
密猟者全員をぶん殴り、徹底的に痛めつける。全員を縛り上げて拘束し、木に括りつけた。
「命を何だと思ってやがる、このクズ野郎。罪のない命を、自分勝手に奪いやがって」
「……あなた方に、生きる価値はありません……!」
アマンダも激しく怒っている。今回ばかりは、俺も許さねぇ。
だがこいつらを殺したところで、ガンダルフが救われるわけじゃねぇ。それに、こいつらを操っていた元締めもいるようだ。
そいつもとっちめなけりゃ、何の解決にもなりゃしねぇ。
「アマンダ、リサにも報告するぞ。密猟者の元締めが、ヘルバリアに居るようだからな」
「ええ、何としても捕まえましょう。ガンダルフの無念を晴らすためにも」
「待ってろよ、ガンダルフ。お前の仲間の仇、必ず倒してやるからな」
—……ぐるるるる……?
ガンダルフはつぶらな瞳で、俺様をみつめていた。




