幼少期編 03
月日は流れ、俺8歳になりました。2ヶ月後には試験です。
俺が受験予定の学校は、ここクロム王国の王都にある国立アカデミー。この国に国立の学校は全部で3つあるらしい。なぜこのアカデミーにしたかというと、唯一寮があるのであーる。全寮制じゃないけど。
両親には心配されたが、気にしない気にしない。確かに8歳には自立は早いかもしれんが、このぐらいの時に奉公に出たこともある。ノープロブレムだぜー。
さて、心配していた勉強だがなんとかなったわ。父さんはほっといて、母さんや近所の兄ちゃん姉ちゃんに教えてもらえた。
母さんって町の学校で結構成績上位だったらしい。うちで勉強会するのは楽しかったなあ。
俺はかなり記憶力がいいのである。勉強のほとんどは、暗記してしまえばこっちのもんだ。歴史とか特にそうだよな。一度覚えたことは忘れない自信がある。まあ覚える気がないと、どんな簡単なことでもすぐ忘れちまうけど。
試験のレベルがどれくらいか知らんけど…もう町の学校は卒業できると言われた(魔法以外)。特待生とはいえ、なんとかなるだろ。後は俺の機転次第だな。
「おにーちゃーん。」
「ん?どうした、マル。」
部屋で読書をしてたところにトテトテと寄ってきたこの女の子、俺の妹マルベリーである。現在4歳、超可愛い。
前世にもひとつ違いの妹がいたが…うん、あいつも小さい頃は可愛かったよ…。
妹って奴はさ、小さい頃はおにいちゃんって言って慕ってくれるんだ。ところが成長するとだんだん乱暴になるわ、いつのまにか呼び捨てされてるわ、「外で話しかけんな」とか言われるわ…。え、うちだけ?マジか…。
とにかくマルにはこのまま健やかに成長してほしいものです。
「ねえおにいちゃん。おにいちゃんは、おうちをでちゃうの?」
「試験に受かったらな。長期休みには帰ってくるし、心配するな?」
「うー。さみしい…。」
シャルトルーズに9999のダメージ!やっっべえ!うっかり「やっぱやーめたっ!」とか言いそうになっちまった!!
言わないけど。
「泣いたふりしてもダメだからな?」
「チッ…。」
舌打ちしおった…。まだ幼いというのに、すでにこの有様ですよ…。やっぱり[お兄ちゃん大好きな可愛い妹]はフィクションだったか…。いや、まだだ。まだ希望は捨てないぞ!
「さ、今日はどうする?本でも読もうか。」
「うん!マルもべんきょうするのー!」
マルを膝に乗せて、絵本を読み始める。母さんに似てくれたのか、マルも勉強は嫌いではないらしい。父さんに似なくて良かった…。いや、脳筋…ではなく体育会系の女の子っていうのもいいよね。
俺の将来の夢はまだまだ未定のままだが、少なくとも家族を守れる男になりたいと思っている今日この頃。
さて、早いもので明日はもう試験だ。これから王都に向かうわけだが、異世界なもんですっかり移動は馬車だと思ってた。
「これは…車…?」
そう。普通に車あった。魔動車だけど。しかも俺が今から乗ろうとしているのは、いわば高速バスのように途中で人を拾いながら長距離を目的地まで進む。
しかしこれは…
「どっからどうみても軽トラ…。」
なのである。それが大型バス並みの大きさだ。今早朝。予定では夕方までかかるはずだけど…ずっとこれ?うそん。どうりで荷物にクッション渡された訳だ。
「どうした?ああ、車を見るのは初めてだったか。町ん中は走ってないもんなあ。」
「うん…(いろんな意味で)びっくりした。ねえお父さん。これ、雨とか平気なの?」
「心配ない。魔法でドーム状に結界が張ってあるからな。雨風凌げるぞ。」
「おお!すっげー!」
安心した俺は荷台に飛び乗る。んー、田舎思い出すわー。
「じゃあ、言った通り私の弟が王都に暮らしてるから訪ねなさいね。迷わず行けるかしら?」
「大丈夫だよお母さん!〔キャロット〕ってカフェだよね?」
人参か。と名前を聞いた時は思ったもんだ。母さんは何日も前から、心配だわ心配だわと落ち着きがなかった。
「そうよ。停留所まで迎えに来てもらう予定だけど。」
「じゃあ心配いらないよねえ!?俺これに乗ってればいいんじゃん!」
「あ。それもそうね。」
アハハウフフと笑いあう家族に脱力する。…俺、無駄に気合入りすぎてたかも?思わず俺も笑ってしまう。
脳筋の父さん。少し抜けてる母さん。腹黒の片鱗を見せてる妹。それが今の俺の家族。
何度も転生していた以上、家族もその分いた。生まれてすぐに捨てられたこともあったが、今でも思い出せる。
特に前世の家族。13歳は早すぎたよなあ…。あんの海坊主め…。俺の妖力に惹かれたんだろうけど、許すまじ。あのままじゃ海の怪談になってそう…。
そんなこんなで早死にすることが多かったんだよなあ。だから、今回は長生きするぞ。絶対に親より先に死なねえ。稼いで楽させて、孫を抱っこさせてやる。
密かにそんな決意をしてるなど知らない家族は、俺が急に黙り込んでガッツポーズしているのを不思議そうに見ている。と、出発の笛が鳴る。
「おっとと…。じゃあ行ってくるね!」
「頑張れよ!!達者でな!」
「どんなに離れていても…応援してるからね!」
「おにいちゃああーん!」
みんな…。胸がジーンとする。泣くなよ、マル。他の乗客も涙ぐんでいる。側から見れば涙なしでは語れない家族の別離のようだろう。
こうして俺は生まれ育ったサラハの町を後にし、王都へと旅立つのであった。これからどんな出来事・出会いがあるのか、様々な期待を胸に抱き俺は前に進むのだ。
まあ試験終わったらすぐ帰ってくるけどね。