7-1
紙切れが降ってくる。
罪と償いの内容が記された指令書が、空からひらひらと降ってくる。
『罪状その69――世界的にヒットしたサンドボックス型のゲームで、大きな城を造ると豪語したのに城壁しか完成させず、エンディングも見ていない罪。
償いの条件――城を完成させてから、エンディングを見ること』
その現象だけを見れば、なかなかロマンチックな光景と言えたかもしれないが。
だがもちろん、俺の気持ちは少しもときめかない。
『罪状その76――戦時中の異国の地で傭兵として働きつつ、美少女たちと三年間過ごす恋愛ゲームで、ラブラブだったはずの女性がいきなり貴族と結婚したことにショックを受け、リアルで学校を休んだ罪。
償いの条件――ハッピーエンドを迎えること』
まさに問答無用の通告。
カナタは俺と話す気がない。だからこんな紙切れを送ってくるのだ。
『罪状その77――文芸部員としてドキドキの学校生活を送る無料ノベルゲームを、開始一時間で飽きてやめた罪。
償いの条件――エンディングを迎えること』
それでも俺は声をかけ続けた。
指令書はゲームをクリアした直後に忘れずに降ってくる。
だからきっと、どこかで俺のことを見ているはずなのだと信じて。
『罪状その85――映画の撮影をしながら四人ゾンビを蹴散らしていくゲームを買ったが、一緒にやる友達が集まらなかったことを理由にプレイしなかった罪。
償いの条件――全ステージをノーマル以上+全員生存でクリアすること』
マルチプレイが可能なゲームでは、
一緒にプレイしないかと懲りずに誘い続けた。
『罪状その92――チンパンジーとそのガールフレンドを交互に操作して、さらわれたゴリラを助けに行く横スクロールアクションゲームを、あまりの難易度の高さに泣きながらプレイした挙句、クリアできなかった罪。
償いの条件――泣かずにエンディングまでクリアすること』
しかし、カナタからの反応は一切なかった。
一方通行の手紙には、罪と償いの内容しか記されなかった。
『罪状その99――スニーキングアクションゲームの金字塔で、敵の拷問にすぐに屈し、ヒロインを死なせてしまった罪。
償いの条件――ヒロインと脱出すること』
ユーヤ君にできるのは償いの旅を進めることだけ。
カナタの突き放したような言葉が、脳裏に何度もよみがえる。
『罪状その108――水滸伝をもとにしたRPGで全ての仲間を集めなかった罪。
償いの条件――108人の仲間を揃えて真のエンディングを迎えること』
結局のところ、その言葉の通りだった。
俺にできるのは、さっさとこの旅を終わらせることだけ――。
『罪状その113――有名RPGシリーズ初のシミュレーションゲームで、強力な敵のリーダーと一騎打ちする直前で詰みセーブしてしまい、萎えてやめた罪。
償いの条件――味方ユニットを全員生存させた状態でクリアすること』
だから俺は、かつてないほどの気合と集中力をもってゲームに挑んだ。
立ちはだかるゲームたちを、親の仇のようになぎ倒していった。
『罪状その119――広大なオープンワールドに設置された一筆書きのパズルを、十パーセントしか解かずにやめた罪。
償いの条件――エンディングを迎えること』
……いや、実際は長く苦しい戦いを強いられる場面が多かったけれど。
気持ちだけは絶対に負けないよう、それくらいの意気込みで臨んでいった。
『罪状その127――復活したドラキュラを倒すため、悪魔の城の頂上を目指すゲームをプレイしたものの、終盤の難易度に心が折れてやめた罪。
償いの条件――ノーマルモードでクリアすること』
この旅を終わらせること。
それがアイツともう一度対話するための、唯一の方法だと信じて。
『罪状その134――ユニークなヒーローたちが六対六で戦う闇のゲームで、たびたび味方から暴言を吐かれ、ランクマッチから逃げた罪。
償いの条件――ランクマッチの認定結果から、ワンランク昇格すること』
そして、この償いの旅もいよいよ終盤。
残すゲームも、あとたったの二つにまで迫った――。