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彼方vsバザム

 彼方の瞳に、片手でロングソードを構えるバザムの姿が映る。


 ――バザムの強さはスピードとパワーだ。オーガのような人間離れした力があるわけじゃないけど、あのスピードと組み合わせると危険な相手なのは間違いない。


 彼方は間合いの一歩前で足を止めた。


 バザム両足を軽く開いて、腰を落とす。


「やっぱり、お前は戦闘慣れしてるな。異界で戦士でもやってたか?」

「いいえ。僕のいた異界の国は平和でしたから、まともな戦闘なんて、やったことはありません」

「…………ふーん。なら、異界の神の恩恵でも受けたか。たまにいるらしいな。異界人の中には、特別な武器やアイテム、能力を持った奴がな」

「まあ、そんなところです」


 彼方は言葉を濁した。


「でも、安心してください。その力を使う気はありませんから」

「俺程度には、か?」

「その通りです。あなたは自覚したほうがいい。上には上がいるってことを」

「そんなことは、わかってるさ。Sランクの冒険者は化け物揃いだからな。だが、お前はSランクじゃねぇ」


 バザムは大きく右足を前に出し、ロングソードを振った。

 アグの樹液に包まれた刃先が彼方の頭部を狙う。


 彼方は、その攻撃を自身のロングソードで受けた。

 彼方の体が数センチ横に移動する。


 ――やっぱり、パワーがあるな。武器を弾き飛ばされないように注意しないと。


 彼方はロングソードの柄をしっかりと握り締める。


「おらおらっ!」


 バザムはロングソードを振り回しながら、彼方との距離を縮める。


 彼方は後ずさりしながら、バザムの攻撃を受け続ける。


「どうした? 受けるばかりじゃ、俺を倒せないぞっ!」


 喋りながら、バザムは右膝を曲げて、低い体勢から彼方の足を狙う。


 その動きを予測していたかのように、彼方は左足を引く。


「これで終わりじゃねぇ!」


 バザムは右膝を一気に伸ばして、マジックアイテムのブーツで地面を蹴る。

 砂煙があがり、一瞬で彼方の側面にバザムが移動した。


 斜めに振り下ろされたロングソードを、彼方は地面を転がりながらかわす。


「ちっ!」と舌打ちをして、バザムは呼吸を整える。


「お前も猫耳と同じで逃げまくるタイプか?」

「一応、念を入れただけですよ」


 バザムから視線をそらさずに、彼方はゆっくりと立ち上がった。


「でも、これぐらいでいいかな」

「何がいいんだ?」

「あなたの底が見えたってことです」


 彼方は冷静な声で言った。


「あなたは僕よりスピードもパワーもある。でも、強いのは僕です」

「…………ほう。不思議なことを言うな。じゃあ、それを証明してもらおうか」


 バザムはじりじりと彼方に近づく。


「俺は何度も死線をくぐり抜けてきたんだ。数分間、俺と戦っただけで、俺の底が見えただと? バカな奴め」

「バレてますよ」

「はっ? 何を言ってる?」

「右足のブーツですよ。さりげなく、足の甲の部分に砂を乗せてますよね。それを僕にかけて奇襲するつもりなんでしょ」


 彼方の言葉に、バザムの頬がぴくりと動いた。


「…………どうして気づいた?」

「足の動きが、さっきとは違います。それに、あなたの性格からも、ある程度予想はできましたから。こういうことをやるタイプだってね」

「…………ちっ! バレたのならしょうがねぇな。素直に力押しでいくか」


 バザムは一気に彼方に近づく。


 彼方は右手でロングソードを構え、左手のこぶしを振った。


「舐めるなっ!」


 バザムは左手の攻撃を無視して、さらに突っ込む。その程度の攻撃は無視して構わないと考えたのだろう。


 その時、彼方の左手が開き、砂がバザムの目に入った。


「がっ…………つっ!」


 一瞬、バザムの視界が奪われる。


 彼方は低い姿勢から、ロングソードでバザムの足のすねを叩いた。

 ゴンと強い音がして、バザムの体が横倒しになる。


「ぐっ…………くそっ!」


 バザムは苦痛に顔を歪めながら、慌てて立ち上がる。


「てめぇ、いつの間に砂を?」

「さっき、あなたの攻撃を転がって避けた時ですよ」


 彼方は淡々とバザムの質問に答えた。


「卑怯…………なんて言いませんよね?」

「…………殺してやる!」


 バザムはぎりぎりと歯を鳴らして、彼方を睨みつけた。



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