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昇級試験4

「お前…………異界人か?」

「そうです」


 バザムの質問に彼方は答える。


「…………ふーん。名前は?」

「氷室彼方」

「彼方か…………」


 バザムは針のように目を細めて、彼方を見つめる。


「お前は、それなりにやるようだな。顔つきが他の奴らとは違うし、頭も良さそうだ。それにいい腕輪をつけてる。ネーデ文明のマジックアイテムのようだが、どこで手に入れた?」

「依頼人から、もらったんです」

「ほう。それだけの仕事をした経験があるってことか」

「そんなことより、先に僕と戦ってもらえますよね?」

「…………いーや。お前は最後だ」


 バザムは虫を追い払うように左手を動かした。


「どうやら、この中で、お前が一番楽しめそうだ」

「楽しめそう?」

「ああ。美味い肉は最後まで残しておいて食うタイプなんだよ。俺は」


 そう言って、バザムはロングソードの刃先をミケに向ける。


「さあ、さっさと終わらせるぞ。来いっ、猫耳!」


「にゃっ! ミケ、いきますにゃーっ!」


 ミケが短剣を構えて、バザムに攻撃を仕掛けた。


「うにゃあああ!」


 ミケはバザムの胸元のバッジめがけて、短剣を突く。

 その攻撃をバザムは余裕をもってかわし、ロングソードでミケの頭部を狙った。

 今度はミケが、その攻撃を避ける。


「おっ、予想よりも素早いな」


 バザムは蹴りでミケの足を狙う。

 ミケはジャンプして、バザムの背後に回り込む。


「悪くない動きだが…………」


 バザムは姿勢を低くして、右足で地面を蹴る。一瞬でミケの側面に移動する。


 ――マジックアイテムのブーツの能力か。


 彼方は唇を噛んで、バザムのブーツを見つめる。


 ――もともと、スピードは速いはずなのに、さらにマジックアイテムでスピードを強化している。これじゃあ、Dランクのレーネだって、バッジに触れるのは難しいはずだ。


「おらおらっ!」


 バザムは右手でロングソードを振り回しながら、左手の指先を、微かに動かす。

 ミケがロングソードを避けるタイミングに合わせて、左手でミケの頭部の耳を掴もうとした。


 その瞬間、ミケは両手を地面につけて、四つ足の獣のような動きで、バザムの周囲を回り出す。


「ちっ!」と舌打ちをして、バザムは金色の眉を眉間に寄せた。


「面倒くさい逃げ方しやがって」


 バザムは両手でロングソードを握り、大きく振りかぶる。


「これで終わらせてやる!」


 振り下ろされたロングソードの刃先が地面に突き刺さった。


「にゃっ!」


 ミケは体勢を崩したバザムの胸元に手を伸ばした。


「ダメだ。ミケっ!」


 思わず、彼方が叫んだ。


 ――これは、バザムの罠だ。わざと隙を見せたんだ。


 バザムは伸ばしたミケの手首を掴み、そのまま、地面に叩き落とした。

 砂埃が舞い、ミケの顔を歪む。 


「にゃ…………こ、降参…………」


 バザムの親指がミケのノドを突く。


「ぐうっ…………」


 ミケはノドを両手で押さえる。


 バザムは笑みを浮かべたまま、ミケの腹部を蹴り上げる。

 ミケの体が数メートル飛ばされた。


「降参します!」


 彼方は叫びながら、ミケに駆け寄った。


「ミケ、大丈夫?」

「…………にゃ」


 ミケは痛みに顔を歪めながら、口をぱくぱくと動かす。どうやら、上手く喋れないようだ。


 彼方はミケのノドと腹部を確認する。


 ――ノドは少し赤くなってるぐらいか。お腹も…………平気みたいだな。でも、リカバリーの呪文カードを使ったほうがいいか。


「…………だ、大丈夫にゃ」


 ミケがしゃがれた声で彼方の手に触れた。


「ミケ…………は…………医務室に行くにゃ。彼方の…………それは、とっておくにゃ」

「それなら、僕も医務室に行くよ」


 彼方はミケを抱き上げる。


「おい、待てよ」


 バザムが彼方の肩を掴んだ。


「お前は、ここにいろ!」

「イヤですね」

「イヤだと?」


 バザムの頬がぴくりと動く。


「ここからいなくなったら、昇級試験は失格にするぞ」

「いいですよ。昇級よりもミケのほうが大事ですから」


 彼方は抱き上げたまま、中庭の出入り口に向かって歩き出した。


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