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召喚カードの実力

「お前、どこから入ってきた?」


 モンスターはヘビのような目で魅夜を睨みつけた。


「…………彼方様」


 魅夜はモンスターを無視して、彼方に声をかける。


「これが、この世界のクリーチャーなのですか?」

「あ、う、うん。他にもいっぱいいるよ」

「リザードマンに近いタイプに見えますね」

「そうだね。そんな召喚カードもあったか」

「おいっ、俺を無視するな。お前もそのゴミといっしょに喰われたいのか?」


 魅夜の整った眉がぴくりと動いた。


「…………ゴミとは誰のことですか?」

「お前の隣にいる痩せた人間のことだ」


 モンスターは細く長い舌をちろちろと動かした。


「その男は魔力がゼロのゴミだ。俺たちの食糧以外に役に立つことはない」

「…………まれ」

「ん? 今、何と言った」

「黙れと言ったんです」


 魅夜の右の瞳が燃え上がる炎のように揺らめいた。


「これ以上、彼方様を侮辱することは許しません!」

「ふ、ふふっ、許さないだと?」


 モンスターが笑いながら、腰に提げていた剣の柄を握り、一気に斜めに振り下ろした。 頑丈な錠前が大きな音を立てて壊れた。


「そのゴミは明日の夕食だが、お前は今すぐに殺してやる」


 モンスターは格子を開けて、牢屋の中に入ってきた。


「殺す前にもう一度聞く。お前、どこから入ってきた?」

「彼方様に召喚されたんです」

「はっ、バカなことを言うな。魔力のないゴミに召喚呪文など使えるわけがない」

「…………三度目ですね」

「何がだ?」

「彼方様をゴミ扱いしたことがです」


 魅夜はスカートをたくし上げ、太股につけたホルダーから、漆黒のナイフを左手で取り出した。


「バカがっ! そんな小さなナイフで何ができる」


 モンスターは剣を片手で構える。

 その瞬間、魅夜が動いた。頭を大きく下げて、モンスターに近づき、斜め下からナイフを振り上げる。風を切るような音がして、モンスターの持っていた剣が右手ごと落ちた。


「…………あ、ああ」


 モンスターは驚愕の表情を浮かべて、青紫色の血が大量に流れ出す手首を凝視する。


「多少、力はあるようですが、スピードがいまいちですね。それに、自分の鱗を過信しすぎです。魔力を秘めた武器だと予想して行動しないから、こんなことになるんですよ」

「何で、こんなに血が…………」

「それが、このナイフの能力ですからね。すぐに体中の血がなくなりますよ」


 モンスターの顔が恐怖で歪んだ。


「ひ、ひいっ!」


 甲高い悲鳴をあげて、モンスターは魅夜に背を向けた。

 その動きに合わせて、魅夜の右手が動いた。手のひらからオレンジ色の光球が出現し、モンスターの背中に当たった。

 一瞬で、モンスターの体が炎に包まれる。


「ガアアアアアッ!」


 モンスターは前のめりに倒れて、すぐに動かなくなった。炎が消え、白い煙が周囲に充満する。


「なるほど。この程度ですか」


 魅夜はナイフについた血を払いながら、モンスターの死骸を見下ろす。


「どうやら、私たちと違って、死んだら終わりのようですね」

「殺した…………のか?」


 彼方は青白い顔で、倒れているモンスターに歩み寄る。

 モンスターの目は白く乾いていて、焼けた肉の臭いがした。


「はい。このクリーチャーは、彼方様を何度も侮辱しました。それだけで、万死に値しますから」

「…………」

「いけませんでしたか?」

「…………いや」


 彼方は首を左右に動かした。


 ――このモンスターはゲームのキャラなんかじゃない。ちゃんと意思があって、生きていたんだ。でも、この絶望的な状況から脱出するためには非情にならないと。


「問題ないよ。こいつは君を殺そうとしたんだし、僕も食糧にされる予定だった。情けをかけるような相手じゃない」


 彼方は両手のこぶしを強く握り締め、深呼吸を繰り返す。


「とにかく、ここから離れよう。他のモンスターがやってくるかもしれないし」

「あの程度のクリーチャーなら、何体いても問題ありません」

「油断しないほうがいい。もっと強いモンスターもいるから」

「強い…………ですか?」


 魅夜が首をかしげる。


「それは、どの程度なんでしょう? クリスタルドラゴンぐらいですか?」

「召喚カードとの比較は難しいよ。でも、ザルドゥと呼ばれてた魔神は相当強いと思う」

「たしかに魔神なら、注意したほうがよさそうですね」

「とりあえず、ここは鍾乳洞の中みたいだし、なんとか地上に出れば逃げられると思う」

「では、私が全力で彼方様をお守りします」


 そう言って、魅夜は深く頭を下げた。



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