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戦いの相手

「面倒なことになったな」


 隣にいたティアナールが彼方の耳元でささやいた。


「オリトール公爵の狙いは、実力ある私兵と戦わせて、お前の能力を知ることだろう」

「でしょうね」


 彼方はギルマール大臣と話しているオリトール公爵に視線を向ける。


――僕を見る目や発言からも、好意的って感じじゃないな。性格は冷静で慎重なタイプに見える。


「氷室男爵」


 エルフィス王子が彼方に歩み寄った。


「今日は楽しみだよ」

「楽しみ…………ですか?」

「ああ。ザルドゥを倒したお前の力を見ることができるのだからな」

「あなたは僕がザルドゥを倒したと信じているのですか?」


「まあな」とエルフィス王子は答えた。


「異界人の中には特別な能力やアイテムを持っている者がまれにいる。お前はその中でも、さらに特別な存在なのだろう。そうでなければ、希少な秘薬を使ったとしても魔神を倒すことなどできん」

「それなのにオリトール公爵の私兵と僕を戦わせるんですね」

「ヨム国の王子として、お前の実力を知っておきたいからな」


 エルフィス王子は青色と緑色の瞳で彼方を見つめる。


「気をつけることだ。模擬戦とはいえ、あの男は本気でお前を殺しにくるぞ」

「あの男? 僕と戦う相手を知ってるのですか?」

「ああ。お前の相手は千人殺しのリックルだからな」

「千人殺し?」

「そうだ。リックルはオリトール公爵の領地で暴れ回っていた盗賊集団八つ星のアジトをひとりで壊滅させた錬金術師だ」

「錬金術師と一対一で戦うんですか?」

「アレをただの錬金術師とは思わないほうがいい。アレは化け物だからな」


 その時――。


扉が開き、数人の兵士たちといっしょに十代半ばの少年が姿を見せた。

少年は金髪の巻き毛で瞳は紫色だった。身長は百五十センチぐらいで華奢な体型をしている。服はダークグレーで黒いマントを羽織っていた。


 ――あの少年がリックルか。


 彼方はリックルを観察する。


 ――錬金術師って回復薬やマジックアイテムを作ってる人のイメージがあるな。何度か見たことがあるけど、痩せていて研究者みたいな感じだった。


 ――でも、この少年は違う。歩き方がベテランの冒険者に近いし、戦闘慣れしてる。


 リックルは笑顔で彼方に近づいた。


「やぁ、君が氷室男爵だね?」


 薄い唇が動き、中性的な声が漏れた。


「僕は錬金術師のリックル。魔神殺しの英雄と戦えることになって光栄だよ」

「…………君もすごい実績があるみたいだね」


 彼方はリックルから視線を外さずに言葉を続ける。


「怖い二つ名をエルフィス王子から聞いたところだよ」

「あぁ。千人殺しか。あれはたいしたことないよ。僕の作ったマジックアイテムを使ってアジトごと焼いただけだから。直接手にかけたのは百人ちょっとだったと思うよ」

「…………それでもすごいと思うけど?」

「君の百分の一の実績だよ」


 リックルは首を傾けて、彼方の顔を覗き込む。


「…………ふーん。やっぱり君は強いね。これは殺しがいがあるなぁ」

「殺しがい?」

「うん。オリトール公爵から、そのつもりで戦えって言われててさ。そうでないと、君の本気が見れないだろ?」

「…………本気で戦っていいの?」

「もちろんさ。ここにいるみんなは、それを望んでるんだからね」


 リックルは両手を左右に広げた。


「異界の能力が、どのぐらい強いのか、楽しみにしてるよ。ふふっ」


 リックルは紫色の瞳を輝かせて、上唇を舌で舐めた。


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