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オリトール公爵

 二日後、彼方とティアナールは玉座の間にいた。


 正面の玉座にはゼノス王が座っていて、右隣には初老のゴード宰相、左隣にはエルフの血が混じったエルフィス王子がいる。


 彼方は正面に顔を向けたまま、視線だけを左右に動かす。


 ――周りにいる貴族の数は三十人ぐらいか。だいぶ前より減ってるな。服装と装飾品から、爵位が高い貴族が多そうだ。で、ギルマール大臣の隣にいる背の高い男がオリトール公爵だろうな。ティアナールさんが教えてくれた情報と合ってる。


 オリトール公爵は五十代で灰色の髪をオールバックにしていた。鼻の下にひげを生やしていて、鮮やかな青い服を着ている。


 ――ギルマール大臣と違って感情がわかりにくいな。


「氷室男爵」


 ゴード宰相が口を開いた。


「今回、貴殿を呼び出したのは我らに異界の能力を見せてもらうためだ」

「異界の能力…………ですか?」

「そうだ。貴殿はサダル国との戦争において、輝かしい戦績を残した。そして、真実の水晶の儀式で魔神ザルドゥを倒したことも証明された。称えるべきことではあるが、疑惑もあってな」


「その通りだ!」


 ギルマール大臣が大きな声で言った。


「氷室男爵。私は自分の間違いに気づいたのだ」

「…………間違いですか?」

「そうだ。お前には魔力がない。だが、異界の能力を持っていた。真実の水晶の儀式をごまかす能力をな」


「ギルマール大臣」


 ゼノス王が右手をあげた。


「まだ、そうと決まったわけではない。先走るな」

「はっ…………はぁ」


 ギルマール大臣は慌てて頭を下げた。


 ゼノス王は視線を彼方に向ける。


「さて、氷室男爵。我らの前で疑惑を晴らすつもりはないか?」

「…………異界の能力をここで見せるんですね」


 彼方の質問にゼノス王がうなずく。


「その通りだ。魔神ザルドゥを倒した呪文を見せてもらえれば、ギルマール大臣も納得するだろう」

「残念ですが、それはできません」

「…………できない?」

「はい。あの呪文には特別な秘薬が必要なんです」


 彼方はウソをついた。


「秘薬の量が少なくて、この場で見せるために使うのはちょっと」

「…………ほう。そういうことか」


 ゼノス王は口元にこぶしを寄せる。


「秘薬は、どのようなものだ? ある程度のものなら、こちらで用意するが」

「いえ。異界の素材なので、この世界では手に入らないんです」

「ふむ。それでは試しに使うわけにもいかぬか」


「氷室男爵…………」


 ギルマール大臣の隣にいた男――オリトール公爵が口を開いた。


「その呪文…………残り何回程使うことができるのかな?」

「…………それは言えません」

「言えない?」

「はい。秘薬がなくなったことが知られたら、僕や仲間に危険が及びますから」

「…………そうだろうな」


 オリトール公爵は観察するような目で彼方を見つめる。


「皆さん! これでお分かりでしょう!」


 ギルマール大臣が口角を吊り上げて、貴族たちを見回す。


「氷室男爵は理由をつけて、異界の能力を使おうとしません。つまり、魔神を倒せるような呪文などないのです」

「断言するのは、まだ早いだろう」


 オリトール公爵が低い声で言った。


「氷室男爵。私は君の実力を認めている。まったくの無能力ならば、サダル国との戦いで活躍することはなかっただろうからな。だが、その実力が過大評価されている可能性はあるのではないかと思うのだ」

「…………僕にどうしろと?」

「私の私兵と戦ってもらおう」

「私兵…………ですか?」

「ああ。実力はSランクレベルだが、問題はないな? なんせ、君はあの魔神を倒したのだから」


 そう言うと、オリトール公爵は鋭い針のように青い目を細めた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 散々国土を守てくれた相手にする態度じゃないよね? 国王もそこのところ理解してる? こんなの守ってやる必要ある?
[一言] いっそ、 「切り札見せた相手は例外なく皆殺しにしてるんですけど、よろしいので?」(※なお身内は除く) とでも言えばどうかなwww 冗談めかしたけど、実際切り札は秘匿するものだろうし……。そ…
[一言] 見せろと言われて奥の手を見せるわけないですよね。 これで別の国に行かれたらどうするというのか。 信じたく無い前提の人たちはこんなものかもしれませんが。 どうせなら爆弾アリさんでもけしかければ…
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