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王都の夜

 その日の夜、彼方は西地区の大通りでレーネと会っていた。


 レーネは十五歳のシーフでセパレートタイプの革製の服を着ていた。ショートボブの髪は黒く、瞳も黒い。


「ふーん…………」


 彼方の話を聞いていたレーネが壁に背を寄せて腕を組んだ。


「ダークエルフに有翼人ねぇ。ほんと、女に興味ないような顔して、仲間にしてるのは女ばかりじゃない」

「それは偶然だって」


 彼方はぎこちない笑顔を作る。


「二人はデスアリスから身を守るために、僕といっしょにいるだけだから」

「好かれてないって言いたいの?」

「うーん。嫌われてはないと思うよ」


 彼方は悩みながら答える。


「でも、恋愛的な意味で僕を好きってことはないかな」

「どうして、そう思うの?」

「元の世界で、何度か女の子に怒られたんだよ。『彼方くんは女の子の気持ちがわかってない』って」


 その時のことを思い出して、彼方は頭をかいた。


「ほんと、敵意のない女の子の心を読むのは難しいよ。ははっ」

「ははっ…………じゃないわよ」


 レーネが呆れた顔で彼方を見つめる。


「で、私に頼みたいことって何?」

「レーネを雇いたいと思ってさ」

「雇う?」


 レーネの目が丸くなる。


「うん。貴族になって、お金にも余裕ができたからね。君なら、領地管理の手伝いもしてくれるだろうし」

「…………もしかして、私のことを心配してるの? ティアナールがさらわれたから」


「そうだね」と彼方はうなずく。


「レーネと僕が仲がいいって情報は、ナグチ将軍に漏れてるはずだから」

「貴族でもないただの冒険者の私を狙ってくるかな?」

「可能性は高いと思ってる。だから、君には側にいて欲しいんだ」


 彼方は真剣な目でレーネを見つめる。


「ただ、僕たちといっしょに行動しても、安全とは言い切れない。直接、僕を狙ってくる手もあるから」

「でしょうね。向こうは将軍で、いくらでも部下を使える立場だし」


 レーネはため息をついて、頭をかく。


「…………そうね。あなたの近くにいるほうが安全だろうし、雇われてあげる。でも、ちゃんとお給料は適正金額でもらうからね」

「ありがとう、レーネ」

「お礼なんていいって!」


 レーネの眉が吊り上がる。


「私はミケたちと違って、仕事であなたと組むんだからねっ!」

「うん。わかってる」


 彼方は笑顔でうなずく。


「レーネはお金を欲しがってたからね。買いたい物がいっぱいあるんだろ?」

「…………そっ、そうよ。お金があれば美しくなれる果実も手に入るんだから」

「でも、それはレーネには必要ないよね」

「えっ? 必要ない?」

「だって、レーネは今のままでも綺麗でかわいいから」


 その言葉を聞いて、レーネの顔が耳まで真っ赤になった。


「あ…………あのさぁ…………」

「んっ? どうかしたの?」


 彼方は首を傾けて、レーネの顔を覗き込む。

 彼方の瞳にレーネの焦った顔が映る。


「もういいよ!」


 レーネは頬をふくらませて、彼方の胸を両手で押した。


「…………で、いつ、王都から出るの?」

「明日も用事があるから、明後日の夕方かな」

「じゃあ、それまでに、いろいろ準備しておくから」

「うん。よろしく頼むよ」

「それにしても…………」


 まぶたを半分閉じた目で、レーネは彼方を見る。


「彼方って、女の気持ちがわかってないよね」

「ええっ? レーネもそんなこと言うの?」

「今、確信したからね。あなたは女心が全くわかってないから」

「今って、どこがダメだったの?」

「…………自分で考えたら」


 レーネは彼方に背を向けて、歩き出した。


「あ、レーネ。裏通りや人の少ないところには…………」

「わかってるから!」


 レーネがいなくなると、彼方は右手で頭をかいた。


 ――どうして、レーネは怒ってたんだろ? かわいいって褒めたのに…………。 


「まあ、いいか。宿屋で七原さんに聞いてみよう」


 彼方は首をかしげながら、宿屋に向かって歩き出した。


 ◇


 二日後の夜、彼方、香鈴、ミケ、レーネはガリアの森の中にある小さな湖の岸辺にいた。


「ねぇ、彼方」


 レーネが彼方の袖を引っ張る。


「こんなところで何するの? ウロナ村まで馬車で移動すればいいのに」

「迎えが来る予定なんだよ」


 そう言って、彼方は夜空を見上げる。


「…………あ、気づいてくれたみたいだ」


 月明かりに照らされた雲の中から、飛行船が現れた。

 飛行船はゆっくりと下降して、湖の上に着水した。


「何…………これ?」


 レーネが口をぱくぱくと動かす。


「ネーデ文明の飛行船だよ。キルハ城で見つけたんだ」

「…………はぁ。こんなものまで手に入れてたなんて。国宝級のお宝じゃない」

「だから、見つからないようにしてるんだ。国に取られちゃうかもしれないし」


 彼方は笑いながら、甲板の上にいたニーアに手を振った。


 ◇


 彼方は操舵輪の隣にあるレバーに触れた。

 巨大な飛行船が、湖の水をしたたらせながら、ふわりと浮かび上がる。


「で、どこに行くの?」


 レーネが彼方に質問する。


「とりあえず、キルハ城の北にあるミフジ高地に行ってみよう。あの辺りは道が険しくて、軍隊は入りにくいらしいから」

「そうね。この船なら高地に直接降りられそうだし」

「じゃあ、出発するよ」


 飛行船はゆっくりと上昇していく。


 正面のパネルに広大なガリアの森が映る。


 ――ティアナールさんの情報によると、ナグチ将軍は五万以上の軍隊でウロナ村を攻めるみたいだ。ヨム国も金獅子騎士団を中心に五万以上の兵を集めるだろう。サダル国が本気なら、南の国境から、別の軍隊を動かして、全面戦争になる可能性もある。


 ――どこの世界にも、戦争はあるってことか。


 彼方は険しい表情を浮かべて、操舵輪を強く握り締めた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 口説いてる様にしか聞こえないのに無意識ってw フフフ…更に一人増えた [気になる点] 実際には学園長の大切な人の形見?を届けてくれた人に、一応の確認も取らずに弱いと思いながらも怪我するかも…
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