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模擬戦

 校舎に囲まれた裏庭に、スレッジは七人の生徒たちを集めた。


「では、授業を始める」


 スレッジは隣にいた彼方の肩を叩いた。


「彼は氷室彼方。Fランクの冒険者で異界人だ。彼に君たちの相手をしてもらう」


「Fランクぅ?」


 十代半ばの少年が、バカにした顔で彼方を見た。


「スレッジ先生、俺たちはリーフィル魔法学校の特待生だぞ。せめて、模擬戦の相手なら、Dランク以上にしてくれよ」


「そうだ、そうだ」


 周囲にいた生徒たちが声をあげる。


「Fランクじゃ、相手にならないって」

「ええ。しかも、その人…………魔力がないよね」

「…………みたいだな。そんな相手と模擬戦をやって、意味あるのか?」


 パンと両手を叩いて、スレッジは薄い唇を動かす。


「そんなセリフは、しっかりと彼方くんに勝ってから言いたまえ」


「Fランクなら、余裕で勝てますよ」


 金髪の少年が肩をすくめる。


「俺の魔力はCランクの魔道師より上って評価されたんですから」

「魔力量だけで、強さが決まるわけではない。それに君たちは模擬戦用の弱い呪文しか使ってはいけないルールになる。それを理解しているのかな? クレマンくん」


「もちろんです」と少年――クレマンが答えた。


「相手がFランクなら、三分以内に呪文を当てることができます。そうだろ?」


 他の生徒たちも自信ありげな表情を浮かべて、大きくうなずく。


「ふむ。ならば、君たちの実力を見せてもらおう」


 そう言って、スレッジは彼方に向き直る。


「というわけで、君には、うちの特待生と戦ってもらう」

「特待生…………」


 彼方は十代の特待生たちを見回す。


 ――男が五人に女が二人か。特待生に選ばれるってことは、みんな、素質があるんだろうな。


「安心したまえ。さっき話したように、彼らには弱い呪文しか使わせないから、死ぬこともない。まあ、多少の痛みはあるだろうが」

「多少の痛み…………ですか」

「もちろん、魔法医もいるから、安心するといい」

「はぁ…………」


 彼方は頭をかきながら、考え込む。


 ――まあ、これでリーフィルさんに会えるのなら、問題ないか。


 ◇


 彼方はスレッジから受け取ったロングソードを軽く振った。

 刃はアグの樹液に包まれていて、通常より少し重く感じた。


 ――模擬戦用のロングソードか。これなら、大ケガはしないな。


「さて、準備はいいかね?」


 スレッジが彼方に声をかける。


「…………スレッジさん。質問していいですか?」

「ああ、構わんよ。何だね」

「僕は勝っていいんですか?」

「勝てるのならね」


 スレッジは口角を吊り上げて、生徒たちを見る。


「彼らは若くて、実戦経験もないが、将来的にはAランク以上の魔道師になれる素質がある。悪いがFランクの君では絶対に勝てない」

「それなのに模擬戦をやらせるんですね?」

「午後から、本格的な授業をやるんだよ。その前に対人戦に慣れさせておきたくてね」

「そういうことですか」


 彼方は、ふっと息を吐いた。


 ――そんなもんだろうな。この人は僕を弱いと思って、模擬戦の相手をさせようとしてるんだし。


 ――それなら、わざとやられたほうが目立たないし、スレッジさんの機嫌も損ねないか。さくさく負けておいて、リーフィルさんに会わせてもらおう。


「では、クレマン。君が最初だ」


 スレッジが金髪の少年の名を呼んだ。


「おっし! 最速記録を作っておくか」


 クレマンは黒いローブの内側から紫色の小さな杖を取り出し、彼方に近づく。


「お前、名前は彼方だったよな?」

「うん。お手柔らかに頼むよ」

「安心しろ。模擬戦用の呪文だから、軽い火傷ですむし、それも回復呪文で、すぐに治してやる」

「回復呪文も使えるんだ?」

「まあな。俺たち特待生は、全員三属性以上の呪文を使えるし、珍しいことじゃないぜ」


 クレマンはくるくると紫色の杖を回す。


「せっかくだから、お前に教えてやるよ。魔道師の強さってやつをな」

「うん。勉強させてもらうよ」


 彼方は笑顔でクレマンに頭を下げた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] リーフィルに会いたいって言ったら突然じゃあ生徒の相手しろってなる展開、明確な理由がないしちょっと意味がわからない
[一言] 短い
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