ティルキルとイリナ百人長
ティルキルとサダル国の兵士たちは浮遊島の森を抜け、西の草原に到着した。
彼らの視線の先に、空に浮かぶ飛行船が見えた。飛行船は西に浮かぶ白い雲の中に消えていく。
「くそっ! 間に合わなかったか」
ティルキルは持っていたロングソードを強く握り締める。
――これで、氷室彼方に時間を稼がれる。何日か経てば、また、あのゴーレムやドラゴン、幼女魔道師を召喚できるようになるだろう。
「無意味に戦力を減らしてしまったか…………」
「ティルキル様っ!」
イリナ百人長が蒼白の顔をして、ティルキルに駆け寄った。
「イ、イゴール様が…………」
「イゴールがどうかしたのか?」
「しっ、死んでます」
その言葉にティルキルの両目と口が同時に開いた。
「イゴールが…………死んでる?」
「は、はい。先行した兵士がイゴール様の死体を見つけて…………」
「…………そこに案内しろ!」
ティルキルとイリナ百人長は風に揺れる草原を険しい顔で歩き出した。
◇
無数の『呪』の文字が刻まれたイゴールの死体を見て、ティルキルの眉間のしわが深くなった。
「イゴール…………まさか、お前が死ぬとは……な」
ティルキルはイゴールの死体に声をかける。
「やったのは氷室彼方か?」
「…………」
当然、イゴールの反応はなかった。
「マジックアイテムの武器を使ったんだろうが、剣技でイゴールを倒すとは…………」
イゴールの首筋の傷を見て、ティルキルは奥歯を強く噛んだ。
「氷室彼方め、俺の予想より、一つ上の強さだったか」
「くっ…………おのれっ!」
イリナ百人長が歯をぎりぎりと鳴らす。
「ギジェル千人長の仇を取れないのか…………」
「今はな。だが、安心しろ。氷室彼方は俺が殺してやる」
ティルキルは体を震わせている女騎士の肩を叩いた。
「奴はメルーサとイゴールも殺した。その報いは受けてもらう」
「どうか、私も手伝わせてください!」
「ああ。とりあえず、ナグチ将軍に連絡して、奴の行方を追うぞ」
その時――。
「イリナ百人長っ!」
若い兵士がイリナ百人長に駆け寄った。
「後方に腕が四本あるスケルトンの群れが現れ、兵士たちを襲ってます。数は約五十」
「スケルトンの群れだとっ! そんなモンスターはいなかったはずだぞ」
イリナ百人長の声が荒くなった。
「どこから現れた?」
「アンデッドの死霊使いが兵士の死体を使って、スケルトンを作っているようです」
「アンデッド? まっ、まさか!」
「ああ。氷室彼方の置き土産だな」
ティルキルが唇を歪めるようにして笑った。
「想定内とはいえ、本当に四体目を召喚してきたか。化け物めっ!」
「アッカ十人長、トルム十人長、セト十人長、硬鳥の陣を敷くぞ!」
イリナ百人長の命令に、兵士たちが慌ただしく動き出す。
「ティルキル様は…………」
「わかってる。俺はリーダーの死霊使いを狙う」
ティルキルは胸元から秘薬の入った円筒を取り出した。
「ここで、こいつを使うことになるとはな…………」
「きっ、きました!」
東の林から、スケルトンの群れが姿を見せた。
◇◇◇
【アイテムカード:異形の銅像】
【レア度:★★★★★(5) 味方である攻撃力300以下の闇属性のクリーチャーを強化する。具現化時間:24時間。再使用時間:10日】
◇◇◇
アイテムカード『異形の銅像』で強化されたスケルトンは四本の腕を動かしながら、ぞろぞろと林から出てくる。
そして、その後ろから、アンデッドの死霊使い――ガデスが現れた。
背丈は二メートル、眼球はなく、洞穴のような眼窩の奥に赤い光が見える。全身の骨は太く、左胸に赤黒い心臓が浮かんでいる。
◇◇◇
【召喚カード:死者の王 ガデス】
【レア度:★★★★★★★(7) 属性:闇 攻撃力:4400 防御力:1000 体力:2000 魔力:3500 能力:ガデスに殺された者はスケルトンとなる。召喚時間:8時間。再使用時間:20日】
【フレーバーテキスト:死者の王ガデスによって、アルの町は一夜にして死者の町となった。あの町に近づいてはならない】
◇◇◇
ガデスは右手に持っていた兵士の死体を放り投げる。
ゴボ…………ゴボ…………ゴボ…………。
兵士の死体が溶け、黒い霧とともに新たなスケルトンが生み出された。そのスケルトンの腕が異形の銅像の効果で四本になる。
「カカカッ」
ガデスは歯をカチカチと鳴らして笑った。
「我の名は死者の王ガデス。マスターの命により、お前たちを全員…………殺す」
地の底から響いてくるような声に兵士たちの顔が蒼白になる。
「怯むなっ!」
イリナ百人長が叫んだ。
「スケルトンごとき下位モンスターなど、我らの敵ではないっ!」
「ただのスケルトンならばな。カカカッ」
ガデスは細く長い骨の指を兵士たちに向ける。
四本腕のスケルトンが兵士たちに襲い掛かった。




