浮遊島の戦い
彼方は周囲に浮かんだカードから一枚を選択する。
◇◇◇
【アイテムカード:シルフの銃】
【レア度:★★★(3) 風属性の銃。風の精霊の力で遮蔽物を避ける弾丸を撃つことができる。弾は六発。具現化時間:5分。再使用時間:10日】
◇◇◇
銀色の銃身を持つ銃が具現化された。グリップは緑色で風の精霊シルフの姿が刻み込まれている。
彼方は混乱している兵士たちに銃口を向ける。引き金を引くと同時に銃声が響き、五人の兵士が次々と倒れた。
「何とか、間に合ったみたいだね」
彼方はミュリックに声をかけながら、シルフの銃で迫ってきた兵士を撃つ。
眉間に穴が開いた兵士が、大きく口を開いたまま、地面に倒れた。
「…………どっ、どうして?」
ミュリックは驚いた顔で彼方を見つめる。
「どうして、私を助けに来たの?」
「んっ? 何言ってるの?」
彼方は不思議そうな顔で首をかしげる。
「助けるのは当たり前だよ」
「でっ、でも、私はモンスターで、あなたのことを殺そうとしたし」
「もう、殺せないだろ」
彼方は笑って、ミュリックの金色の首輪に触れた。
「それに、今は君も僕の仲間だからね」
「…………モンスターでも関係ないの?」
「僕にとって、それはどうでもいいことだよ」
「どうでも…………いい?」
「重要なのは僕の味方か敵かだから。で、君は僕の味方だろ?」
「う…………うんっ!」
目のふちに浮かんだ涙を拭って、ミュリックは何度も首を縦に振る。
彼方は呪文カードを選択した。
◇◇◇
【呪文カード:リカバリー】
【レア度:★★★(3) 効果:対象の体力、ケガを回復させる。再使用時間:3日】
◇◇◇
白く輝いた右手をミュリックの体にかざすと、みるみると彼女の傷を癒やした。
「これで動けるかな?」
「え…………ええ」
ミュリックは立ち上がり、治った羽を軽く動かす。
「少し体が重いけど、なんとかなりそう」
「じゃあ、飛行船に戻ろう。みんなもそこにいるから」
そう言って、彼方は召喚カードを選択した。
◇◇◇
【召喚カード:不死の魔道師 リリカ】
【レア度:★★★★★★★★(8) 属性:水、火、地、風、光、闇 攻撃力:100 防御力:900 体力:1500 魔力:8000 能力:全ての属性の呪文が使える。召喚時間:5時間。再使用時間:20日】
【フレーバーテキスト:あれは幼女ではない。人なのに数百年生きてる化け物だ(魔法学者ミト)】
◇◇◇
九歳前後の少女――リリカが現れた。リリカは黒のとんがり帽子をかぶり、黒のローブをはおっている。胸元には七色に輝く宝石を使用したネックレスをつけており、右手には枯れ木のような杖を持っていた。
薄く紅を塗ったリリカの唇が開く。
「ほう…………サキュバスを加えての三人プレイか。しかも、野外とは…………。なかなか成長したではないか」
「違うよ。君の役目はサダル国の兵士を倒すこと」
彼方は淡々とした口調で、状況を説明した。
「ってわけで、よろしく頼むよ。それと、手強い敵も三人いるから気をつけて」
「手強い敵か…………」
リリカは小さな唇の両端を吊り上げる。
「それはそれで、面白そうじゃな。そいつらも殺していいんじゃろ?」
「…………できるのならね」
彼方が暗い声で言った。
「君が、Sランクのパーティーを倒してくれるのなら、僕も楽でいいから」
「お前は強者と戦いたいとは思わないのか?」
「思わないよ。この世界は対戦ゲームとは違うからね。死なない君たちの力で勝てるなら、それが一番いいよ」
「ならば問題はない。わらわが全ての敵を葬り去ってやろう」
リリカは薄く小さな唇をピンク色の舌で舐めた。
◇
リリカと別れて西の端に向かうと、飛行船が白い糸に包まれていた。
甲板の上にいる巨大な青黒いクモを見て、彼方は状況を察した。
――魔獣使いメルーサが操るモンスターか。
青黒いクモは八本の脚を動かして、ミケを追い回していた。
「ミュリックは休んでて!」
彼方は草原を駆け抜け、飛行船から垂れ下がった縄ばしごを素早く登る。
甲板の上には、エルメア、ニーア、香鈴もいた。
三人の目が彼方を見て輝く。
彼方は片膝をついた姿勢で、素早くカードを選択した。
◇◇◇
【呪文カード:ウインドストーム】
【レア度:★★★(3) 属性:風 対象に風属性のダメージを与える。再使用時間:3日】
◇◇◇
ヒュンヒュンと空気を裂く音がして、巨大なクモの体に無数の傷がつく。
「キシャアアア!」
クモは半透明の体液を噴き出しながら、尖った前脚を振り上げた。
彼方はクモの腹の下に移動して、新たなカードを使用する。
◇◇◇
【アイテムカード:神殺しの斧】
【レア度:★★★★★★★(7) オリハルコンさえも砕く最強の斧。相手の防御力を弱体化する。具現化時間:3時間。再使用時間:15日】
◇◇◇
赤紫色の刃を持ついびつな形の斧が具現化された。
彼方は体を捻って、神殺しの斧を斜めに振り上げる。
クモの腹部が大きく裂けた。
「ギュウウウッ!」
ぐらりとクモの体が傾いた。
彼方はクモの脚と脚の間をすり抜けて、八つの目を持つ頭部に神殺しの斧を叩きつけた。
グシュリと音がして、クモの頭部が真っ二つに割れる。
「…………ギュ…………グ…………」
クモの目が濁り、大量の体液が甲板を濡らした。
「彼方ーっ!」
逃げ回っていたミケが彼方に駆け寄った。
「待ってたにゃあああ。ずっと、待ってたにゃあ」
「うん。遅くなってごめん」
彼方は猫の耳が生えたミケの頭を撫でる。
「ミケが時間を稼いでくれたみたいだね」
「うむにゃ。ミケはがんがったのにゃ」
ミケは両手を腰に当てて、ぐっと胸を張る。
「彼方、まずいぞ」
エルメアが彼方に体を寄せた。
「クモの糸だらけで飛行船を動かすことができん。これでは逃げられないぞ」
「なら、僕が呪文で…………」
その時――。
「ギュアアアアアア!」
甲高い鳴き声をあげて、赤黒い鱗を持つワイバーンが姿を現した。
ワイバーンは大きな羽を動かして、甲板にいる彼方たちに襲い掛かった。




