飛行船
その船は木製で全長が二十メートル以上あった。幅は五メートル程あり、木の葉のような形をしている。舳先にはドラゴンの頭部の飾りがついていて、帆柱が二本立っていた。
「飛行船か…………」
彼方はゆっくりと船に近づく。
船は地面から五十センチ程浮いていて、四本の鎖で固定されていた。
――この世界に転移してから、飛行船なんて見たことがなかった。もしかして、これはネーデ文明の乗り物なのか?
「エルメア」
彼方は隣にいるエルメアに声をかけた。
「飛行船…………空を飛ぶ船って、この世界にあるの?」
「い、いや、そんなものはないはずだ」
エルメアは首を左右に振る。
「だが、ネーデの時代には空を飛ぶ船で移動したと聞いたことはある」
「…………なるほど」
彼方は親指の爪を唇に寄せた。
――たしか、前の領主の名前はクラーク伯爵だったな。彼が、この飛行船を見つけて隠していた可能性が高そうだ。
「船の中を確認しておこう」
彼方とエルメアは立てかけられたはしごを使って飛行船の中に入った。
甲板の上には三角形の屋根の家があった。
「ここが操縦室か…………」
彼方は警戒しながら、分厚い扉を開ける。
彼方の瞳に直径六十センチを超えた赤紫色の宝石が映った。
宝石は金色の台座に載せられていて、その台座から、植物のつるのようなものが絡み合った状態で床に繋がっている。
――この宝石…………船を浮かせる力を持ってるのか?
彼方は操縦室の中を見回す。
――ハンドルにパネルのような物もあるな。あ、階段から下に行けるのか。
彼方は腕を組んで考え込む。
――この飛行船…………ずっと隠されてたみたいだな。実際に飛行できるのなら、いろいろ役に立ちそうだ。
その時、ニーアが慌てた様子で扉から操縦室に入ってきた。
「彼方、大変。誰か、お城に入ってきた」
「誰かって、モンスター?」
「うん。すごく強そうなモンスター」
ニーアは両手を大きく広げる。
「…………わかった。とりあえず、城に戻ろう」
彼方は唇を強く結んで走り出した。
◇
地下の倉庫から出て城の一階部分に戻ると、半壊した扉の前に背丈が三メートル近いモンスターが立っていた。
モンスターはワニのような顔をしていて、分厚い体はダークグリーンの鱗で覆われていた。胴体の部分には無数の突起物がある赤黒い鎧を装備している。
モンスターの隣には二十代の女がいた。
女の肌は青白く、額に角が生えている。瞳は赤く、唇の両端から白い牙が見えていた。
――この二人…………強いな。特にワニのモンスターから、強いオーラのようなものを感じる。
彼方のノドが波のように動いた。
「…………エルメア、ミケとニーアを守ってて」
背後にいるエルメアに声をかけて、彼方はゆっくりとモンスターに近づいた。
ワニの顔をしたモンスターも巨体を揺らして、彼方に近づく。
二人の距離が五メートルになると、互いの足が止まった。
尖った歯が並ぶ口が開いた。
「お前が氷室彼方だな?」
「…………うん」
彼方はモンスターから視線を外さずに口だけを動かす。
「…………そうか。情報は正しかったようだ」
「君は誰?」
「俺はガラドス。お前が殺したザルドゥ様の四天王だった男だ!」
ガラドスは金色の瞳で、彼方を睨みつけた。