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金色のリザードマン

 そのリザードマンは背丈が二メートル五十センチを超えていた。肩幅が広く、長いしっぽが二つに分かれている。


 リザードマンは細長い舌をちろちろと動かして、エルメアに近づく。


「面倒をかけてくれたな…………エルメア」

「ダゴルド…………」


 エルメアが掠れた声でリザードマンの名を口にした。


「どうして、ここがわかった?」

「鼻の利く部下がいるからな」


 リザードマン――ダゴルドはトカゲのような顔を傾けて笑った。


「先に言っておくが、既に城の周りは俺の部下たちが包囲している。もちろん、弓が使える者もいるから、飛んで逃げることもできない」

「…………くっ」


 エルメアは短剣を構えて、ダゴルドを睨みつける。


「おっ、軍団長候補の俺と戦うつもりなのか。新人雑魚のダークエルフがよ」


 ダゴルドは鋭い爪が伸びた指を上下に動かす。


「お前程度なら、武器を使う必要もない。この爪で切り刻んでやる」


「ちょっといいかな?」


 無言で会話を聞いていた彼方が口を開いた。


「あぁ? エサは黙ってろ!」


 ダゴルドは赤い目を彼方に向ける。


「お前たちはエルメアを殺した後に喰ってやる。だから、そこでじっとしてろ!」

「僕たちを食べる気なの?」

「安心しろ。ちゃんと殺してから喰ってやる。お前らが大人しくしてるのならな」

「そっか…………」


 彼方は漆黒の瞳を動かして、ダゴルドの体を観察した。


 ――部下がいるのにひとりでここまで来るってことは、相当、腕に自信があるみたいだな。金色の鱗は硬そうだし、スピードもありそうだ。ただ、傲慢な性格のせいか、隙も多そうだ。


「えーと、僕たちを逃がしてくれる選択はないんだね?」

「当たり前だ!」


 ダゴルドは視線をエルメアに向けたまま、吐き捨てるように言った。


「お前が選べるのは、生きたまま喰われるか、死んだ後に喰われるかの二択だけだ」

「…………わかった。じゃあ、僕はエルメアにつくよ。殺されるのはイヤだしね」

「ちっ、うるさい奴め」


 ダゴルドは彼方に向き直る。


「そんなに早く死にたいのか?」

「いや、生きるためにそうするんだよ」


 彼方は腰に提げていた短剣を引き抜く。


「僕たち四人がかりなら、なんとか君を倒せるかもしれないし」

「…………ほう」


 ダゴルドが爬虫類のような目で彼方を見つめる。


「魔力なしの人間が大口を叩くではないか」

「へぇ、僕に魔力がないことがわかるんだね?」

「俺の目は特別でな。相手の魔力の量が見えるのさ」

「…………なるほど。それで余裕だったのか」

「バカな人間め。大人しくしてれば苦しまずに死ねたものを…………」


 ダゴルドは上半身を軽く曲げ、ゆらりと彼方に近づく。

 彼方はゆっくりと後ずさりしながら、右斜めにいるエルメアの位置を確認した。


「十秒で終わらせてやる!」


 ダゴルドは巨体に似合わない速さで彼方に近づき、左右の手を同時に動かした。

 彼方は右手の攻撃を短剣で受け止め、左手の攻撃を頭を下げてかわした。


「ちっ…………」


 ダゴルドはノコギリのような歯を鳴らして、大きく右手を振り上げる。


 ――この体を捻った動きは、しっぽでの攻撃を狙ってるな。


 振り下ろされた右手をかわしながら、彼方は両膝を曲げる。同時に大蛇の胴体のようなしっぽが彼方に迫ってくる。

 彼方はジャンプして、その攻撃を避けた。自身の足が床につくと同時に彼方は前に出て、短剣でダゴルドの腹部を突く。しかし、短剣はダゴルドの体に一センチも刺さらなかった。

 彼方は素早くダゴルドから距離を取る。


「剣の腕前は、ほどほどにあるようだな。だが…………」


 ダゴルドは細長い舌を出して、にやりと笑う。


「その程度の攻撃じゃ、血も出ないぞ」

「…………みたいだね」


 彼方は呼吸を整えながら、左に移動する。ダゴルドの後方にいるエルメアと彼方の視線が合った。


「エルメアっ! いっしょに攻めるよ!」


 そう言って、彼方は一気に前に出た。少し遅れてエルメアもダゴルドに攻撃を仕掛ける。


「雑魚どもがっ!」


 ダゴルドは右手を真っ直ぐに突き出した。尖った爪が彼方の短剣を弾き飛ばす。

 彼方の上半身が傾き、がくりと右膝が折れる。


「ダゴルドっ!」


 逆方向からエルメアが短剣を振った。しかし、ダゴルドの金色の鱗がその攻撃を弾く。


「無駄な攻撃をしやがって!」


 ダゴルドはエルメアに向かって、左右の手を振り上げる。


「これで終わりだっ!」


 その時――。


◇◇◇

【呪文カード:サイコレーザー】

【レア度:★★★★★★★(7) 属性:無 対象に魔法防御無効の強力なダメージを与える。再使用時間:15日】

◇◇◇


 青白い光線がダゴルドの左胸を貫いた。


「あ…………」


 ダゴルドは呆然とした顔で振り返る。そこには人差し指をダゴルドに向けた彼方が立っていた。


「こっ…………攻撃呪文だと?」


 ダゴルドは青紫色の血を噴き出しながら、ぱくぱくと口を動かす。


「あり…………えない。こんな強力な呪文を…………詠唱なしに…………」

「僕は魔力なしでも、呪文を使えるんだ」


 彼方は淡々とした口調で言った。


「君は強いけど、いろいろと甘いよ。短剣を弾き飛ばしたことで、僕から注意をそらすのはよくないな。まあ、それを狙ってたんだけど」

「ぐっ…………お前は…………誰だ?」

「僕は異界人の氷室彼方だよ」

「ひっ…………氷室彼方!」


 ダゴルドの目が限界まで開いた。


「君も僕のことを知ってたんだ。それなら、少しは気をつけるべきだったね」

「何故…………氷室彼方が…………こんな場所に…………」


 ダゴルドは喋りながら、前のめりに倒れた。大量の血が灰色の床に広がっていく。


「いろいろと事情があるんだよ」


 彼方は絶命したダゴルドを見下ろして、ぼそりとつぶやいた。


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[気になる点] >「へぇ、僕に魔力がないことがわかるんだね?」 「俺の目は特別でな。相手の魔力の量が見えるのさ」 強弱に関わらず初見のほとんどの敵対者とこのやり取りしてるから、魔力の有無の判断って子…
[気になる点] なぜ魔物どもは【氷室彼方は魔力を持ってないが特殊な力を持つ】 と知ってるのに魔力持ってない珍しい存在を前に油断できるんだろう? それも出てくる魔物のほぼすべてがw なぜここに?って常に…
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