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エルメアとニーア

 ――羽が生えた種族か…………。


 彼方はニーアの白い羽をじっと見つめる。


 ――華奢だけど、人の子供と同じような体型だし、これで飛べるのは不思議だな。ドラゴンもそうだし、魔力が関係してるのかもしれない。


「見ての通り、ニーアは有翼人(ゆうよくじん)だ」


 エルメアが隣に立っているニーアに視線を向ける。


「有翼人か…………」

「んっ? 驚かないのか?」

「僕は異界人で、この世界に転移してから半年も経ってないんだ」

「異界人…………あっ!」


 エルメアの金色の目が大きくなった。


「氷室彼方かっ!」

「うん。さっき、自己紹介したよね」


 短剣に手を伸ばしたエルメアに対して、彼方は両手を胸元まで上げる。


「剣は抜かないでくれると助かるな。なるべく戦いたくないし、君とは話し合いができると思ってるから」

「…………本当にお前は氷室彼方なのか?」


「うむにゃ」


 彼方の代わりにミケが答えた。


「彼方は彼方なのにゃ。しかも男爵でご機嫌がうるわしいのにゃ」

「意味不明だよ」


 彼方はミケに突っ込みを入れた。


「それだけ警戒するってことは、僕が魔神ザルドゥを倒したことを知ってるんだろ? それなら、僕と戦っても無駄だとわかるよね?」

「それは…………」

「それとも、君はザルドゥより強い力を持ってるのかな?」

「…………いや」


 エルメアの瞳から戦意が消えた。


「その通りだ。ザルドゥ様を倒したのがお前なら、私が勝てるわけがない」

「で、話を戻すけど、有翼人って珍しいの?」

「あ、ああ。最近はほとんど見かけない種族だからな」

「見かけなくなった理由があるのかな」


 エルメアは右手でニーアの髪の毛をかき上げた。ニーアの額にはピンク色の宝石が埋め込まれている。宝石は光に反射して、キラキラと輝く。


「これはパルム石だ。見ての通り美しい宝石で価値が高い。魔力も秘めていて、マジックアイテムを作る素材としても使われている」

「…………使われてるって、額の石を取るってこと?」

「そうだ。パルム石が取られれば有翼人は空を飛べなくなるし、生命力がなくなり、数週間で死ぬ」

「…………もしかして、君はニーアを誰かから守っているのかな?」


 彼方の言葉にエルメアは硬い表情でうなずく。


「パルム石を狙っているのはデスアリス様だ」

「四天王の一人か…………」

「ああ。そして私はデスアリス様の部下だった」

「部下だった?」

「…………今は違うがな」


 エルメアは両手をこぶしの形に変える。


「私は他の仲間といっしょに有翼人がいると噂された渓谷に向かい、両親の墓の前にいたニーアを捕らえた。その帰りにドラゴンゾンビに襲われたんだ」

「ゾンビ化したドラゴンだね」

「ああ。突然の襲撃で仲間は全員殺された。私も大ケガをして動けなくなった。その時、助けてくれたのがニーアだった。ニーアは必死に私を看病してくれた。額の石を奪って、ニーアを殺そうとしている私をな」


 エルメアのこぶしが小刻みに震え始めた。


「私はニーアを連れて逃げる決断をした。デスアリス様の追っ手と戦いながら、この廃墟の城まで逃げてきたんだ」

「…………そういう事情か」


 彼方はじっとエルメアを見つめる。


 ――エルメアの言葉にウソはなさそうだな。声や仕草にも違和感はないし、もともと、ウソをつく理由もない。


「事情はわかった。それで、これからどうするつもりなの?」


 エルメアは一瞬、上唇を噛んだ。


「…………追っ手にカカドワ山を超えて東に逃げたと見せかけ、南に行くつもりだった」

「それは止めたほうがいいかな」

「何故だ?」

「南からは、サダル国の軍隊が攻めてくるからだよ」

「なんだとっ!」


 エルメアの表情が険しくなった。


「サダル国とヨム国が争うのか?」

「うん。ガリアの森の西側は戦場になると思う。そしてパルム石が人にとっても貴重な物なら、君たちはデスアリスだけじゃなくて、人にも追われるだろうから。だから、逃げるとしたら、北のほうがいいかもしれない」

「北か…………」


「残念だが、逃げるのは無理だな」


 突然、男の声が聞こえてきた。


 彼方たちは声のした方向に視線を向ける。

 そこには黄金色の鱗に覆われた大柄のリザードマンが立っていた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 仲間が3人増えるのかな?
[一言] この追手っぽいリザードマン、かませになりそうな予感しかしない…w 味方の可能性もゼロじゃないんだろうけどね。
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