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草原の戦い

 王都ヴェストリアの南にある草原で、彼方とミケは三体のサソリのモンスターに囲まれていた。


 サソリのモンスターは体長二メートルを超えていて、赤黒い体をしていた。ハサミのような触肢はいびつに大きく膨らんでいる。頭部の中央には人の頭より大きな目があり、きょろきょろと瞳を動かしている。


 長い尾節を弓のように曲げて、サソリたちは彼方を威嚇する。


 彼方は周囲の状況を確認しながら、短剣を構えた。


 ――初めて見るモンスターだな。外見はサソリに似てるし、毒があると考えて動いたほうがいいか。


 サソリたちは六本の脚を動かして、ゆっくりと彼方に近づいてくる。


「一つ目サソリにゃ!」


 ミケがモンスターの名を叫んだ。


「硬くて強いモンスターにゃ。注意するにゃ!」

「わかった。ミケは下がってて」


 彼方は意識を集中する。

 三百枚のカードが彼方を囲むように現れた。その中から、一枚のカードを選択した。


◇◇◇

【召喚カード:お手軽武闘家 チュリン】

【レア度:★(1) 属性:地 攻撃力:1700 防御力:500 体力:600 魔力:0 能力:ネオ玉鋼で作られたかぎ爪を両手に装備している。召喚時間:5分。再使用時間:3日】

【フレーバーテキスト:5分あれば大抵のことはできるから。戦闘も恋愛もね】

◇◇◇


 彼方の目の前に十五歳前後の少女が現れた。少女は鮮やかなチャイナ服を着ていて、両手に鈍く輝くかぎ爪を装備していた。つやのある長い髪は茶色で瞳は赤かった。


 少女――チュリンは胸元で左右の手を交差させ、腰をぐっと落とす。


「五分あれば、なんでもできる! お手軽武闘家チュリン、やっちゃいます!」

「チュリン、サソリのモンスターを倒して!」

「おっと、戦闘のほうでの呼び出しね。任務把握っ!」


 チュリンは近くにいた一つ目サソリに突っ込んだ。一つ目サソリは右の触肢をチュリンに振り下ろす。その攻撃をチュリンは曲芸師のような動きで避け、一つ目サソリの脚をかぎ爪で斬った。関節部分から黄色い体液が飛び散る。


 ぐらりと傾いた一つ目サソリの頭部めがけて、チュリンはジャンプした。コマのように回転して、巨大な目玉を切り裂く。


「キュシュウウウ」


 一つ目サソリはバタバタを脚を動かして、あらぬ方向を攻撃する。


 ――硬いモンスターも目や関節を狙えば問題ないか。


 彼方は新たなカードを選択する。


◇◇◇

【呪文カード:魔水晶のジャベリン】

【レア度:★★★★★(5) 属性:地 対象に強力な物理ダメージを与える。再使用時間:7日】

◇◇◇


 青白く輝く半透明の槍が彼方の上空に出現し、別の一つ目サソリの目玉に突き刺さった。


 ――これで残り一匹!


 視線を動かすと、ミケは両手を地面につけて、一つ目サソリの脚と脚の間をすり抜けるようにして逃げ回っている。


 ――ミケも自分も役割をわかってるな。こうやって時間稼ぎしてくれれば戦闘が楽になる。後はカードなしでいける。


 彼方は短剣を握り締め、一つ目サソリに向かって走り出した。


 ◇


 王都ヴェストリアの西地区にある冒険者ギルドで、彼方は受付のミルカと話をしていた。

 ミルカは二十代のハーフエルフで丸いメガネをかけていた。髪は黒く白いシャツを着ている。


「…………それでは報酬のリル金貨六枚です」


 テーブルの上に王冠の絵が刻まれた金色の硬貨が六枚置かれた。


「たった二日で宝石クワガタを十匹も捕まえるなんて、お見事ですね」

「ミケが頑張ってくれたんです」


 彼方は笑いながら、隣に座っているミケの頭を撫でた。


「ミケは体が小さくて、狭い場所も探せますから」


「うむにゃ」とミケは薄い胸を張った。


「ついでにチャモ鳥の卵とポク芋も見つけたのにゃ。ミケは優秀なのにゃ」

「そっ、そうですね」


 ミルカはぎこちない表情で笑う。


「まあ、ミケさんのパーティーは依頼の達成率百パーセントですし、安心して仕事を頼むことができます」

「それなら、もっとお金がもらえる仕事を紹介するのにゃ。ミケたちなら、Eランクのお仕事だって、ばっちりやれるのにゃ」

「それはなかなか難しくて。依頼人の希望ですからねぇ」

「ううーっ、ミルカちゃんはいじわるにゃあ」


 ミケはぷっと頬を膨らませる。


「い、いえ。いじわるとかじゃなくて、そういう規則ですので」

「せちがらい世の中にゃ」

「まあ、次の昇級試験でEランクになるのが一番ですよ。そうすれば依頼の数も増えるし、報酬も上がりますから」

「わかったにゃ。次の試験では本気出すにゃ。ミケパンチも使うにゃ」


 ミケは上半身を揺らして、パンチを打つ動作をする。


 その仕草に彼方の頬が緩んだ。


 視線をテーブルの上に置かれたリル金貨に向ける。


 ――それにしても、クワガタ十匹で六万円か。危険な虫でもなかったし、悪くない仕事だったかな。帰り道に一つ目サソリに襲われちゃったけど。


 その時、ミルカの背後から黒い服を着た初老の男――タカクラが現れた。タカクラは西地区の冒険者ギルドの代表をしていて、異界人の血が混じっている。


「彼方様、少しよろしいでしょうか」


 タカクラは彼方に対して、丁寧に頭を下げた。


「どうかしたんですか?」

「先程、ゼノス王の使者から連絡が入りました。彼方様に城まで来るようにとのことです」

「ゼノス王が?」


 彼方の目が丸くなった。


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― 新着の感想 ―
[一言] こう、王城とか行くとなぜか無口になって自己主張しない、というか本音を話さずに変なこと優先するから、救国の英雄だ!とかで目立つのが嫌だとかいう理由がないなら、ザルドゥ倒したことを強引にでも主張…
[良い点] やはり「うむにゃ」は癒し
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