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密室にて

 玉座の間に隣接した小さな部屋の中に、ゼノス王、エルフィス王子、ゴード宰相、ギルマール大臣が集まっていた。


 部屋は正方形で、ガラスと光る石で造られた照明が窓のない四方の壁を照らしている。


「見事だったぞ、エルフィス」


 ゼノス王が口角を吊り上げて、息子の肩を叩いた。


「お前のおかげで、サダル国の使者に反論することができた。よく、あの異界人のことを覚えていたな」

「少し気になってましたから」


 エルフィス王子は端正な唇を動かす。


「あの男は詐欺師ですぞ!」


 ギルマール大臣がエルフィス王子に詰め寄った。


「奴は魔力がないただの異界人です。ザルドゥを倒せるわけがありません」

「そんなことはわかってます。氷室彼方はザルドゥが他の上位モンスターに殺されたところを目撃してたのでしょう」

「上位モンスターに? では、Sランクのティルキルがザルドゥを倒したわけではないと?」

「もちろんですよ」


 エルフィス王子は苦笑した。


「ザルドゥは災害レベルのモンスターを超えた魔神でした。奴を倒すには数万の軍隊とSランクの冒険者が二十人は必要でしょうね。そして、そのような大規模な戦闘が行われた形跡もない。つまり、タリム大臣の話したことはウソですよ」


「…………なるほど」


 白髪の老人――ゴード宰相が白いひげに触れながらうなずく。


「ヨム国の領土を手に入れるために、ザルドゥが死んだことを利用したのですな」

「その通りです。この状況はサダル国にとって好機ですから」

「ならば、こちらも準備せねばなるまいな」


 ゼノス王は歯をカチリと鳴らす。


「しかし、戦いとなると面倒ですぞ」とゴード宰相が言った。


「カカドワ山の西には町や村はなく、キルハ城も廃墟と化しております。領主のクラーク伯爵も亡くなっていますし」

「ならば、いい手があります」


 エルフィス王子が言った。


「異界人…………氷室彼方に爵位を与えるのです」


「なっ、なんですと!」


 ギルマール大臣が驚きの声をあげた。


「詐欺師に爵位を与えると言うのですか?」

「ええ。ガリアの森の西側の領地も」

「何故、そのようなことを?」

「サダル国と戦う理由作りと時間稼ぎですよ」


 エルフィス王子の口角が吊り上がる。


「カカドワ山の西側も我らの領地であり、今も領主が管理していると各国に伝えておくのです」

「それならば、由緒ある貴族を領主にするべきでは?」

「それは氷室彼方が死んだ後です」

「死んだ後?」


 ギルマール大臣が目をぱちぱちと動かす。


「氷室彼方はサダル国に殺されてもらいます」

「あ…………」

「ご理解いただけたようですね。魔神ザルドゥを倒した氷室男爵はサダル国によって殺された。その報復の為、我らは侵略してきたサダル国の軍隊と戦うのです」

「正義は我らにありというわけですな」


 ギルマール大臣がにやりと笑う。


「その通りです。そして、氷室彼方が殺される間に我らは軍備を整えることができます。すぐに戦争となると、ネフュータスとの戦いで疲弊している我らのほうが不利ですから」


「ふっ…………ふふっ」


 ゼノス王が口元に手を寄せて笑い出した。


「いいぞ、エルフィス。この件はお前にまかせる」

「おまかせください。侵攻の準備が整っているサダル国が有利ではありますが、最終的に勝利するのは、我らヨム国です」


 エルフィス王子は芝居を終えた演者のように、父であるゼノス王に一礼した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 功績を上げた後、その功績を信じない系の小説はたくさんありますが、このように見事な政治劇が行われているものは始めてみました。 作者の力量の高さが本当にすごいです! [一言] 昨日からファンに…
[気になる点] 氷室彼方に、即ばれる。
[一言] そうだね、彼方が本当にザルドゥを殺してて簡単に暗殺できるような相手じゃないってことを除けば完璧な作戦だね 検証すらしない辺りマジで無能だぞこの上位陣
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