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エルフィス王子

 オッドアイの男――エルフィス王子は吸い込まれるような笑みを浮かべて、薄い唇を動かす。


「私のことをご存じのようですね」

「…………え、ええ。もちろん」


 タリム大臣の頬が痙攣した。


「まあ、使者としてヨム国に来たのなら、王子の外見ぐらいは知っているのは当然でしょうね。私はこの通り、特徴ある目をしていますから」


 エルフィス王子は左右で色が違う自身の瞳を指さす。


「と、私のことなど、どうでもいいですね。今はガリアの森の話でしたか」

「エルフィス王子は私の言葉に異論があるようですな」

「一部は認めますよ」

「一部…………ですか?」


 タリム大臣は自分よりも数十センチ背が高いエルフィス王子に鋭い視線を向ける。


「どこが気になるのでしょうか? 愚かな私にわかりやすく説明していただければ助かりますが」

「ザルドゥがガリアの森の西側を支配していたのは事実でしょう。ただ、ザルドゥを倒したのは、あなたたちではありません」

「…………はぁ?」


 タリム大臣は目をぱちぱちと動かした。


「サダル国の正式な使者である私の言葉がウソと言われるのですか?」

「あなた方には動機がありますからね。ガリアの森を手に入れるという強い動機が」

「では、誰がザルドゥを殺したと? 四天王の誰かとでも言うのですか?」

「いえ、ザルドゥを倒したのは異界人ですよ」


 エルフィス王子は周囲にいる貴族たちを見回す。


「実は数ヶ月前に、この場所でザルドゥを倒したと話す少年が現れたのです」


「あ…………」


 ギルマール大臣の口が大きく開く。


「最初は誰も少年の言葉を信じませんでした。それはそうでしょう。あのザルドゥを人が倒せるとは思いませんから」

「…………そのようなウソを私が信じるとでも?」

「ウソだと思うのなら、貴族の皆さんに聞いてみてください。あの時、この玉座の間にいた子爵や男爵は何十人もいますから」


 エルフィス王子は目を細めて微笑する。


「タリム大臣もご存じでしょう。異界人の中には、ごくまれに特別な能力や武器を持つ者がいることを」

「それは知っておりますが、ザルドゥを倒せるような力を持つ異界人など、いるはずがありません」

「ですが、彼はザルドゥが死んだことを知っていました。あなた方の発表よりも早く」


 エルフィス王子は何かを喋ろうとしたギルマール大臣を手で制した。


「実は、その異界人に恩賞を与えようと王やゴード宰相と話していたところなんです」


 息子であるエルフィス王子の意図に気づいて、ゼノス王は僅かに首を縦に動かす。

 エルフィス王子はゼノス王と視線のやりとりを終え、タリム大臣に向き直る。


「というわけで、私はあなた方がザルドゥを倒したという情報に疑念を抱いているのですよ」

「…………ほう」


 タリム大臣の瞳が暗く輝く。


「誰もが知っているSランク冒険者のティルキルよりも、その異界人の言葉を信じると?」

「ティルキル殿の実力は信じていますよ。災害レベルのモンスターを何体も倒した英雄ですから。ただ、彼はサダル国の出身で奥方はダリエス王の姪でしたよね。となると、信憑性が薄くなります」

「ただの異界人の言葉より…………ですか?」

「もし、疑われるのであれば、その異界人とティルキル殿に真実の水晶を使ってみましょうか。どちらの言葉が真実かわかると思いますが」

「…………バカな。Sランクの英雄に対して、真実の水晶を使うなどありえん!」


 タリム大臣は吐き捨てるように言った。


「ティルキルに巫女の前で血を流させるつもりですか」

「これは失礼しました」


 エルフィス王子は丁寧に一礼する。


「…………ただ、あなたの態度から、いろいろと察することもありました」

「何を察したと言うのです?」

「いえ、真実の水晶など使わなくても、わかる真実はあるってことですよ」

「私が…………サダル国がウソをついていると言いたいのですか?」

「私の考えなど、どうでもいいでしょう」

「どうでもいいですと?」 

「ええ。問題は、どっちが真実か…………いや、どちらを信じるかでしょうね。ヨム国なのか。それともサダル国なのか…………」


 エルフィス王子の青色と緑色の瞳が暗く濃くなった。


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― 新着の感想 ―
[一言] いや、真実の水晶とかそんな便利なもんあるんやったら、魔神討伐とか言う世界レベルの出来事やし使えよ…いろんなタブーとか無視できる案件やろ…
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