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タリム大臣

 城の四階にある玉座の間には、多くの貴族たちが集まっていた。数十本の巨大な柱の側には鎧を着た兵士たちが並んでいて、玉座にはヨム国の王であるゼノスが座っている。

 外見は五十代前半で、体格が良く、頭の上には金色に輝く王冠が載せられている。


 ゼノス王の前には、樽のような体型をした男が片膝をついていた。

 男は五十代前半で背が低く、分厚い唇が左右に広がっている。


「タリム大臣」


 ゼノス王は男の名を口にした。


「ダリエス王からの親書を持ってきたと聞いているが…………」

「その通りでございます」


 タリム大臣はにんまりと笑った。


「この度は四天王ネフュータスの軍隊を全滅させたと聞きまして、さすがヨム国が誇る騎士団の皆様ですな」


 並んでいる騎士たちを見回して、タリム大臣はパンパンと拍手をする。


「見事なものです。これならば、残りの四天王、ガラドス、ゲルガ、デスアリスも恐るるに足らずですな。魔神ザルドゥも我らが倒しておりますし」


 その言葉に、ゼノス王の眉が動いた。


「魔神ザルドゥを倒した?」

「おや、ご存じありませんでしたか」


 タリム大臣は大げさに驚いた顔をした。


「ザルドゥを倒したのは、我らサダル国の精鋭部隊とSランクの冒険者たちです」


「タリム大臣!」


 ゼノス王の隣にいた初老の男――宰相のゴードが口を開いた。


「それは本当のことでしょうか?」

「もちろんです。五の月の半ば、サダル国の精鋭部隊はザルドゥの迷宮に潜入し、油断した魔神をSランクの魔法戦士ティルキルが討ち取ったのです」


 タリム大臣は誇らしげに両手を左右に広げる。


「その後、モンスターどもは仲間割れを始め、ザルドゥの国は滅びたのです」

「ザルドゥの国?」

「カカドワ山の西側のことです。この数十年、ザルドゥはその地域を支配していましたからなぁ」

「…………」

「おや、気づかれたようですね。ゴード宰相」


 タリム大臣は短い足を動かして、ゴード宰相に歩み寄る。


「ザルドゥを倒し、ザルドゥの国を滅ぼしたのはサダル国です。当然、その土地はサダル国のものでしょうな」


「バカなことを言うなっ!」


 前に彼方を詐欺師扱いしたギルマール大臣が叫んだ。


「ガリアの森は我々ヨム国の領土ではないかっ!」

「それは数十年前の話でしょう」


 タリム大臣は肩をすくめる。


「ヨム国はザルドゥにガリアの森の半分を奪われました。そして、そこにヨム国の国民は誰も住んでいない。違いますか?」

「そっ、それは…………」


 ギルマール大臣は、ぱくぱくと口を動かす。


「この事実からも、カカドワ山の西側の土地がサダル国のものであることは明白であります」


「それが親書の中身か?」


 ゼノス王が低い声でつぶやく。


「その通りでございます」


 タリム大臣は、うやうやしく頭を下げる。


「魔神が支配していた土地とはいえ、過去にはヨム国のものだったことも事実。ならば、伝えておくのが筋というものですから」

「それを我らが認めると思っているのか?」

「認めないのであれば…………よくない未来が待っているでしょう」

「サダル国には、それだけの覚悟があるというわけだな?」

「…………」


 タリム大臣は言葉を発することなく、もう一度、頭を下げる。


 数十秒の沈黙の後、ゼノス王が玉座から立ち上がった。


「サダル国…………ダリエス王の考えはわかった。だが、それを納得することはできぬ。カカドワ山を囲むガリアの森は、二百年以上前から、我らヨム国の領地だ」

「…………どのような理由で、でしょうか?」


 タリム大臣が上目遣いに長身のゼノス王を見上げる。


「北の大国イリューネも公式の文章でガリアの森の西側を魔神ザルドゥの支配する土地と記しております。ニムロス国にも同じような記載がありますな」

「それは…………」


 ゼノス王の言葉が途切れる。


「ヨム国の王として、この事実を認めたくない気持ちはわかります。ですが、正しきはサダル国の大義。イリューネ国とニムロス国も我らに同意するでしょう」


 広い玉座の間の空気が冷えた。

 貴族たちの顔が強張り、青ざめた唇が小刻みに震える。


 その時――。


「お待ちください!」


 二十代後半の男が、タリム大臣に歩み寄った。

 男は背が高く、すらりとした体格をしていた。髪は金色で肌は白い。左右の耳が僅かに尖っていて、エルフの血が混じっていることがわかる。そして、男の瞳は右目と左目で色が違っていた。

 男は緑色と青色の瞳でタリム大臣を見つめる。


「…………あなたは…………エルフィス王子」


 タリム大臣の表情が僅かに険しくなった。


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